アメリカと日本の不動産はなぜここまで違うのか

多田進吾

多田進吾

テーマ:不動産制度


沖縄でも空き家や中古住宅の活用が注目されていますが、依然として「新築志向」や「所有したら一生住む」という意識が根強く残っています。一方、アメリカでは築50年、60年の住宅が市場で何度も売買され、リフォームを重ねながら新たな価値を生み出しています。売ることも、貸すことも、そして再び買い戻すことも自然に行われる、まさに「循環する不動産市場」です。
東京で不動産仲介の仕事をしていた頃から、私はこの違いに関心を持っていました。特に10年前、妻と訪れたハワイでその気候や風土に魅了され、移住先の候補として現地の不動産制度を調べた際、透明な取引システムとエージェント文化に強い衝撃を受けました。最終的に私たちは沖縄への移住を選びましたが、あのとき感じた「不動産を自由に動かす文化」の背景には、アメリカ特有の制度と価値観があることを強く意識するようになりました。

【アメリカの不動産売買の成り立ち】
アメリカの不動産文化の原点は、19世紀の西部開拓時代にまでさかのぼります。当時のアメリカでは「土地は個人の努力で開拓し、自由に所有・売買できるもの」という考え方が広まりました。国家が土地を無償または低価格で払い下げる「ホームステッド法(1862年)」によって、多くの人が自らの土地を手にし、家を建て、売却し、また新たな土地へ移る。そんな“土地の流動性”が社会の基盤になっていったのです。
20世紀に入ると、都市化の進展とともに住宅市場が整備され、政府も住宅取得を後押しする政策を次々に打ち出しました。1934年には連邦住宅局(FHA)が設立され、ローンの保証制度が整備されたことで、一般家庭でも安心して住宅を購入できる環境が整いました。さらに第二次世界大戦後には、退役軍人向けの住宅ローン制度(VAローン)も登場し、「家を持つこと」は国民のライフスタイルとして定着していきます。また、1960年に誕生した不動産投資信託(REIT)法により、個人投資家でも間接的に不動産市場へ参加できる仕組みが整いました。これによって不動産は「住む場所」から「投資資産」へと進化し、一般市民が不動産を通じて資産形成を行う土壌ができあがります。
このように、アメリカの不動産市場は「自由な所有」と「契約による責任」を軸に発展してきました。つまり、不動産は“守るもの”ではなく、“動かすもの”。この考え方こそが、今日のアメリカのダイナミックで透明な不動産市場を形づくったと言えるでしょう。

【アメリカの制度と文化の特徴】
アメリカの不動産取引の特徴を一言で表すなら、「契約の自由と情報の透明性」に尽きます。国土が広く州ごとに制度が異なる中でも、不動産売買の基本的な仕組みは全土で共通しており、公正でオープンな市場形成が徹底されています。
まず注目すべきは、「エージェント制度(リアルター制度)」です。アメリカでは売主と買主の双方にそれぞれ担当エージェントがつき、双方の利益が対立しないよう役割が明確に分かれています。売主側エージェントは売却活動や価格交渉を担当し、買主側エージェントは物件探しから契約交渉、価格査定までをサポートします。どちらの立場にも属さない「中立的な仲介業者」が介入する日本とは異なり、各エージェントが依頼主の利益を最大限に守るのが基本です。この制度によって、取引の公平性と責任の所在が明確化され、トラブルの予防にもつながっています。また、エージェントは全米不動産協会(NAR)などの資格団体に所属し、職業倫理や行動規範を厳格に守ることが求められます。こうした仕組みが、不動産取引に対する信頼を支えています。
次に、市場の透明性を支えているのが「MLS(Multiple Listing Service)」と呼ばれる物件情報共有システムです。これは全国の不動産エージェントが登録・閲覧できるデータベースで、売主がどのエージェントを通しても同じ物件情報にアクセスできる仕組みです。日本のように業者ごとに情報が閉じてしまうことが少なく、買主にとっても公平な取引が実現します。さらに、アメリカでは契約時に「現状有姿(As-Is)」の原則が一般的です。つまり、売主は物件を現状のまま引き渡し、瑕疵があっても原則として責任を負いません。その代わり、買主は専門のホームインスペクター(住宅検査士)を雇い、購入前に建物の状態を詳細にチェックします。「売主の責任」ではなく「買主の判断」で取引を進める。この徹底した自己責任の考え方が、アメリカの不動産文化を象徴しています。加えて、税制面でも不動産を保有・運用するインセンティブが整っています。住宅ローン利息の控除や減価償却による節税効果、一定期間居住した住宅の売却益非課税制度など、合理的な資産形成を支える仕組みが充実しています。こうした制度と文化が組み合わさることで、アメリカでは「住まい」が単なる生活の場ではなく、「資産を動かし、育てる」存在として根付いているのです。

