民泊オーナーが最初に押さえるべき9つの数字

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄民泊


「売上や稼働率を上げたいけれど、どの数字から見ればいいの?」――民泊を始める前後のご相談で最も多いテーマです。この記事は、始めるか迷っている方や、運営をご自分でまだ初心者だと思っている方に向けて、まず押さえたい9指標をやさしく整理しました。定義/意味/計算式/活用事例の順に解説します。数字は難しく見えても、仕組みが分かると“自分ごと”になり、日々の判断が一段クリアになります。

【1】 客単価(Average Spend per Guest)
定義:1人あたりの平均売上。
計算式:客単価 = 売上 ÷ 客数
意味:客単価は「ゲスト1人がどれだけの価値を感じて支払ってくれたか」を示す数字です。民泊はホテルと違い、客室数が限られているため、この指標を理解せずに収益設計を考えるのは危険です。まさに、客単価は運営の出発点であり、ターゲット像を映す鏡でもあります。
活用事例:私がサポートしているある物件では、毎月「客単価の推移」を確認することを習慣化しました。例えば、同じ月でも週末と平日ではゲスト層が異なり、結果として単価の動きも違ってきます。そこから「平日は家族利用が多いから割安に見える設定を意識しよう」「週末はグループ利用が中心だから少し強気に出ても成立する」といった判断が可能になります。数字を単なる結果で終わらせず、次の価格設定や集客戦略に活かすことが、客単価を“収益を生み出す指標”に変える第一歩です。

【2】 宿泊客数(Total Guests Stayed)
定義:期間中に宿泊した総人数。
計算式:宿泊客数 = 期間内の延べ宿泊者数
意味:宿泊客数は売上の母数そのものです。どれだけ客単価が上がっても、宿泊客数が減れば総売上は伸びません。民泊運営においては、単価と並んで「稼働のボリューム」を示す基本的な指標となります。
活用事例:私がサポートしている開業間もない物件では、「宿泊客数」を週単位で確認しています。最大定員で予約が入れば、その分収益も上がるため、カップル・家族連れ・友人同士などゲストの属性にも目を向けています。その上で、設定宿泊費や追加人数単価の調整に活かし、収益最大化につなげています。

【3】 客室稼働率 OCC(Occupancy Ratio)
定義:販売可能客室がどれだけ利用されたかを示す割合。
計算式:OCC(%)=(利用客室数 ÷ 販売可能客室数)×100
意味:客室稼働率(OCC)は、需要の強さを測る最も基本的な指標です。繁忙期と閑散期の差、曜日ごとの傾向、イベントによる変動を把握するのに適しており、運営の現状を“数字”でつかむ出発点になります。定期的にOCCを確認することで、売上の土台となる「稼働の実態」がより鮮明に見えてきます。
活用事例:私がサポートしているある物件では、OCCを毎月算出し、前年同期と比較して進捗状況をチェックしています。稼働が想定より低調な場合は、その原因を分析したうえで、価格設定の調整やキャンペーンなどの施策に即座に反映。一方で、稼働が計画より好調に進んでいる場合には、価格を強気に設定するなど収益最大化につなげています。こうしてOCCを軸に状況を把握することで、柔軟かつ戦略的な運営判断が可能になります。

【4】 客室平均単価 ADR(Average Daily Rate)
定義:販売できた客室1室あたりの平均売上。
計算式:ADR = 売上 ÷ 利用客室数
意味:ADRは価格受容性の“実勢”を表す数字です。写真や説明文、レビューの印象、立地といった要素がそのまま反映されるため、ゲストが「この価格に見合う価値がある」と感じたかどうかを示す指標でもあります。
活用事例:私がサポートしているある物件では、開業4か月目に初月の1.3倍、6か月目には2.5倍までADRを引き上げることができました。大きな要因は、写真・タイトル・紹介文を見直し、ターゲット層に響く内容へ改善したことです。さらに、清掃品質を安定させ、ゲストへのメッセージ対応も日々工夫を重ねた結果、レビュー評価が向上。その積み重ねにより、強気の価格設定でも予約が入るようになりました。つまり、ADRは単なる価格調整の数字ではなく、日々の運営改善が“市場からの評価”として返ってくる鏡のような存在だと実感しています。

【5】 RevPAR(Revenue per Available Room)
定義:販売可能客室1室あたりの売上。
計算式:RevPAR = OCC × ADR
意味:RevPARは、稼働率(OCC)と客室平均単価(ADR)を掛け合わせた指標で、収益効率を一本化して示す“核心の数字”です。OCCだけでは「どれだけ埋まったか」しかわからず、ADRだけでは「どれだけの単価で売れたか」に留まります。その両面を統合することで、物件の収益力をより正確に捉えることができます。
活用事例:私がサポートしているある物件では、ある月にOCCが前年同月比で微減した一方、ADRは大きく上昇しました。単体で見ると「稼働が落ちた」と不安になりますが、RevPARで確認すると総合的にはプラス。逆に、OCCが好調でもADRを下げすぎるとRevPARが横ばいになり、収益効率は伸び悩みます。以後は「OCCを上げつつADRを落としすぎない」「RevPARを常にチェックして収益の答え合わせをする」という考え方を浸透させています。

