売買前に必ず知っておきたい沖縄不動産の三つの注意点

多田進吾

多田進吾

テーマ:不動産制度


先日、宅建業者向けの法定研修に参加してきました。私は定期的に研修へ足を運び、法改正や不動産実務の最新情報をアップデートするようにしています。今回の研修では、盛土規制や水害対策、そして沖縄で特に注目されている重要土地等調査法など、オーナー様が購入前に知っておくべきポイントが改めて整理されていました。

沖縄の土地は地形や成り立ちが本土とは大きく異なり、私が沖縄で不動産・民泊の相談を受けるなかでも、契約前に少しの知識があれば防げるトラブルが多いと感じています。そこで今回は、売買契約の前にオーナー様へぜひ知っておいてほしい3つのテーマを、できるだけ分かりやすくお伝えします。



出典:沖縄県公式サイト「建築行政・土地関連情報」
https://www.pref.okinawa.jp/machizukuri/kenchiku/1013447/1031028.html

【1. 宅地造成及び特定盛土等規制法】
沖縄で土地を探すと、きれいに造成された高台の区画や盛土によって形成された土地が多く見られます。一見すると整っていて買いやすそうに見えるのですが、実は最も注意が必要なのがこの「造成地」や「盛土の土地」です。

盛土規制法は、盛土や造成が原因となる事故を防ぐために全国で規制を強化している法律です。しかし、オーナー様にとって本当に重要なのは、法改正の細かい内容そのものよりも、契約前に“どこを見るべきか”を理解しているかどうかです。

一般的にも、造成地では次のようなトラブルが起きることがあります。
・擁壁はきれいでも、裏側の排水が詰まっている
・造成が古く、地耐力調査が実施されていない
・強い雨の影響で赤土が流れ込み、建築計画が中断する
このような場合、売買契約後に追加工事が必要となり、結果的に数百万円の費用が発生することもあります。

特に沖縄の赤土は水を含むと一気に緩くなる特徴があり、盛土の質によっては土地そのものの安全性に大きく影響します。

売買契約前にオーナー様が必ず確認しておきたいポイントは以下の4つです。

・擁壁に亀裂や膨らみがないか
・雨水がどこへ流れる設計になっているか
・造成がいつ、どの業者によって行われたものか
・地盤調査が実施されているか、その書面はあるか

これらは、購入後の安心につながる非常に重要な要素です。
「造成がきれいだから大丈夫」という判断は、沖縄の土地ではおすすめできません。



出典:国土地理院「重ねるハザードマップ(防災情報ポータル)」
https://disaportal.gsi.go.jp/

【2. 水害ハザードマップ】
売買契約で必ず説明されるようになったのが、水害ハザードマップです。沖縄は台風の通り道であり、地域によっては高潮・内水氾濫・河川氾濫など複数のリスクが重なることもあります。そのため、オーナー様にとって「水害リスクの正しい理解」は欠かせません。

しかし、現場でよく感じるのは、ハザードマップの“色だけ”で判断してしまう方が非常に多いということです。赤だから危険、青だから安全という判断は、実務ではあまり意味を持ちません。

大切なのは次の3つです。

・どれくらい浸水する可能性があるか(浸水深)
・どの方向から水が来るか(地形と水の流れ)
・どこへ避難できるか(ルートの確保)

これらが分かっていれば、たとえハザードで色がついている場所でも、適切な対策を講じれば問題なく活用できる物件は多くあります。

例えば、一般的な例として、
・床を高く設計すれば浸水リスクを軽減できる
・外構の排水設計を変えることで冠水を防げる
・非常時の避難動線を確保すれば運用が安定する
といった対応策が挙げられます。

また、水害リスクを理解していると、売買交渉にも役立つ場合があります。
「リスクは理解して対策できる。だから適正価格で買いたい」
という交渉の仕方ができるからです。

水害ハザードは、危険かどうかではなく、
どの程度のリスクで、どこまで対策できるか。
この視点が売買時には非常に重要です。



出典:内閣府「重要土地等調査法に基づく特別注視区域図(那覇市)」
https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/kuiki/tokubetsuchushikuiki/okinawaken/nahashi/doc/zenikizu.pdf

