熱がつなぐ、人と空間 ― サウナ付き民泊の現在地

多田進吾

多田進吾

テーマ:島時間コラム


今日は週末ということで、ゆっくり過ごしている方も多いのではないでしょうか。
せっかくの休日ですので、今回は少しリラックスして読める「サウナと宿泊」のお話をお届けします。

近年、日本のサウナ人口は着実に増加傾向にあります。かつて「男性の趣味」として定着していたサウナ文化は、今や30〜50代を中心に男女問わず広がり、ライフスタイルの一部として浸透しています。とりわけ近年は「ととのう」という言葉が象徴するように、健康増進・メンタルケア・自己リセットといった意識変化とともに、サウナが“心身の再起動装置”として再評価されています。
この潮流は、宿泊業界にも新たな変化をもたらしました。旅行予約サイト「楽天トラベル」が発表した「サウナを満喫できる人気の宿ランキング」では、全国のホテル・旅館・民泊がサウナ付きプランを打ち出し、滞在の目的そのものを“サウナ体験”とする層が増えています。さらに、サウナ専門ポータル「サウナユニバーシティ」では、全国の“泊まれるサウナ”を可視化したマップが公開され、北海道から沖縄まで、地域を問わず宿泊とサウナの融合が進んでいることがわかります。こうした複数の指標から見えてくるのは、「サウナ×宿泊」という新しい体験軸が、これまでの宿泊モデルを刷新する可能性を秘めているという事実です。
私は、民泊運営およびコンサルティングを通じて、すでに複数の施設でバレルサウナ導入を提案してきました。自身も週に一度サウナに通い、利用者としてのリアルな体感を重ねる中で、サウナの価値が単なる「癒し」ではなく、“空間価値を高める投資要素”にまで進化していることを実感しています。宿泊施設にとって、サウナは単なる付帯設備ではなく、顧客単価・稼働率・口コミ評価のすべてを同時に押し上げる可能性を持つ戦略的コンテンツなのです。
データが示す市場トレンドと、現場で得た実践知を重ね合わせると、サウナ付き民泊は今後、宿泊業界における「体験価値経営」の中核を担う存在になっていくと考えられます。では、これらの変化から、民泊オーナー様・投資家にどのような実務的示唆が得られるのでしょうか。

【ここに注目】
1、サウナ人口の推移と傾向|利用者の年齢や男女比からサウナビジネスを考える
  出典:https://saunage.jp/column/202505_s2/?utm_source=chatgpt.com
2、「楽天トラベル」、サウナを満喫できる人気の宿のランキングを発表
  出典:https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2024/0628_01.html?utm_source=chatgpt.com
3、「まとめ」日本全国泊まれるサウナ施設レポート
  出典:https://saunauniversity.com/map-sauna/

【分析・考察】
まず注目すべきは、サウナ市場の構造変化です。サウナ専門サイト「サウナジージ(Saunage)」による分析では、日本のサウナ利用者は依然として男性比率が高いものの、30〜50代を中心に女性や若年層の利用者が増加傾向にあります。かつて「仕事帰りの男性の習慣」として位置づけられていたサウナが、今では“自己投資型レジャー”として多様な層に支持されるようになりました。この広がりは、滞在型の施設、すなわち「泊まれるサウナ」への需要を押し上げています。
楽天トラベルが2024年に発表した「サウナを満喫できる人気の宿ランキング」では、上位にランクインした宿泊施設の多くが“サウナを主目的とした滞在プラン”を打ち出しており、従来の「温泉付き宿泊」から「サウナ体験付き宿泊」へと市場の関心が移行しつつあることを示しています。宿泊の付加価値としてではなく、宿泊の理由そのものとしてサウナが選ばれる時代が到来したといえるでしょう。
この動きは、私が関わってきた民泊運営やコンサルティングの現場でも顕著です。沖縄で複数の施設にバレルサウナ導入を提案してきましたが、設置後は予約数の増加やリピート率の上昇が見られました。特に、プライベートサウナやバーベキューの利用満足度は高く、「他の宿泊施設では味わえない特別な時間」「外気浴スペースの開放感が最高」といった多数のレビューが寄せられています。サウナやバーベキューグリルを設けることで、価格競争に巻き込まれない“体験型ブランド”を形成できることを実感しています。
一方で、導入には慎重な設計と運営の工夫が求められます。火災や換気不良を防ぐ安全基準、湿気対策、清掃・点検体制の整備は欠かせません。また、利用ガイドの多言語化や写真による説明表示など、外国人旅行者への対応も今後の課題です。私は清掃チームとの協働体制を構築し、利用後チェックと定期メンテナンスを仕組み化することで、安全運営と高稼働を両立させています。
サウナ付き民泊が成功するかどうかは、「体験をどうデザインするか」にかかっています。温度・香り・照明・音・景色といった要素を組み合わせることで、宿泊者は単なる入浴ではなく、“滞在の物語”を感じることができます。沖縄の海沿いにある施設では、デッキの上にバレルサウナを設置し、海を一望できるのはもちろん、波の音まで聞こえる演出が心地よい没入感を生み出しています。宿泊施設経営の本質は、ハードの整備ではなく、“体験の設計と構築”へと移行しており、サウナはその最前線に立つコンテンツといえるでしょう。
今後、民泊や宿泊業界における競争は「立地」や「価格」ではなく、「体験の質」で決まっていくでしょう。サウナはその象徴的な事例であり、導入の目的を「収益拡大」から「体験価値向上」へと切り替えた事業者が、持続的な成功を収めていくはずです。データが示すトレンドと、私自身の現場経験を重ねると、サウナ付き民泊に限らず、宿泊施設の価値は「泊まる場所」から「体験を共有する場」へと進化していると感じます。旅行者が求めるのは、設備や価格ではなく「誰とどんな時間を過ごせるか」というストーリーです。
その物語を丁寧に設計できる施設こそが、これからの時代に選ばれる宿になるでしょう。

【まとめ】
サウナ付き民泊の台頭は、単なるトレンドではなく、宿泊業全体における価値転換の象徴といえます。これまで“泊まるための施設”だった宿泊業は、いま“体験を共有する空間”へと姿を変えつつあります。私が感じるのは、サウナがその変化の中心に立ち、人々の心に残る「時間」と「記憶」を生み出しているということです。 民泊オーナー様や投資家にとって、成功の鍵は設備の豪華さではなく、滞在の中で生まれる感動をどう設計できるかにあります。地域の自然や素材を生かし、利用者の心を動かす物語を持つ施設こそが、これからの時代に選ばれる宿になるでしょう。
サウナは、単なる設備ではなく、人と人をつなぐコミュニケーションツールです。そこでは身体だけでなく、心までも整っていきます。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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