【6】 定員稼働率(Capacity Utilization Rate)
定義:設定された定員に対して、実際にどの程度利用されているかを示す割合。
計算式:定員稼働率(%)=(宿泊客数 ÷ 客室総定員)×100
意味:客室が満室でも、利用人数が定員の半分では売上効率は十分に発揮されません。特にファミリーやグループ利用が多い沖縄では、実際にどのくらいの人数で利用されているかを把握することが重要です。定員稼働率を確認することで、収益効率やターゲット層とのズレを見極められます。
活用事例:私がサポートしている7名定員の物件では、平均「3.2名」という結果が出ました。分析すると、利用者の約40%がカップルであり、定員を活かしきれていない状況が明らかになりました。そこで、家族連れや友人同士のグループ旅行を意識した写真や説明文に修正し、価格設定も再調整しました。徐々に結果が現れてきています。

【7】 一人あたりの宿泊数(Average Length of Stay per Guest)
定義:1人あたりが平均して何泊するかを示す指標。
計算式:一人あたりの宿泊数 = 延べ宿泊数 ÷ 宿泊利用者数。
意味:一人あたりの宿泊数は、ゲストの連泊率を把握するための重要な指標です。連泊が多いほど清掃やチェックイン対応の回数が減り、同じ売上でも運営コストを抑えることができます。効率性と収益性の両面を測るうえで欠かせないデータです。
活用事例:私がサポートしているある物件では、この数値が「2.6泊」と算出されました。さらに国別で分析したところ、日本人や韓国人は短期滞在の傾向が強い一方、台湾や香港からのゲストは比較的長く滞在するケースが多いことが分かりました。この違いを踏まえ、ターゲットに応じたプロモーションや価格設定を工夫することで、稼働効率をさらに高める取り組みを進めています。

【8】リピート率(Repeat Rate)
定義:再訪したお客様の割合。
計算式:リピート率(%)=(再来訪者数 ÷ 総来訪者数)×100
意味:リピート率は、ゲスト満足度と信頼関係の積み重ねを可視化する中長期的な指標です。特に小規模民泊においては口コミの影響力が大きいため、リピーターの存在は安定した運営を支える基盤となります。
活用事例:私がサポートしているある物件では、気に入ったゲストが翌年同じ時期に再び予約するケースや、短期間に繰り返し訪れるケースが一定数見られます。利用しているOTAによってはリピート客が判別できるため、その際にはメッセージでの特別対応やウェルカムドリンクの用意など、顧客満足度を高める工夫を行っています。こうした心配りはゲストのロイヤルティをさらに強め、友人や知人への紹介につながることも多く、結果として新規集客の循環を生み出しています。

【9】 顧客満足度(Customer Satisfaction Score, CSAT)
定義:レビューやアンケート結果をもとに算出される評価指標。
計算式:任意(例:5点満点の平均、NPS (ネット・プロモーター・スコア)など)。
意味:顧客満足度は、短期的には稼働率や客単価に、長期的にはブランド形成に直結する「総合的な評価」です。数値指標に加え、自由記述の傾向を読み解くことが改善の大きなヒントとなります。
活用事例:私がサポートしている開業間もない物件では、レビュー本文を定期的に分析し、頻出ワードを抽出・確認しています。星評価の数値以上に、「何が評価され、何が課題と感じられたのか」を細かく把握することで、次の改善策を具体的に立案可能となります。特に、下記要素を重点的にチェックすることで、顧客体験の質を継続的に高めています。
①室内の快適性・清潔感
②チェックインのスムーズさ
③ホストの対応の丁寧さ
④ゲストからの具体的な称賛ポイント
⑤他のゲストへの推薦表現

【初心者にとっての優先順位】
まずはOCC・ADR・RevPARの三本柱から。
①OCCで需要の強さと曜日・季節差を把握
②ADRで価格の実勢を確認
③RevPARで収益効率の答え合わせ
この3つに客単価と顧客満足度を足すと、短期~中期の運営判断が一気に見通しやすくなります。さらに定員稼働率と一人あたりの宿泊数を月次で見ると、物件タイプごとの“らしさ”が掴めます。リピート率は年単位で傾向を追い、宿泊比率は施設の方向性を確認するなど、ご自身や施設に合わせた活用をおすすめします。

【まずはここから:自分の宿データを“集計してみる”】
次の数値を整理するだけでも、見えてくるものがあります。
① 予約日
② チェックイン日
③ チェックアウト日
④ 宿泊日数
⑤ 宿泊客数
⑥ 国
⑦ 属性(カップル/家族/友人グループなど)
⑧ 宿泊売上
この一覧を作れば、自分でもExcelやスプレッドシートで傾向を把握できますし、ChatGPTのようなツールに読み込ませて分析を依頼することも可能です。大切なのは「数字を貯めること」ではなく、「数字を並べてみて、次にどうするかを考える」ことです。最初はシンプルで構いません。まずは表にして眺めることが、改善の第一歩になります。
まずは1指標から。焦らず、基本を1つずつ。
「自分の宿の数字、どう読み解けばいい?」と思った方は、お気軽にご相談ください。数字は“怖いもの”ではなく、必ず味方になります。

ここまでお読みいただきありがとうございます。気になる点や感想などがあれば、ぜひメールやLINEでお知らせください。皆さまの声が次回のテーマづくりにもつながります。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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