【日本との主な違い】
アメリカの不動産制度を理解すると、自然と日本の特徴も浮かび上がってきます。どちらが優れているというよりも、両国の不動産文化は「何を大切にしてきたか」の違いによって形づくられてきたといえます。
まず大きな違いは、「所有権」の考え方です。アメリカでは土地と建物を分けて所有でき、外国人でも制限なく購入できます。これに対し、日本では土地と建物を一体として扱うのが基本で、外国人の取得には一部制約がある場合もあります。この柔軟な所有権の仕組みが、アメリカの高い流動性を支えています。
次に、「情報公開と取引の透明性」です。アメリカではMLS(物件情報共有システム)によって、全国のエージェントが最新の物件データを共有しています。売主や買主はどのエージェントを通しても同じ情報にアクセスできるため、価格や条件の公平性が保たれています。一方、日本では情報が不動産会社ごとに分散し、一般公開されないケースも多く、取引の透明性はまだ限定的です。
契約の文化にも大きな差があります。アメリカでは契約の自由と自己責任が原則で、弁護士が契約書の作成や確認に関わります。売主と買主がそれぞれ自分の代理人(エージェント)を通じて交渉するため、取引の立場が対等です。対して日本では、不動産会社が仲介役として両者をまとめるスタイルが主流で、交渉よりも“調整”に重点が置かれます。そのため、買主・売主双方にとっての「主体性」という点ではアメリカの方が明確です。
住宅に対する考え方にも根本的な違いがあります。アメリカでは住み替えを前提とし、「ライフステージに合わせて家を変える」ことが自然です。その結果、中古住宅市場が発達し、古い家も修繕やリノベーションによって再流通します。一方、日本では「一生に一度の買い物」として新築を好む傾向が強く、築年数が経つほど価値が下がるという意識が根強く残っています。税制面では、アメリカは建物部分の減価償却による節税効果が大きく、住宅ローン利息の控除も認められています。日本の場合、土地の割合が高く減価償却の恩恵が限定的で、投資的な魅力という点では差が出やすい構造になっています。

【アメリカの不動産市場のメリットとデメリット】
アメリカの不動産市場には、自由で開かれた仕組みならではの魅力があります。同時に、法制度や文化の違いから注意すべき点も存在します。ここでは、主なメリットとデメリットを整理してみましょう。

−メリット−
1. 市場の透明性が高い
MLS(物件情報共有システム)によって、どのエージェントを通じても同じ情報にアクセスでき、取引の公平性が保たれています。不動産価格の履歴や評価額も公開されているため、買主・売主ともに納得感を持って交渉が進められます。
2. 所有権が強く法的に守られている
アメリカでは外国人でも不動産を自由に購入でき、登記や権利関係が明確に法的保護を受けています。所有者が変わってもトラブルが起きにくく、安心して資産運用を行うことができます。
3. 資産形成の仕組みが整っている
建物部分の減価償却による節税効果や住宅ローン利息控除、一定期間居住後の売却益非課税制度など、合理的な税制が投資と運用を支えています。
こうした環境が、長期的な資産形成を可能にしています。
4. 中古住宅の流通が盛んで資産価値が維持されやすい
築年数を重ねた住宅も、リフォームやメンテナンスによって再流通するため、建物が「使い捨て」ではなく「循環資産」として扱われます。その結果、経年しても価値を保ちやすいという特徴があります。
−デメリット−
1. 州ごとに制度や税制が異なる
地域によって契約手続きや登記方法、課税内容が異なるため、専門家のサポートが欠かせません。その分、弁護士費用やコンサルティング費用などのコストが発生します。
2. 自己責任の原則が強い
「現状有姿(As-Is)」での売買が基本となるため、買主は購入前に建物調査を徹底する必要があります。調査を怠ると、購入後に修繕や補修費が想定以上にかかるケースもあります。
3. 価格変動リスクが大きい
地域経済の差や景気動向によって、住宅価格が大きく上下する場合があります。2008年のサブプライムローン危機では、全米で住宅価格が急落したこともありました。
4. 管理コストが高く、海外投資は難易度が高い

