パート労働者も社会保険に加入する義務があります
人手不足への対応が急務となる中、配偶者がいる女性を中心に社会的な課題として注目されているのは「年収の壁」の問題です。その解決の手段として登場した施策が、パート労働者が「年収の壁」を意識せずに働くことができる「年収の壁・支援強化パッケージ」です。
今回は「年収の壁」の「106万円の壁」について説明します。
「106万円の壁」とは、社会保険(健康保険及び厚生年金保険)や雇用保険に加入することにより、その保険料の支払により手取りが減少することを避けるため、就業調整をする収入基準を言います。
従業員が101人以上いる事業所で働き、週の労働時間が20時間以上、かつ賃金が8万8000円以上あるパート労働者は社会保険に加入する義務があります。今年10月からは、社会保険加入義務は従業員101人以上から、51人以上に拡大します。
「106万円」は、月額賃金が8.8万円以上であることでこれを年収に換算してみると、8.8万円×12ヶ月≒106万円になることにより示された額になります。
注意しなければならないのは、この106万円には所定内賃金のことであり、基本給と諸手当の合計額になります。年3回以下のボーナス、残業手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、皆勤手当て、通勤手当、家族手当などを含みません。一方、社会保険料の算定に用いる標準報酬月額にはこのボーナス、残業手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、皆勤手当て、通勤手当、家族手当を含みます。この点が、ややこしいところです。
所定内賃金とは、雇用契約書(労働契約書)などで個人ごとに決められている賃金になります。
賃金が時給であるパート労働者の所定内賃金の計算方法は
(時間給)×(週所定労働時間)×(52週)÷12ヶ月 で求められます。
例えば、週労働時間が20時間で、時給が1000円のパート労働者の場合
1000円×20時間×52週÷12ヶ月 ≒ 86,667円
となってしまい、社会保険に加入する義務はありませんが、21時間の労働時間になりますと91,000円になり加入義務が生じます。会社の繁忙期に少しでも長く働いてもらいたい時期に、就業調整されると会社としては他の従業員に時間外労働をお願いするなど、労働者の確保のため調整が強いられます。
昨年10月に長崎県の最低賃金が898円に上昇したことにより、今までの就業時間では月額賃金が8.8万円を超えてしまうというパート労働者が何人も出てしまったという会社は多いと思います。
パート労働者が社会保険に加入することになった場合、亊業主と労働者には対応が必要です。
(1)亊業主が取らなければならない対応
賃金から社会保険料を控除することにより手取り収入が減ることになりますが、亊業主はパート労働者に将来の年金額が増えること、出産時に産前産後休業手当、業務外の傷病により仕事ができなくなったとき傷病手当が受給できることなどを説明して丁寧な対応が必要です。
(2)パート労働者の対応
勤務先の社会保険に加入することになりますので、これまで家族の社会保険の被扶養者になっていた場合、被扶養者から外す手続きを取らなければなりません。また、国民健康保険に加入していた場合、市町村の窓口で脱退する手続きを行う必要があります。
8.8万円は基本給と諸手当です。ボーナス、残業手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、皆勤手当て、通勤手当、家族手当などを含みません。事業所はこの8.8万円の計算を正しく理解し対応しましょう。