レンタカーの値崩れが教えてくれる、沖縄民泊のこれから

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄民泊


いま、沖縄のレンタカー業界に異変が起きています。
那覇空港周辺では、3連休でも2泊3日で4,500円という破格のプランが並び、1日あたり1,500円の車も見られました。わずか2年前までは「レンタカーが取れない」「1日3万円でも借りられない」と言われていたのに、状況は一変しています。(引用元:のりものニュース/植村祐介「『レンタカー取れない』が一転『大暴落!』どうして投げ売り状態に?“レンタカーバブル”がはじけた沖縄」)
背景には、急激な増車と過当競争による“供給過多”があります。
そしてこの構造は、宿泊業、とくに民泊や小規模ホテルにも重なって見えるのです。

【レンタカー価格の暴落が示す“供給過多の罠”】
コロナ禍で外出自粛が広がった2020年以降、沖縄のレンタカー事業者は急激な需要減に直面し、保有台数を大幅に減らしました。那覇空港から半径約10km圏内に位置する那覇市・豊見城市・糸満市・浦添市の4市における乗用車保有台数は、2020年の18,538台から2021年には17,477台へと減少。観光客の往来が止まり、車両維持費や保険料が経営を圧迫したことで、事業者の多くが減車や一時閉業を余儀なくされたのです。
しかし、2022年以降に旅行需要が回復すると、状況は一転します。コロナ禍で“供給不足”を経験したこともあり、各事業者は再び増車に舵を切りました。2024年(令和6年)には、これら4市での保有台数が32,846台にまで膨らみ、わずか4年で約1.9倍に増加しています(出典:沖縄総合事務局「自家用自動車有償貸渡業(レンタカー)統計」)。
特に豊見城市を中心に事業者数が急増し、2021年時点で381社だったレンタカー事業者数は、2024年には837社へと約2.2倍に拡大しました。背景には、半導体不足の解消による新車供給の回復や、「レンタカー事業は利益率が高い」という一時的な風潮もありました。結果として、供給が需要を大きく上回り、競争が過熱。価格の値崩れが進み、1日1,000円台の格安プランも登場しています。
一方で、空港送迎バスの混雑、非加盟業者による空港内違法受け渡し、整備不良によるトラブルなど、サービス品質の低下も目立ち始めています。この構図は、「一度加熱した市場が、遅れて冷える」典型的な需給バランスの崩れです。
需要のピークを過信した“過剰投資”が、やがて価格の暴落を招く。自由競争の中で繰り返されるこの現象は、レンタカー業界だけでなく、宿泊・飲食・土産・レジャーといった関連産業にも共通する警鐘といえるでしょう。

【宿泊業も、同じ道をたどるのか】
レンタカー市場で顕在化した“供給過多”の構造は、実は宿泊業にも重なって見えます。観光庁が公表した「令和6年宿泊施設実態調査」によれば、全国の宿泊施設数はすでにコロナ前の水準を上回り、特に沖縄ではホテル・簡易宿所・民泊のいずれも増加傾向が続いています。開業ラッシュが止まらず、各地で新しいホテルやコンドミニアム型宿泊施設、リゾート民泊が次々と誕生しています。民泊に限って見ると、観光庁の「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況一覧」によれば、沖縄県の届出住宅数は2020年(令和2年)時点で951件でしたが、2025年(令和7年)には1,085件へと増加しています。
増加率は約14%と緩やかではあるものの、全国的な流れと同様に届出件数は堅調に伸びています。供給側の熱量は高まる一方で、稼働率の上昇は鈍化し、単価も調整局面に入りつつあるのが現状です。表面的には観光客の増加で賑わいを見せていても、その裏では価格競争が激しくなり、収益性の確保が難しくなりつつあります。
まさに宿泊業も、「量から質」への転換点を迎えているのです。新しい施設が次々に登場する中で、ゲストに“選ばれ続ける宿”になれるかどうかが今後の明暗を分けます。建物の新しさや立地だけでは差別化が難しくなり、清掃品質、レビュー評価、対応力といった“運営力そのもの”が収益を左右する段階に入っているといえるでしょう。
直近のレンタカー市場が示すように、「稼働率を上げるための値下げ」→「単価下落」→「利益減少」→「品質低下」という悪循環は、どのサービス業にも起こりうる現象です。宿泊業も同じ轍を踏まないために、冷静な需給バランスの見極めと、「量」ではなく「信頼」を積み上げる運営姿勢が、これまで以上に求められています。

【数字の裏にある“人”の構造】
数字は市場の結果を映す鏡に過ぎません。その裏には、決断し、行動した“人”の心理と行動が必ず存在します。レンタカー業界で過剰投資が起きた背景には、「需要は続く」「今がチャンスだ」という集団心理がありました。そして今、宿泊業でも同じような空気が漂っています。「観光客はまだ増える」「立地が良ければ埋まる」「新テーマパーク開業」といった期待が、冷静な需給判断を鈍らせているのです。
一方で、実際にゲストの満足や売上を生み出しているのは、現場の工夫と人の力です。建物の新しさや価格設定よりも、滞在そのものの体験――清掃の丁寧さ、スムーズなチェックイン、地域を案内する一言やおもてなしの気持ち――がゲストの記憶に残ります。同じ立地、同じ間取りでも、「また泊まりたい」と思われる宿と、ただ“安かった”で終わる宿があります。その差を生むのは、ホストの姿勢と、ゲストの期待に応える誠実な対応です。
つまり、数字を読むとは、人の動きや心の変化を理解することでもあります。市場が供給過多に傾いても、“人の温度”を感じる宿は選ばれ続けます。これからの時代に求められるのは、単に部屋を貸すことではなく、「滞在の物語をつくる」という視点かもしれません。

【民泊経営者への静かなメッセージ】
これからの民泊運営に必要なのは、焦らず、騒がず、正しい方向を見極める冷静さです。市場が加熱し、周囲が値下げ競争に走るときこそ、自分の運営哲学を持つことが問われます。価格を下げるのではなく、選ばれる理由を磨く。レビューで信頼を積み重ね、清掃品質やホスピタリティで差をつける。そうした地道な積み重ねが、最終的に安定した収益を生み出します。宿泊業はいま、表面的な数字ではなく、ゲストの体験価値で評価される時代に入りました。これから伸びる宿は、設備や立地の良さだけでなく、「このホストなら安心できる」「また会いたい」と思われる宿です。
つまり、数字の裏側には“人の信頼”という目に見えない資産があります。その信頼をどう育て、守り、積み上げていくか、そこにこそ、これからの民泊経営の本質があるのです。

【まとめ】
いま沖縄で起きているレンタカー価格の暴落は、単なるニュースではなく、観光産業全体に向けられた静かなメッセージです。観光とは、交通・宿泊・飲食・土産・レジャーといった多様な要素で成り立つもの。そのどれか一つが崩れると、連鎖的に他の業界にも影響を与えます。レンタカーの過剰供給は、宿泊業の“未来の鏡”かもしれません。価格を下げることは、短期的には稼働を上げます。しかし、信頼と品質を犠牲にした成長は、長くは続きません。いま宿泊業に必要なのは、値下げではなく、見直しなのかもしれません。
数字の向こうにいるゲストと真摯に向き合うこと。それこそが、沖縄という地域全体を持続的に成長させる最良の道ではないでしょうか。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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