「高く売ります」に潜む落とし穴──本当に信頼できる不動産会社の見分け方

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄不動産オーナー


不動産を売却しようとしたとき、最初に気になるのは「いくらで売れるのか」ではないでしょうか。最近では一括査定サイトが一般化し、複数の不動産会社が競うように査定額を提示してくれます。中には「他社よりも高く売ります」「今ならこの価格で売れます」といった強気な提案を受けることも少なくありません。
私自身、実際に訪問査定で現地を確認し、建物の状態や周辺環境、過去の成約事例などを丁寧に調べることを心がけています。また、不動産業者間で共有されている「レインズ」という成約データベースを使い、同じ地域や条件の取引事例を確認します。その上で、当社契約のAI査定システムを活用し、「相場価格」「査定価格」「チャレンジ価格」の3つを比較検討しながらご提案しています。たとえば、相場価格とは「現在の市場で実際に売れている価格帯」、査定価格は「不動産の状態や立地をもとに算出した適正価格」、そしてチャレンジ価格は「条件が良ければ達成できる、少し強気な販売価格」です。この3つを明確にお伝えすることで、売主様が“現実と可能性の両面”を理解したうえで判断できるよう努めています。
ところが、ある案件では別の業者が私の提示額よりも30%以上高い査定を出し、売主様はそちらを選ばれました。そのとき私は率直に、「少し現実的ではない金額だ」と思いました。ただ、市場のデータを見れば、その価格で売れる見通しは立たないことが明らかでした。案の定、数か月経っても反響が少なく、結果的に値下げを繰り返すことになったそうです。数か月後、偶然その売主様と再会した際にこう言われました。「多田さんの言っていた通りでした。やっぱり最初からお願いしておけば良かったです」と。もちろん、高く売れるならそれに越したことはありません。
しかし、注意すべきは「高い査定=高く売れる」ではないという事実です。実際には、“契約を取るための高値提示”が行われているケースもあります。そして、その数字を信じて契約した結果、数か月経っても反響がなく、結局は値下げを繰り返す…。結果として、最初から適正価格で売り出すよりも安くなってしまう、という状況が少なくないのです。沖縄の不動産市場でも、こうした“高値スタートによる長期化”の相談は年々増えています。実際、売り出された物件の中には、募集サイト上で長期間掲載されたまま“在庫化”しているケースも少なくありません。
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

【なぜ高額査定が出るのか】
査定には大きく分けて「机上査定」と「訪問査定」があります。机上査定とは、周辺の取引事例や立地条件などのデータをもとに算出する概算価格です。一方で訪問査定は、実際に現地を確認し、建物の状態・眺望・リフォーム履歴などを加味して算出する、より精度の高い査定です。
しかし、問題は査定の目的が「契約を取るための数字」になってしまっているケースがあることです。多くの不動産会社は、複数のライバル会社と比較される前提で査定依頼を受けるため、「少しでも高い金額を提示しなければ選ばれない」と考え、高値を提示する構造が生まれています。この段階で提示される金額は、必ずしも“売れる価格”ではなく、“売主様が喜ぶ価格”になりがちです。つまり、“希望を叶える査定”ではなく、“期待を刺激する査定”。この違いを理解しておくことが、売却を成功させるための第一歩です。
また、誠実な査定では「相場価格」「査定価格」「チャレンジ価格」の3つを提示することがあります。相場価格は“実際に成約している平均的な水準”、査定価格は“不動産の状態や立地をもとに算出した適正価格”、チャレンジ価格は“市場の反応を見ながら少し高めに設定する価格”です。この3つを明確に提示できる会社ほど、根拠のある査定を行っているといえます。

