インバウンド需要を数字で読む ― 国別構成と予約傾向【4/5】

沖縄で民泊を始めたオーナー様の中には、「部屋を整えているのに稼働率が思うように伸びない」「レビュー評価が星4.6前後で頭打ちになっている」と悩む方が少なくありません。私自身も同じ課題を抱えた経験があります。今回のコラムシリーズでは、私が沖縄県南城市で約2年半運営した実際の民泊物件を題材に、データとレビューを通して改善の道筋を提示します。数字やゲストの声を可視化し、「運営するとこう見られるのか」というリアルをお伝えし、読者の皆様が自分の物件改善に応用できるヒントを提供することを目的とします。
【物件概要と運営期間】
対象物件は那覇空港から車で約40分、南城市にある築6年のRC造マンションの一室。広さ57㎡、3LDKの間取りで、3階建ての3階部分に位置し、エレベーターはなく、駐車場は2台分を確保していました。周辺は閑静な住宅街にあり、観光地の喧騒からは一歩引いた落ち着いた環境です。物件は「静けさ」「自然との近さ」が魅力である一方、車移動が前提となる場所でした。この物件を私はAirbnbを通じて約2年半運営しました。宿泊スタイルは短期から長期まで幅広く、家族連れやグループ旅行が中心。観光需要の増加やインバウンド回復の波に乗り、国内外から多様なゲストが訪れたことが特徴です。都市部の民泊とは異なり「車ありき」「のんびり滞在型」という地方物件ならではの特性を持っていました。
【レビュー202件という数字の意味】
運営期間中に蓄積されたレビューは202件。Airbnbは公式にレビュー投稿率を公表していませんが、私の感覚としては80〜90%のゲストがレビューを残してくれていました。これを逆算すると、実際の宿泊件数は220〜250件前後と推測できます。単純に数字を並べると「202件」と見えますが、この裏には年間ベースで約100件の宿泊予約があり、稼働の積み重ねが存在したのです。例えば、1泊2日の短期利用であってもレビューは1件、1週間の滞在であっても1件とカウントされるため、レビュー件数=宿泊日数ではありません。それでも200件を超えるレビューの蓄積は、ゲストとの接点の多さを示しており、データとして分析する価値が極めて高いと言えます。
【国別ランキングから見る利用者構成:グラフ1】
利用者の国籍別構成を整理すると、台湾(約35%)、韓国(約20%)、日本(約18%)の3市場が全体の7割以上を占めていました。つまり、この3カ国・地域だけで集客の大部分をカバーしており、集客戦略を考える上で「どの層を主軸にするか」が明確に見えてきます。台湾ゲストは家族連れやグループでの利用が目立ち、韓国は比較的若い層や友人同士の旅行、日本はファミリー層や沖縄リピーターといった構成が多く見られました。
一方で、香港、中国、欧米からのゲストも一定数存在していました。南城市は観光の中心地から外れているため「国際的な需要は弱いのでは?」と思われがちですが、実際には自然環境や静けさを求める旅行者にとっては魅力的な滞在先になっていたのです。特に欧米からのゲストは「長期滞在」や「ワーケーション」目的で利用する傾向があり、滞在日数や消費単価の面で大きなプラス要素となりました。このデータは、南城市のようなローカル色の強いエリアでも国際的な集客が可能であることを裏付けています。
【予約人数ランキングから見る滞在スタイル:グラフ2】
予約人数の分布を比率で見ると、最も多いのは「4人」(25%)。次いで「6人」(18%)、「5人」(16%)が続きます。ここまでの4〜6名で全体の約60%を占めており、中心は“中規模グループ”であることがはっきり読み取れます。一方、少人数では「2人」(10%)と「3人」(9%)が合計19%。カップル・夫婦や親子、小さなグループの需要も土台として確実に存在します。さらに大人数側を見ると、「7人」(9%)や「8人」(5%)が一定数あり、9〜12人の超大人数は合計で8%(9人:2%、10人:3%、11人:2%、12人:1%)。この分布は、57㎡・3LDKという間取りと、駐車場2台という受け入れ条件が、家族や友人グループに最も適合していたことを示します。個室を分けつつリビングに集まれるレイアウトは4〜6名にフィットし、7〜8名でもエキストラ寝具の活用で対応しやすい。一方で2〜3名の少人数も2割弱あり、平日や閑散期の底支え層として重要です。
【まとめ】
今回取り上げた南城市の事例は、レビュー202件という数字を起点に、利用者の国籍や予約人数の傾向を細かく見ることで「どの層が中心だったのか」「なぜそのような利用スタイルが多かったのか」を具体的に示すことができました。台湾・韓国・日本という3市場で全体の7割を構成していたこと、そして4〜6名のグループや家族旅行が圧倒的多数だったことは、物件の間取りや立地と利用者ニーズがしっかりと噛み合っていた証拠といえます。一方で、これらのデータは「強みの裏返しとしての弱み」を見落とさないためにも役立ちます。静かな環境は魅力であると同時に交通利便性の課題を生み、グループ利用に適した間取りは少人数利用者にとってはやや割高感を与える場合もあります。こうした両面を把握することが、運営改善の第一歩になります。
次回は、このレビュー202件をさらに「強み」と「弱み」に分解し、清潔さ・対応力といった高評価要因から、立地や設備に関する改善余地までを掘り下げて整理していきます。レビューを数字としてだけでなく、実際のゲストの声としてどう活かすか。その具体策を一緒に見ていきましょう。