固定資産税や保険料、管理費用などの維持コストが高く、海外から投資する場合は現地管理や時差対応の負担も大きくなります。信頼できる現地パートナーの選定が成功の鍵となります。

【日本の不動産流通が抱える課題】
アメリカの不動産市場を知ると、「不動産をどう扱うか」という発想そのものが、日本とは大きく異なることに気づかされます。日本では「所有すること」自体が目的になりやすいのに対し、アメリカでは「所有した不動産をどう活かすか」が重視されています。つまり、不動産は“守る資産”ではなく、“動かす資産”。この考え方の違いが、両国の市場を大きく分けているのです。 私自身、東京で不動産仲介の仕事をしていた頃から、アメリカのオープンで合理的な取引制度には関心を持っていました。そして10年前、妻とハワイを訪れた際に感じた「透明で、誰にでも開かれた市場」の仕組みは、今でも強く印象に残っています。その後、沖縄へ移住し、自ら宿泊施設の運営や不動産事業を手がける中で、日本の不動産取引にも課題と可能性の両方があることを、改めて痛感するようになりました。
特に感じるのは「情報の非対称性」と「エージェント制度の未成熟さ」です。アメリカでは不動産取引の情報がMLS(Multiple Listing Service)という共通データベースで一元化されており、売主・買主双方のエージェントが対等な立場で交渉します。市場の透明性が高いため、取引のスピードと公平性が担保され、誰もが平等にチャンスを得られる仕組みです。日本の不動産市場では、物件情報が会社ごとに囲われ、媒介契約の仕組みが情報の流通を妨げる構造があります。加えて、一括査定サイトの台頭により、実勢とかけ離れた高額査定が横行し、オーナー様が誤った期待を抱かされるケースも見受けられます。その結果、買い手と売り手の利益が噛み合わず、市場全体が“仲介会社の都合で動く”という本来あるべき姿から離れつつあると感じます。アメリカでは「エージェント=交渉の専門家」としての位置づけが明確で、法的にも独立した立場を持ちます。報酬は成果報酬であり、クライアントの利益がエージェントの利益と直結するため、真の意味での代理人として機能します。こうした制度が、市場の信頼と活発な流動性を生んでいるのです。
私自身、沖縄に拠点を移して以降は、「不動産の価値を見直す」という視点をより強く意識するようになりました。所有することにとどまらず、どう活かすか、どう動かすか。その発想こそが、これからの時代に求められる不動産との付き合い方だと感じています。日本でも、情報のオープン化とエージェント制度の成熟が進めば、もっと自由で健全な市場が生まれるはずです。所有することが目的ではなく、活かすことに価値を見いだす時代。その転換点に、私たちは立っているのだと思います。

【まとめ】
アメリカの不動産市場は、自由で透明、そして自己責任の文化の上に成り立っています。情報がオープンに共有され、売る側も買う側も対等な立場で交渉できる。その根底には、「不動産は人生を支える資産であり、動かしながら育てていくもの」という考え方があります。
一方で、日本の不動産文化は「所有=安定」という価値観のもとで発展してきました。安全性や信頼性を重んじる日本らしい強みがある反面、流動性が低く、活用の幅が限られているのも事実です。しかし近年、沖縄をはじめ全国で空き家や未活用物件の増加が課題となる中、その「所有」から「運用」への意識転換が求められています。アメリカの制度や文化をそのまま取り入れる必要はありません。けれども、そこにある“発想の自由さ”や“透明な仕組み”から学べることは多いはずです。私は、不動産を本来あるべき、公正で開かれた市場へと、着実に近づけていきたいと考えています。
大切なのは、不動産そのものだけでなく、そこに関わる人の想いと未来を見据えること。不動産をどう動かし、どう活かすか、その答えは一人ひとりの状況によって異なります。もし、沖縄で眠っている資産や活用に迷っている物件があれば、ぜひ一度ご相談ください。地域に根ざした視点と経験で、オーナー様に最適な形を一緒に考えていければと思います。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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