改正住宅セーフティネット法で変わる空き家活用と賃貸市場の新潮流

多田進吾

多田進吾

テーマ:住まいトレンド


「高齢の単身者には貸しづらい」「もし部屋で何かあったら責任を問われるかもしれない」——。
こうした声は、賃貸経営に携わる方の間で今も多く聞かれます。総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸。そのうち賃貸用の空き家は約443万戸に上ります。一方で、国土交通省の推計では、単身高齢者世帯は2030年に約900万世帯に迫る見込みとされており、住まいを確保しづらい人々の増加が社会課題となっています。
このような状況に対応するため、国は「住宅確保要配慮者」に対する住まい支援を進めてきました。その中心的な制度が「住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」です。平成29年(2017年)の施行以降、全国で800を超える居住支援法人が指定され、地域における居住支援の取り組みが広がってきました。
そして令和6年に法律が改正され、2025年10月1日に施行されました。今回の改正は、貸す側と借りる側の双方が安心できる環境づくりを目指したものです。



【住宅セーフティネット法の基本概要】
この法律は、高齢者、障害者、ひとり親世帯、低所得者など、住宅の確保が難しい人々(住宅確保要配慮者)が円滑に賃貸住宅へ入居できるよう支援するための制度です。主な仕組みとしては、大家が「入居を拒まない」意思を示した賃貸住宅を自治体に登録する「セーフティネット住宅」の制度があります。これにより、住宅確保要配慮者が物件情報を探しやすくし、入居を支援します。また、入居前から退去時まで、見守りや相談対応を行う「居住支援法人」制度も整備され、福祉関係者と連携した支援体制が構築されてきました。
しかし、現場では依然として「高齢者に貸すのは不安」「保証人がいない」「亡くなった後の対応が分からない」といった課題が残っていました。これらの課題に対処するため、今回の改正が行われました。

【改正の背景と目的】
背景には、単身世帯の増加や持家率の低下により、住宅確保要配慮者のニーズが高まっていることがあります。
国交省の資料によると、単身高齢者世帯は2030年に約900万世帯に迫る見通しです。また、業界団体の調査では、**高齢者の入居を断る理由の約9割が「居室内での死亡事故などへの不安」**であるとされています。入居者の孤独死や残置物処理、家賃滞納といったリスクが、大家側の不安を大きくしているのが現状です。一方で、全国には賃貸用空き家が一定数存在します。空き家は社会的資源でもあり、要配慮者の住まいとして活用できれば、双方の課題を同時に解決できます。
改正住宅セーフティネット法は、この「貸したいけど不安」「借りたいけど借りられない」というギャップを埋めることを目的に整備されました。


【2025年10月施行の主な改正ポイント】
1.終身建物賃貸借の手続き簡素化
従来の賃貸契約では、入居者の死亡後に借家権が相続されるケースがあり、再募集が難しくなることがありました。今回の改正では、終身建物賃貸借(入居者の死亡と同時に契約が終了し、相続されない契約)の認可手続きが簡素化されました。これにより、事業者単位での認可が可能になり、より柔軟な運用が期待されています。

2.居住支援法人による残置物処理の推進
入居者が亡くなった際の残置物処理は、これまで大家にとって大きな負担でした。改正法では、居住支援法人が入居者から事前に委託を受け、残置物処理を行えるように制度化されました。これにより、死亡後の部屋の再利用がスムーズになり、賃貸供給の継続がしやすくなることが期待されています。

3.家賃債務保証業者の認定制度創設
家賃滞納に対する不安を軽減するため、家賃債務保証業者の認定制度が新設されました。国土交通大臣が認定した保証業者(認定保証業者)は、住宅金融支援機構の「家賃債務保証保険」を活用して要配慮者のリスクを軽減します。また、保証契約の際に緊急連絡先を親族などの個人に限定しない運用も認められ、単身者でも契約しやすい環境が整います。

4.居住サポート住宅の創設
改正法の大きな柱の一つが、「居住サポート住宅」の創設です。これは、居住支援法人などが入居者の安否確認や見守り、必要に応じて福祉サービスにつなぐ役割を担う住宅で、市区町村長(福祉事務所設置自治体)が認定します。生活保護受給者が入居する場合は、住宅扶助費(家賃)について、原則として自治体がオーナーに直接支払う「代理納付」の仕組みが導入され、家賃の未払いリスクを低減します。

5.住宅と福祉の連携強化
国土交通省と厚生労働省が共同で基本方針を策定し、市区町村による「居住支援協議会」設置が努力義務化されました。
この協議会には、自治体の住宅・福祉部局、居住支援法人、不動産団体、社会福祉法人などが参加し、入居前から退去時までを一体的に支援する体制づくりを推進します。住宅施策と福祉施策を連携させ、地域における包括的な居住支援ネットワークの形成を目指しています。



【改正の意義と今後の展望】
今回の改正は、「住宅」と「福祉」を連携させることで、社会全体で住まいを支える仕組みを構築する点に特徴があります。国は、制度施行後10年間で次の目標を掲げています。
・居住サポート住宅10万戸の整備
・居住支援協議会設立自治体の人口カバー率9割
これにより、住宅確保要配慮者が安心して生活できる環境の整備が進むとともに、孤独死や生活困窮などの社会問題にも一定の予防効果が期待されています。制度の運用においては、地方自治体や福祉関係機関、民間不動産事業者が連携し、地域実情に応じた取り組みを展開することが重要になります。

【まとめ】
2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法は、貸す側・借りる側の不安を軽減し、誰もが安心して住まいを確保できる社会を目指す制度です。終身賃貸借、家賃保証、見守り機能付き住宅などの新たな仕組みにより、少子高齢化時代に対応した居住支援体制の構築が進められています。今後、国・自治体・居住支援法人・不動産団体が連携し、住宅と福祉の垣根を越えた地域包括的な支援モデルが定着することが期待されます。

【出典】
・国土交通省「住宅セーフティネット制度の見直しの背景・必要性」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001760404.pdf
・国土交通省「不動産セーフティネット法(令和6年法律第43号)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001760403.pdf
・総務省「令和5年住宅・土地統計調査」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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