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いきあたりばったりの文化

菊地茂

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 今日は、渡辺裕子先生の言葉のご紹介です。


 北海道浦河町にある「べてるの家」(統合失調症をはじめ精神的な症状を持つ人たちが安心して暮らしている町)を尋ねました。その折、「べてるの家」の活動の基盤をつくったソーシャルワーカー、北海道医療大学教授向谷地生良氏によるセミナーへも参加。受付、会場係、音響関係、司会者、開会挨拶者、全て症状を抱えた当事者たちです。司会者が開会の挨拶者をとばして次のプログラムに進んでしまったり、講演者の紹介を忘れてたりしても「べてる」流に言えば、’それで順調’なのです。
 しかし私は内心ハラハラ、ドキドキ。ようやく向谷地氏による基調講演、「準備不足でバタバタしてすみません」からはじまるのかと思いきや、「みなさん、今見ていただいたように私たちは何の前打合せもしませんし、こんなふうにもいきあたりばったりです。しかしこの30年間これでやってこれたし、いつも何とかなってきたという自信があります」と楽しそうに言い、そしてこう続けたのです。「ここには、いきあたりばったりの文化があります」と。
 いきあたりばったりならできるという発想より、さらにそれを文化にまでしてしまう360度の視点と、にもかかわらず今を楽しんで暮らすためのユーモアの心。私などは一元に生きているつもりでも、まだまだべき思考につかまっていると痛感。
 セミナーの合間、コーヒーが飲みたくなって喫茶店をさがして町中ウロウロ。ようやく見つけたこの町で一軒のみのこの喫茶店も、もう少しで店じまいとのこと。「この町にはコーヒーの飲めるところが一軒もなくなってしまうんですね」と言うと「文化のないところに喫茶店は根づきませんよ」とマスター。私は心の中で「ここにはいきあたりばったりの素晴らしい文化があるのに・・・」。



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