【3. 重要土地等調査法】
最後に、名前はよく聞くけれど内容が分かりにくい、重要土地等調査法についてお話しします。

正式名称は少し長く、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」といいます。目的は一言でいえば、安全保障上大切な施設や国境離島の機能を妨げるような土地利用を防ぐことです。

もう少しかみ砕いて言うと、
「基地や空港などのそばで、その機能を邪魔するような使い方をされないように、国が区域を決めて土地の利用状況を確認する仕組み」
というイメージです。

この法律では、
・防衛関係施設や一部の空港、原子力関連施設などの周りおおむね1,000メートル以内のエリア
・国境離島などのエリア
を、「注視区域」または「特別注視区域」として指定できることになっています。

国は、これらの区域内で
・どんな人が土地や建物を持っているのか
・どのように使われているのか
を調査し、その結果、もし施設の機能を妨げるような行為があれば、その利用をやめるよう勧告・命令ができる、という仕組みです。

さらに、「特別注視区域」に指定されたエリアでは、一定規模以上(原則200平方メートル以上)の土地や建物について所有権を移転する契約を結ぶとき、事前に国への届出が必要になる場合があります。ただし、この届出は「取引そのものを禁止するものではない」と明確にされています。

沖縄はご存じの通り、基地や自衛隊施設、空港、港湾などが集中している地域です。そのため、全国の中でも比較的、対象区域が指定されやすいエリアと言えます。実際に、一部の市町村では、すでに「注視区域」や「特別注視区域」が告示されているケースも出てきています。

では、オーナー様にとって何が大事かというと、ポイントは次の三つに絞られます。

一つ目は、
「検討している土地や建物が、注視区域や特別注視区域に入っているかどうか」を知ること。
これは、重要事項説明書での説明や、内閣府のホームページにある「重要土地ウェブ地図」などで確認できます。

二つ目は、
「もし区域内だった場合、自分の予定している用途に何か影響があるのか」を考えること。
一般的な住宅利用や、通常の宿泊施設・民泊運営であれば、いきなり使えなくなるということは考えにくいですが、将来、事前届出が必要になる可能性などは把握しておいた方が安心です。

三つ目は、
「知らないまま契約して、後から不安を抱え込まないこと」。
この法律は、内容を知っていれば必要以上に怖がる必要はありませんが、逆にまったく知らないまま購入してしまうと、「この場所は大丈夫だったのだろうか」とずっと心配を引きずることになりかねません。

大事なのは、
・区域に入っているのか、いないのか
・入っているなら、どんな影響があり得るのか
を、売買契約の前にきちんと確認しておくことです。

そのうえで、利用計画や出口戦略(将来の売却や相続)に問題がないと判断できれば、過度に恐れる必要はありません。重要土地等調査法は、オーナー様にとって「知らないと不安が残る法律」ですが、仕組みを理解しておけば、むしろ落ち着いて判断するための材料になります。

【まとめ
売買契約の安心は“事前の知識”で決まる】

今回お伝えした3つのポイントは、いずれも売買契約前に知っておくだけでトラブルを避け、後悔のない判断につながる内容です。

私は沖縄で多くのオーナー様の土地活用・民泊運営・不動産相談を受けてきましたが、現場では「もっと早く知っておけば避けられた」という事例が本当に多くあります。

盛土の安全性を理解して購入すれば、思わぬ補強工事を避けられます。
水害リスクを正しく把握すれば、運用の安定性が高まります。
重要土地等調査法を知っていれば、購入後の不安を減らせます。

売買契約は、一度サインしてしまうと後戻りができません。
だからこそ、オーナー様自身が“知る側”に回り、事前に判断材料を持つことが、何よりも確実な資産防衛になります。

今後も私は、研修や現場で得た知識をもとに、沖縄のオーナー様が安心して資産を守り、活かすための情報を分かりやすく発信していきたいと考えています。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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