沖縄にしかない不動産 ― アメリカが残した家と土地

多田進吾

多田進吾

テーマ:島時間コラム


6年前に東京から沖縄へ移り住み、最初に気になったのが“軍用地”と“外人住宅”という言葉でした。長く不動産に携わってきた私でも、その響きには新鮮な違和感がありました。お休みの今日は、この二つの不動産が持つ背景と魅力を、少し掘り下げてみます。

コンクリートの白い平屋に、広い庭とヤシの木。沖縄の青空の下に並ぶその風景は、どこかアメリカ郊外のようです。一方で、島の中部では金網フェンスに囲まれた基地が静かに広がり、その土地の所有者には毎年「地代」が国から支払われています。戦後、沖縄はアメリカ統治下で独自の土地文化を育てました。米軍関係者のために生まれた「外人住宅」、そして国が借り続ける「軍用地」。この二つは、生活と制度という異なる理由から誕生した不動産ですが、どちらも“沖縄にしか存在しない投資対象”として、今も注目を集めています。私は東京で不動産仲介の経験を積み、その後、沖縄で宿泊・不動産・民泊のコンサルティングに携わるようになりました。沖縄の土地に触れて感じたのは、「不動産が単なる経済資産ではなく、歴史の延長線上にある」ということです。



【外人住宅 ― 暮らしから生まれた投資資産】
外人住宅とは、1950年代から1970年代にかけて、米軍関係者とその家族のために建てられた住宅を指します。朝鮮戦争やベトナム戦争の時期、米軍人と家族が増加し、基地内の住宅だけでは足りなくなったため、民間が基地外に「米軍仕様の住宅」を建てて貸し出すようになりました。建物は鉄筋コンクリートブロック造で、フラットな屋根(フラットルーフ)と大きな窓が特徴。広いリビングや庭付きの設計は、当時のアメリカ文化を色濃く映し出しています。嘉手納町、宜野湾市、北谷町などの中部地域を中心に建設され、一時は約12,000戸が供給されました。
白い外壁と直線的なデザインは、いまも多くの人を魅了しています。港川(浦添市)の「港川外人住宅街」では、古い住宅がカフェやショップに再生され、観光客が集う人気スポットとなりました。「住む」だけでなく「見せる・体験する」価値を持つ外人住宅は、不動産としても新しい命を得ています。

【外人住宅の投資構造と魅力】
外人住宅の強みは、安定した賃料と独特のデザイン性にあります。米軍関係者には家賃補助制度があり、一般賃貸が月6〜7万円のエリアでも、外人住宅は15〜18万円前後で貸し出されることがあります。さらに、家賃は米国政府を通じて支払われるため滞納リスクが極めて低く、安定収益を得やすい構造になっています。リノベーションによって、「古さ」ではなく「個性」として再評価されている点も特徴です。古民家カフェや宿泊施設として再利用するケースも増えており、特に観光地の恩納村や北谷町では、外人住宅を改装した民泊が外国人観光客に人気を集めています。
ー外人住宅のメリット
・安定した収入源:家賃の未納率が非常に低く、収益が安定。
・高い賃料水準:一般住宅の約2倍。家賃補助制度により、継続的な需要が見込める。
・多用途性:住居だけでなく店舗・宿泊施設としても活用可能。
・デザイン価値:洋風建築として資産価値が高く、観光にも訴求力がある。
ー外人住宅のデメリット
・老朽化リスク:築50年以上の建物が多く、改修や維持管理にコストがかかる。
・気候影響:沖縄特有の高温多湿・塩害により、劣化が進みやすい。
・制度的リスク:米軍の居住方針変更や軍検制度により、入居基準が厳しくなる可能性。
・生活環境:基地周辺の騒音や交通アクセスの課題も残る。

それでもなお、外人住宅は「安定性」と「独自性」を併せ持つ不動産として、投資家・デベロッパー双方から関心を集めています。沖縄の青い空に映える白い外壁――この景観こそが、いまや資産価値の一部といえるでしょう。



【軍用地 ― 国が借り続ける“制度資産”】
沖縄の軍用地は、第二次世界大戦後の1945年、米軍が接収した土地に始まります。戦後、沖縄は米国の施政下に置かれ、土地の強制接収が進められました。1952年のサンフランシスコ講和条約発効後、米軍は地主と賃貸契約を結ぶ必要が生じ、日本政府が地主に代わって借地料を支払う制度が生まれました。現在、沖縄県内には31の米軍専用施設があり、その面積は約18,600ヘクタール(県土の約8%)。全国の米軍専用施設の約70%が沖縄に集中しています。地権者は約4万8千人に上り、年間の借地料はおよそ900億円に達します。
つまり、軍用地とは「国が毎年家賃を支払う土地」。地主にとっては極めて安定した収入源であり、相続や贈与の対象としても扱いやすい不動産です。取引市場では地代収益を基準に価格が形成され、利回りは2〜4%前後で推移しています。
ー軍用地のメリット
・安定収入:借主が日本政府のため滞納リスクが極めて低い。
・価格安定性:経済変動があっても地代は下がりにくい。
・資産価値の上昇:地代が毎年少しずつ増額され、資産価値も上昇傾向。
・金融資産としての魅力:現金化しやすく、相続資産としても有利。
ー軍用地のデメリット
・基地返還リスク:返還が決定すると地代が途絶える。再開発まで時間がかかる。
・地域開発の制約:基地用地が広いため、周辺地域の発展が制限されやすい。
・政治的要因:安全保障や外交情勢に左右される特性がある。
・資産運用の自由度が低い:自分で利用・開発できない土地。

【二つの不動産が映す沖縄の“二重の現実”】
外人住宅は「人の暮らし」から、軍用地は「国の制度」から生まれた不動産です。片方はアメリカ文化を受け継ぎ、もう片方は国家予算の上に成立しています。表面的にはまったく異なる存在ですが、どちらも戦後沖縄が歩んだ現実の延長線上にあります。 外人住宅と軍用地、この二つは、沖縄が戦後から現在まで抱えてきた社会構造そのものを映しています。 経済の仕組みと生活の形、その両方に良くも悪くもアメリカ統治の影響が今も残り続けているのです。

【まとめ】
外人住宅は、アメリカ統治時代の生活文化を今に伝える建築資産であり、軍用地は、国と地域社会の関係を映す制度資産です。どちらも“過去の遺産”ではなく、“今も動き続ける投資対象”として存在しています。安定した収益、独特のデザイン、文化的価値。それぞれの魅力がありながら、老朽化や返還リスク、維持コストなどの課題も抱えています。しかし、その複雑さこそが、沖縄の不動産投資の深みを形づくっているのです。
不動産の価値は利回りだけでは測れません。そこに生きる人の思いと、積み重ねられた時間があってこそ、土地は本当の価値を持つのだと思います。

出典:
・防衛省・自衛隊
https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/saco/
・沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)令和5年10月
https://www.pref.okinawa.jp/heiwakichi/kichi/1017273/1017274/1025057/1022995.html
・沖縄県における基地概況(うるま市資料)
https://www.city.uruma.lg.jp/documents/821/02okinawakennogaikyou2.pdf
・沖縄の米軍基地(平成28年3月統計)
https://www.pref.okinawa.lg.jp/heiwakichi/kichi/1017273/1017274/1025057/1024844.html

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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