「高額査定」に惑わされない。不動産売却で大切なこと

多田進吾

多田進吾

テーマ:不動産売却


「他社より高く売ります」「最短60秒でAI査定」など不動産の一括査定サイトを開くと、そんな言葉が並びます。一度の入力で複数の会社から査定結果を受け取れる便利な仕組みとして、いまや多くの方が売却を検討する際の入口にしています。しかしその裏には、便利さと引き換えに、誤解や行き違いが生まれやすい構造もあります。私は東京で不動産仲介に携わっていた頃から、その仕組みに小さな違和感を抱いてきました。そして、沖縄に拠点を移してからも同じような事例を目にして、この課題は地域を問わず存在していると感じています。今回は、一括査定サイトの基本的な仕組みと、利用する際に知っておくべき大切なポイントを整理してみたいと思います。

【一括査定サイトの仕組みと注意点】
一括査定サイトは、売主様が入力した物件情報を複数の不動産会社に同時に送信し、各社が査定を行う仕組みです。入力内容は、住所・間取り・築年数・面積といった基本情報が中心で、短時間で複数社の査定結果を得られる利便性があります。
特に、初めて不動産売却を検討される方にとっては、相場の目安を把握する有効な手段のひとつで、サイトの運営会社は、不動産会社から紹介料を受け取ることで収益を得ています。紹介料の金額はサービス内容や契約形態によって異なりますが、一般的には1件あたり1万円前後の場合が多く、依頼件数が増えるほどサイトの収益も増える構造です。そのため、運営会社は広告や集客に力を入れ、より多くの査定依頼を獲得しようとします。この仕組み自体は違法でも不当でもなく、広告ビジネスとして成立しています。ただし、紹介料や集客数といった利益構造が、結果として売主様に届く営業の量や対応の仕方に影響する場合があることを理解しておくことが大切です。
一括査定の情報は、入力と同時に提携する複数の不動産会社へと共有されます。この仕組み上、査定依頼から数秒〜数分のうちに複数の会社から電話やメールが届くことがあり、短期間に多くの連絡を受けるケースもあります。もちろん、誠実に対応する担当者も多くいますが、売主様の想いや目的を十分に汲み取らず、「とにかく早く契約を取る」ことを優先してしまう業者も少なくありません。その結果、売主様の意図とは異なる方向で話が進んでしまうケースも見受けられます。
あらかじめこの構造を理解しておけば、「なぜ営業が多いのか」「会社ごとに対応が違うのはなぜか」を冷静に受け止めやすくなります。こうした点も、一括査定サイトの“便利さの裏側”として押さえておくと安心です。

【不動産一括査定のメリットとデメリット】
複数の不動産会社に一度で査定を依頼できる便利な仕組みですが、メリットと注意点を正しく理解しておくことが大切です。
ーメリット
・複数の不動産会社に一括で依頼できるため、手間がかからず効率的。1社ずつ問い合わせる必要がなく、短時間で複数の査定結果を比較できます。
・複数の査定額を比較することで、相場価格の把握がしやすい。地域や会社によって査定の考え方は異なりますが、複数社の意見を知ることで現実的な価格感を得られます。
・無料で利用できるため、気軽に不動産の価値を確認できる。売却を急いでいない段階でも、資産の現状を知るきっかけになります。
・今後の売却戦略やタイミングを考える参考になる。市場動向や相場感を知ることで、より良い売却判断がしやすくなります。
ーデメリット
・複数の会社から営業連絡が入る可能性がある。電話やメールが続く場合があり、対応に手間を感じることがあります。
・「机上査定」はあくまでも目安であり、実際の売却価格とは異なることが多い。現地調査を経た正式査定とは異なるため、参考値として捉えることが大切です。
・提携会社や対応地域に制限がある場合がある。希望する地域や物件種別がサイトの対象外となるケースもあります。
・査定額に差が出ることがあり、判断が難しくなることもある。高額査定が必ずしも正しいとは限らず、根拠を確認する姿勢が求められます。

