インバウンド需要を数字で読む ― 国別構成と予約傾向【4/5】

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄民泊


インバウンド需要が戻りつつある今、民泊運営において「どの国からの予約が多いのか」「ゲストがどのタイミングで予約を入れるのか」を数字で把握することは、運営改善に欠かせない視点です。とりわけリゾートの物件では、都市部の宿泊施設と比べてゲスト層や予約行動に違いが表れやすく、その差を理解することが収益安定の第一歩となります。今回の南城市物件(以後、当物件とします。)の予約データから国別の構成比と予約タームの傾向が明らかになりました。これらの数字を丹念に確認することで、「どの市場を重点的に狙うべきか」「いつ需要の波が来るのか」といった戦略的な判断が可能になります。データを活用する姿勢こそ、民泊オーナー様にとって継続的に成果を上げるための大きな武器になるのです。



【国別ランキングから見る主要市場】
国別の構成を整理すると、最も多いのは台湾で35%、次いで韓国20%、日本18%となり、この3市場だけで全体の73%を占めています。つまり当物件の宿泊需要は、近隣主要市場である台湾・韓国・日本によって強く支えられていたといえるでしょう。ここで注目すべきは、日本人ゲストがわずか18%にとどまり、残りの82%は海外からの利用だったという点です。沖縄県内の宿泊施設は日本人観光客に依存するケースも多い中、当物件では、むしろ海外ゲストが圧倒的多数を占めていたのです。これは「インバウンドに強い物件」としての性格を示す、重要な特徴だといえます。
さらに詳細を見ていくと、香港が9%、中国4%、タイ3%、シンガポール3%、アメリカ2%と続き、マカオ、オーストラリア、マレーシア、ニュージーランドからの予約も少数ながら確認されました。これらの割合は上位3市場に比べれば小さいものの、多様な国からの需要が確実に存在していたことを裏付けています。



【予約タームが示す「計画的旅行層」への支持】
次に、予約がいつ入っていたのかを期間別に整理してみましょう。最も多かったのは「10週間以上前」で39%を占め、全体の約4割に達していました。ここから、ゲストの予約行動をより明確にするために、予約タームを3つの期間に分けて確認していきます。
まず「4週間以内」の短期予約は全体の24%にとどまりました。つまり、4組に1組程度しか直前で予約をしていなかったことになります。都市部のビジネスホテルやシティ型民泊では、出張や急な旅行による直前予約が大きな割合を占める場合もありますが、当物件ではその需要は限定的でした。このことから、当物件が「急な宿泊先探し」ではなく、計画的に組まれた旅行の選択肢となっていたことがわかります。
次に「5〜9週間」の中期予約層は38%で、全体の約4割近くを占めていました。1か月から2か月強という期間は、多くの旅行者にとって「フライトやレンタカーを押さえ、その後に宿泊先を確定する」タイミングです。この層が一定の割合を占めている事実は、当物件が旅行計画の中盤に確実に組み込まれていた証拠といえるでしょう。
そして最も多かったのが「10週間以上前」の早期予約で、全体の39%に達しました。実に4割近いゲストが3か月以上前から宿泊を確定していたのです。この厚みのある早期予約層は、沖縄旅行が「航空券やスケジュールを早めに押さえて計画する旅行スタイル」であることを示しています。特に海外からのゲストは、フライトや休暇調整の関係で早めに宿泊先を確保する傾向が強く、当物件でもその特徴が色濃く表れていました。
総合的に見ると、当物件は「直前予約に依存しない、計画性の高い旅行層」に強く支持されていたことが明確です。早期予約と中期予約を合わせると全体の77%に達しており、突発的な需要ではなく「旅行計画にしっかり組み込まれる宿泊先」として機能していたといえるでしょう。
さらに、この予約の安定性を支えていたのが、レビュー総合評価4.8という高評価です。ゲストにとって数か月先の予約を決断する際には、「安心して選べる宿かどうか」が大きな判断材料となります。星4.8という実績は「清潔さ」「ホスト対応」「設備の充実」といった日々の努力の積み重ねによって築かれた信頼の証であり、早期予約層に安心感を与える強力な裏付けになっていたのです。裏を返せば、運営戦略もこの数字に基づいて考える必要があります。直前割引に注力するよりも、高評価レビューによる信頼性を前面に打ち出し、数か月先の予約を意識したプライシングやキャンペーンを展開するほうが効果的です。データが示しているのは、単なる予約時期の傾向ではなく、「信頼と安心感を武器に、計画的旅行層に照準を合わせるべき」という実践的な戦略指針なのです。

【外部要因が与える影響】
国別の構成や予約タームの傾向は、単に物件そのものの魅力だけでなく、外部環境の影響を大きく受けています。
まず航空路線の存在です。台湾・韓国・日本はいずれも沖縄への直行便が整備されており、渡航のハードルが低いことが、宿泊需要の大きな割合を支える要因になっています。逆に、アメリカやオセアニアからの利用が少数にとどまるのは、直行便の有無や物理的な距離の問題が背景にあると読み取れます。アクセスのしやすさは、そのまま予約数の差につながるのです。
さらに、為替の影響も無視できません。円安局面では、日本を訪れる旅行者にとって実質的な費用負担が軽くなります。その恩恵を最も受けやすいのが台湾や韓国といった近隣諸国であり、今回のデータにおいてこれらの国の比率が高く出ているのも、その一因と考えられます。
航空路線と為替はいずれも民泊オーナーが直接コントロールできる要素ではありません。しかし、自分の物件に訪れるゲストが「なぜその国から来ているのか」を背景ごと理解しておくことは、戦略を立てるうえで欠かせません。外部要因を前提にした上で集客施策を考えることで、強みを伸ばし、弱点を補う運営につなげられるのです。

【まとめ】
今回の分析から見えてきたのは、当物件が「東アジアに強い宿泊拠点」として機能していたという事実です。台湾・韓国・日本を中心に、香港や中国を含めると8割以上が東アジアからのゲストで構成されていました。加えて、予約タームの分布では、早期・中期予約が全体の77%を占め、直前予約に依存しない計画的な旅行層に支持されていたことが明確になりました。この安定した予約行動を下支えしていたのが、レビュー総合評価4.8という高評価です。ゲストが数か月先の予約を安心して決断できた背景には、「清潔さ」「ホスト対応」「設備の充実」といった日々の努力の積み重ねがありました。高評価レビューの存在が信頼の証となり、早期予約層を確実に取り込む強力な武器となっていたのです。
一方で、航空路線や為替といった外部要因が、国別構成や予約傾向に直接的な影響を与えていたことも忘れてはなりません。これらはオーナー様がコントロールできるものではありませんが、背景を理解したうえで施策を練ることが、安定した集客につながります。
最終回となる第5回では、数字の裏側にある「ホストの在り方」をテーマに据え、私自身の経験を通じて掘り下げていきます。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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