「死亡退職金がある方」のための遺言書の書き方
介護を担ってきた自宅は自分が相続するものと思っていた…
親が亡くなるまで、自分ひとりで介護や身の回りの世話を続けてきたのだから、親名義の自宅は自分が引き継ぐものとして、ほかの相続人もきっと認めてくれるはずだ。相続のご相談を受けていると、そのように考えていらっしゃる方に出会うことがあります。
今回ご紹介するのは、まさにそうした思いを抱えて私のもとへ相談に来られた方の事例です。ご相談者は、ご自身が自宅を単独で相続する内容で遺産分割協議書を作成したものの、相続人の中に反対する方がいて、署名押印をもらえずにいました。
遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しないため、ひとりでも納得していない方がいれば、名義変更をはじめとするその後の手続きにも進むことができません。このご相談者は、書類を手元に置いたまま、次に何をすればよいのか見通せずにいらっしゃいました。
ご相談者にしてみれば、長年の介護をいちばん近くで見ていたはずの家族から反対されるとは、想像もしていなかったのだと思います。期待していた分だけ戸惑いも大きく、どこから手をつければよいのかわからないまま時間だけが過ぎていく、そのような状態で私の事務所を訪ねてくださいました。
反対する相続人に何をどう聞けばよいかわからない
お話を伺うと、ご相談者がいちばん困っていたのは、自分が単独で相続するという協議の内容を、どう説明すれば納得してもらえるのかがわからないという点でした。そのうえ、反対している相続人が何を考え、どのような希望を持っているのかもつかめておらず、それを直接聞くこと自体が怖いともおっしゃっていました。
相続の話し合いは、ふだんは仲のよい家族であっても、お金や不動産が絡むと急に言葉を選ぶようになり、互いの本音が見えにくくなるものです。相手の考えがわからないまま自分の希望だけを伝え続ければ、溝はかえって深まってしまうこともあります。
なお、このご相談者が私に依頼してくださったのは、相続手続きを中心に取り組んでいる行政書士だと感じていただけたからだと思います。
私は大学で法律を学んだ後、ハウスメーカーの営業担当として長く住まいづくりに携わり、2020年に行政書士事務所を開業しました。家を建てる際には施主ご本人だけでなく、ご家族それぞれの意向を伺いながら細かく調整していくことが欠かせず、その経験は相続のご相談でも生きていると感じています。
ハウスメーカー時代には、住宅展示場に来ていただくだけでは表面的なやり取りにとどまり、お客さまの本当の希望が見えないことも少なくありませんでした。
行政書士の仕事も同じで、相談者の方がどのような生活をしていて、悩みの背景に何があるのかを理解することが大切だと考えています。そのため、ご希望があればご自宅に伺う出張相談も行い、かしこまらずにお話しいただけるよう、親しみやすい雰囲気づくりを心がけています。
依頼者の希望だけではない、遺産分割協議書の別案を用意
私がまず取り組んだのは、ご相談者の希望どおりの内容だけにこだわらず、反対している相続人の立場も考えたうえで、別の遺産分割協議書の案を用意することでした。
具体的には、法定相続分を前提にした分け方にした場合、相続人全員が納得できる形になるかどうかという観点から、いくつかの案をつくってご相談者に提案しました。案を考える際には、介護を担ってきたご相談者の思いを否定するのではなく、その事実を受け止めたうえで、ほかの相続人の側から見ても受け入れやすい内容になっているかどうかを、一つひとつ確かめることを大切にしました。
法定相続分は民法で定められた相続人ごとの取り分の目安であり、話し合いによって別の割合を決めることもできますが、意見が分かれたときに全員が共通して立ち返ることのできる基準になります。
自宅を単独で相続するという当初の希望から離れた案を検討するのは、ご相談者にとって簡単なことではなかったはずです。それでも複数の案を並べてみると、自分の希望とほかの相続人の受け止め方との間にどれくらいの距離があるのかを、落ち着いて見比べやすくなります。