【沖縄でも感じた同じ構造】
私は、東京での経験を経て沖縄に拠点を移しましたが、一括査定をめぐる構造は本土と大きく変わりません。むしろ、沖縄では不動産取引に関する公開データや取引事例が限られている分、売主様が十分な比較材料を得にくい傾向があります。その結果、査定額の「高い・低い」という表面的な数字だけが判断基準になりやすく、売主様自身が本当の意味で納得できる取引を行うことが難しいケースも見受けられます。
また、沖縄では、市場のデータや査定の根拠を丁寧に説明できる担当者は、まだ決して多くないというのが私の実感です。物件の特性やスペック、立地、周辺環境、そして将来の都市計画などを根拠として、具体的に説明できる担当者は限られており、その傾向は都市圏以上に顕著です。とくに、地元密着の小規模事業者と県外資本の大手仲介会社が混在する沖縄の市場では、情報の扱い方や提案の姿勢にも差が生まれやすく、売主様が十分な判断材料を得られない場面も少なくありません。
私は、このような情報の非対称性が残る構造を、少しでも解消したいと考えています。売主様が「どの情報を信じ、どんな判断をすれば良いのか」を自ら理解できる環境を整えること、それこそが、沖縄という地域で不動産の未来を考えるうえで、最も重要な課題の一つだと思っています。

【誠実な担当者こそ、安心取引の鍵】
不動産の売却を成功させるうえで、本当に大切なのは「価格」ではなく「根拠」、そして何よりも「担当者の誠実さと信頼」です。どんなに魅力的な査定額であっても、その数字の裏づけが曖昧であれば、売却活動が長期化し、その過程で思わぬ齟齬やトラブルが生じることもあります。
一方で、査定額を無理に高く見せることなく、なぜその価格になるのかをデータや実例を交えて丁寧に説明してくれる担当者は信頼できます。また、単に「売る」ことだけを目的にせず、売主様の立場に立って一緒に戦略を考える姿勢を持ち、売却後のフォローやリスクの説明にも手を抜きません。嘘をつくことはもちろん、曖昧な返答もせず、わずかでも不明瞭な点があれば「確認して改めてご連絡します」と必ず伝えるはずです。その対応は常に迅速で、誠実さが一貫しています。
売却という一度きりの大きな取引を任せる以上、担当者の姿勢や誠実さが結果を左右すると言っても過言ではありません。
査定額の高さも大切ですが、すべての基盤となるのは、より安全で、より安心できる取引です。

【今後の課題と私の想い】
一括査定サイトそのものを否定するつもりはありません。むしろ、正しく使えば有益な仕組みでもあります。ただ、その便利さの裏で、媒介契約を獲得するために高い価格を提示することに注力されている現状は、売主様にとってリスクでしかありません。なぜなら、これだけインターネットやSNSが普及した今、実勢を大きく超える価格で購入する買主は、ほとんど存在しないからです。
私が目指しているのは、結果(売価)ありきではなく、売主様の「想い」や「目的」に沿って、安心して“売主様主導”で取引を進められるようにしていくことです。そのために、私は売主様の立場に立ち、まるでホテルのコンシェルジュのように、誠実に寄り添いながら、取引の過程を支える存在でありたいと考えています。売主様が正しい情報をもとに判断できるよう、根拠あるデータと客観的な視点を、わかりやすくお伝えすること。
それこそが、私がこれから取り組もうとしている新しい挑戦であり、「安心・安全な取引」「納得できる判断」「そして笑顔で終われる不動産取引」を実現するために、専門家として果たすべき役割だと感じています。

【まとめ】
一括査定サイトは、使い方を誤らなければ便利で有効な仕組みです。しかし、本当の意味で満足のいく売却を実現するためには、「数字」や「スピード」だけに頼らず、取引の本質を理解することが欠かせません。大切なのは、売主様の想いに寄り添い、目的を共に見つめながら、根拠ある判断を積み重ねていくことです。その過程で信頼できる担当者と出会い、誠実に伴走してもらえることこそが、安心と納得のある不動産取引へとつながります。
私は、売主様が冷静に、そして前向きに判断できるように、正確な情報と確かな提案を通じて支え続けたいと思っています。不動産の取引は「売ること」ではなく、「想いをつなぐこと」。その一歩を、誠実に共に歩むパートナーでありたいと考えています。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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