空き家・賃貸物件を“負動産”から“収益資産”へ【1/5】

【空き家がオーナー様に突きつける現実】
沖縄に暮らす不動産オーナー様にとって、「空き家」をどう扱うかはますます切実な課題になっています。親から相続した家をそのまま放置している、あるいは賃貸に出したものの思うような収益が得られていない、といった声を耳にすることも少なくありません。空き家の存在は所有者本人だけの問題ではなく、地域の景観や安全性、さらには資産価値全体にも影響を及ぼす重大なテーマです。
【統計から見る沖縄の空き家状況】
2023年の総務省調査によると、沖縄県の空き家率は9.4%。全国平均13.8%より低く、一見すると「沖縄は空き家が少ない」とも映ります。しかし実際の空き家戸数は65,400戸に達しており、決して小さな規模ではありません。さらに特筆すべきは、住宅供給の増加スピードです。2018年から2023年のわずか5年間で総住宅数は7.2%増加し、全国一の伸び率を記録しました。新築住宅が次々に建つ一方で、古い住宅や利用されない建物は取り残され、地域に空き家が点在する構造が浮かび上がっています。
【沖縄特有の持ち家率の低さ】
沖縄の持ち家率は42.6%で全国最下位。全国平均がおよそ60%台で推移していることを考えると、この差は大きいといえます。背景の一つには、県外からの移住者や長期滞在者の多さがあり、賃貸需要が安定して存在していることが挙げられます。オーナー様にとっては貸し出すチャンスがある一方で、「貸したはいいが収益が伸びない」「管理が難しい」といった課題も顕在化しやすい状況です。
【観光需要と空き家活用の可能性】
観光立県である沖縄は、空き家活用の可能性が全国的にも注目されています。2023年には観光客数が年間1,000万人を突破しました。那覇市内の都市型需要、北谷町や恩納村のリゾート需要、北部の自然を求める中長期滞在需要など、エリアごとに異なる特徴があります。実際、北谷町のAirbnb市場では1泊あたりの平均単価が約228ドル、年間収益中央値は35,400ドルに達し、前年から22%以上増加しました。那覇市でも稼働率が64%と高水準を維持し、特に外国人観光客の利用が多い傾向があります。これらの数字は「立地と運営次第で空き家を資産に変えられる」ことを示しています。
【民泊運営には法的ルールが必須】
一方で注意すべきは、すべての空き家が宿泊施設に転用できるわけではないという点です。
民泊を運営するためには旅館業法または住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく許可や届出が不可欠です。たとえば住宅宿泊事業法では、年間180日以内という営業日数制限があります。さらに、エリアや用途地域によっては営業そのものが認められない場合もあるのです。また、地域住民の理解を得ることも重要です。無許可営業が発覚すれば罰金や営業停止といったリスクを負うことになります。私は宅地建物取引士、そして住宅宿泊管理業者として、多くのオーナー様から相談を受けてきました。法的に安全な形で進めることが、結果的に最も安心で収益性の高い選択になるのです。
【放置された空き家が招くリスク】
空き家を放置するリスクは年々大きくなっています。特に沖縄は台風常襲地域であり、老朽化した建物が強風で屋根や外壁を飛ばし、近隣住宅や通行人に被害を与える事例も少なくありません。庭木や雑草が伸び放題になれば、害虫やネズミが発生します。景観の悪化は地域全体の不動産価値を下げ、結果的に所有者自身の資産価値をも毀損します。さらに、人が出入りしていない家は不審者に狙われやすく、不法投棄や放火といった犯罪の温床となるケースも報告されています。
【空き家活用の第一歩は現状把握】
活用を考える際にまず行うべきは「現状把握」です。建物の劣化度合い、修繕の必要性、固定資産税や維持費の確認、そしてエリアの需要調査。これらを冷静に整理することで、初めて「売却・賃貸・民泊」という現実的な選択肢が見えてきます。例えば那覇市中心部にあるマンションタイプの空き部屋なら、短期民泊で外国人旅行客をターゲットにするのが有効でしょう。一方、北部の自然に囲まれた戸建てであれば、長期滞在型やワーケーション需要を狙う戦略が考えられます。立地や建物の性質によって、最適な活用方法は大きく変わるのです。
【首都圏と異なる沖縄市場の特性】
私は東京の大手不動産会社で都心の高級物件を取り扱ってきた経験がありますが、沖縄に移ってから強く感じるのは「首都圏以上にエリア特性が収益を左右する」ということです。那覇で通用する戦略が恩納村では必ずしも成功せず、北部の需要はさらに独自性を持っています。首都圏投資家と沖縄の物件をつなぐ際も、このエリア特性を理解しているかどうかが交渉の成否を決めるのです。
【見た目や築年数よりも“運営しやすさ”】
民泊運営を考える借り手にとって、物件の魅力は外観の豪華さや築年数ではありません。実際の運営に必要な条件がそろっているかどうかが重要な判断基準になります。例えば、民泊施設として活用しやすい間取り、安定したWi-Fi環境、あるいは他物件との差別化につながる個性などです。これらは借り手にとって優先度の高い条件であり、オーナー様にとっても比較的負担の少ない整備で実現できます。逆に高額なリフォームを施しても、想定賃料や需要と合わなければ投資回収は難しく、借り手から見送られる可能性があります。借り手に「ここなら安心して運営できる」と感じてもらえることこそ、収益化への最短ルートと言えるでしょう。
【まとめ:空き家はリスクにも資産にもなる】
沖縄における空き家問題は、「地域の安全」「景観」「資産価値」「観光需要」といった多層的な要素と直結しています。放置すればリスクとなり、活用すれば大きなチャンスになります。
大切なのは、正しい情報と戦略を持ち、法制度に則った安全な活用を進めることです。
次回は、人口動態や移住ニーズが沖縄の持ち家活用にどのような影響を与えているのかを詳しく解説します。