【高値で売り出すリスク】
高値で売り出すと、最初の1〜2カ月は問い合わせが少なくなります。購入希望者は同じエリア内の類似物件を比較しながら検討するため、相場より明らかに高い物件は候補から外されてしまうのです。さらに近年では、インターネット上で物件名を検索すると相場が自動的に表示される仕組みもあり、買い手も価格感を把握しやすくなっています。つまり、情報が可視化された今の時代、相場とかけ離れた価格設定はすぐに見抜かれてしまうのです。反響が得られないまま時間だけが過ぎ、やむを得ず値下げ。しかし、一度「値下げ済み」として市場に出ると、買主には「まだ下がるかもしれない」という印象を与えてしまいます。結果として、当初の高値から何度も下げ、最終的には“相場より安い価格”で成約するケースもあります。つまり、「最初に高く設定したつもりが、結果的に安くなる」という逆転現象が起きてしまうのです。実際、私が沖縄で売却サポートを行っている中でも、同様のケースをよく目にします。例えば、マーケットアウト(=相場より明らかに高い設定)した物件は、沖縄県内最大級の不動産サイト「うちなーらいふ」(https://www.e-uchina.net/)に掲載しても、お気に入り数がほとんど増えません。電話も鳴らず、メールの問い合わせもゼロです。サイト上では閲覧数の伸び方を日ごとに確認できますが、明らかに“動いていない”物件は、価格が市場と乖離しているサインといえます。特に沖縄では、市場規模が首都圏に比べて小さく、需要と供給のバランスが繊細です。反響が少ない状態が続くと「売れ残り物件」と見なされやすく、購入検討者の印象が悪くなる傾向があります。そのため、最初の価格設定は“慎重すぎるくらいでちょうど良い”のです。

【正しい査定の見極め方】
では、「本当に信頼できる査定」とはどのようなものか。それは、価格の“根拠”を明確に説明できる査定です。たとえば、信頼できる担当者は次のように話します。
「この価格は、直近3カ月以内に成約した近隣の物件データをもとに算出しています」
「似た条件の物件が2,800万円で売れているため、3,000万円では反響が減る可能性があります」
「もし3,200万円で出す場合は、販売期間が半年以上になるかもしれません」
このように、数字だけでなく“理由と予測”をセットで伝えてくれるかがポイントです。逆に、「いくらで売れると思います」「今の市場なら大丈夫です」といった抽象的な説明しかない場合は要注意。データではなく“印象”で話している可能性があります。
そしてもう一つ大切なのが、「誰がその査定を行っているのか」です。国家資格である宅地建物取引士(宅建士)が担当しているかどうかは、売却の信頼性を左右します。宅建士は不動産取引における専門知識を持ち、次の3つの業務を独占的に行うことが認められています。

1. 重要事項の説明(35条書面)
物件の権利関係や法令上の制限など、契約前に買主へ正確に説明する業務。

2. 重要事項説明書への記名・押印
説明内容を文書化し、宅建士として責任を持って署名する業務。

3. 契約書面(37条書面)への記名・押印
契約成立後、取引内容を文書にまとめ、宅建士として署名・押印する業務。

つまり、宅建士がいない会社や担当者では、法的に契約を完結させることができません。さらに、宅建士は資格者として責任を持って説明・判断を行うため、知識や経験の豊富さに加え、「志や責任の重さが違う」のです。査定の精度を見抜くコツは、数字ではなく“言葉”と“資格”にあります。説明が具体的かどうか、質問に対して根拠を示してくれるか。そして、担当者が宅建士としての責任を持っているか。この3点が、信頼できるパートナーを見極める最大の判断材料です。

【売主様が確認すべき3つのポイント】
査定を受けるとき、次の3つを必ず確認してください。

1. 査定額の根拠資料を提示しているか
近隣の成約事例・相場グラフ・販売期間のデータなど、裏付けを求めましょう。

2. 「高く売る」より「正しく売る」を語っているか
“高値”を強調する担当者より、“根拠と計画”を説明する担当者の方が信頼できます。

3. 担当者が宅建士かどうか
国家資格を持つ宅建士が直接対応しているかを確認してください。 「重要事項説明」「契約書面の作成」など、宅建士の独占業務は不動産取引の根幹を支えています。この資格を持つ人が最後まで責任をもって対応してくれるかどうかが、安心の分かれ目です。

これらを確認するだけで、不動産売却の失敗リスクを大幅に減らすことができます。

【まとめ】
査定額は、売却のスタート地点にすぎません。そこに必要なのは、“高い数字”ではなく、“納得できる理由”です。一括査定や強気な営業トークに惑わされず、「なぜその金額なのか」を問いかけてください。高い査定は一瞬の安心をくれますが、信頼できる担当者は長い安心をくれます。売却を成功させる鍵は、数字よりも“説明の誠実さ”にあります。これからの時代、売主様が選ぶべきは「数字を競う会社」ではなく、「信頼を築くパートナー」。不動産を“値段で決める”のではなく、“納得して決断する”。それが、後悔しない売却への一番の近道です。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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