案を一つしか持たずに話し合いに臨むと賛成か反対かの二択になりがちですが、選択肢があれば、互いに歩み寄る余地も見つけやすくなるものです。
なお、行政書士は相続人の間に入って交渉を行うことはできませんので、話し合いそのものは相続人の皆さまで進めていただき、私は書類の作成という立場からお手伝いをしました。
法定相続分で合意できたものの、時間がかかった
最終的には、法定相続分による相続でほかの相続人にも納得していただき、遺産分割協議はまとまりました。ただし、合意に至るまでにはかなりの時間を要しています。
その間、ご相談者にとっては気持ちの面でも負担の大きい日々が続いたと思いますが、相続人全員が納得したうえで合意できたことで、ようやく次の手続きへ進める状態になりました。
ご相談者はこの経験を振り返り、ほかの相続人も了承してくれるだろうと安易に考えず、まず相続人同士でよく話し合い、合意してから遺産分割協議書の作成を依頼すべきだったと話してくださいました。
自分の思い込みで進めずに全体の調和を大切にすることが必要であり、順番を間違えると合意まで時間がかかるうえ、ほかの相続人から不信感を持たれてしまう可能性もあるという言葉は、今も私の印象に残っています。
介護の負担を引き受けてきたご相談者の思いそのものが、間違っていたわけではありません。ただ、協議書という形を先に整えてしまったことで、ほかの相続人には決まったことを示されたように映ったのかもしれず、結論を書面にする前に全員の考えを持ち寄る時間が必要だったのだと、私もこの事例を通じてあらためて感じました。
同じ内容の協議書であっても、どの順番で準備を進めるかによって、相続人の受け止め方や合意までの道のりは大きく変わってくるものです。
相談する前から相続人同士の関係を築いておく
この事例から同じ悩みを抱える方にお伝えしたいのは、できる限り相談の前からほかの相続人と連絡を取り合い、親密な関係を築いておくことの大切さです。ふだんから近況を伝え合っていれば、相続の話になったときにも相手の考えを尋ねやすくなり、怖さを感じずに本音を交わせる場面も増えるでしょう。
私自身、行政書士になって間もない頃に父を亡くしましたが、事前に遺言書を書いてもらっていたため、兄弟の間で遺産をめぐって争うような事態にはなりませんでした。病気にならないように予防注射を打つのと同じで、親が元気なうちに財産を整理し、誰にどのように分けたいのかを遺言書に記しておいてもらうことも、残された家族がもめないための備えになります。
介護を担っている方であれば、その経緯も含めて親子で話し合っておく機会にもなるはずです。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意を形にした書類です。合意ができていない段階で書類だけを先に用意しても、署名押印をもらえずに手続きが止まってしまうことがあります。話し合いの進め方に迷ったときや、どのような分け方の案が考えられるのかを整理しておきたいときは、早めにご相談ください。
また、ご相談の内容によっては、弁護士や司法書士といったほかの専門家にお任せしたほうが適切な場合もあるため、状況に応じてご案内いたします。行政書士の役割は、よい意味でハードルが低く、身近な相談先であることだと私は考えています。
どこに相談すればよいのかわからず迷っている段階でも、電話やメール、ビデオ通話など都合のよい方法で、気軽に声をかけていただければと思います。平日の夜や土日祝日のご相談も、事前にご予約いただければ対応いたします。
まとめ
遺産分割協議書は相続人全員の合意があってはじめて役割を果たす書類であり、書類を整える前に家族で話し合う時間を持つことが、円滑な相続につながると私は考えています。
・遺産分割協議書を作成したものの、ほかの相続人から署名押印をもらえずに困っている方
・親の介護を担ってきたことを、相続の話し合いでどう伝えればよいか迷っている方
・相続人同士で話し合う前に、遺産の分け方の案を整理しておきたい方
お問い合わせはこちら:https://masarukanno.com/contact/


