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荻原卓司プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

 【相続】預金債権と相続を巡る問題

荻原卓司

荻原卓司

皆様、お世話になっております。
オギ法律事務所の荻原です。

今回のコラムも、いつもとは趣向を変え、
当事務所に勤務する堀隆史弁護士が作成いたしました。
いつもの荻原のコラムとは異なり、
かなり専門的な事項にも踏み込んだ内容になります。
特に相続実務に関わっている専門家の方や、
現に相続手続に直面している当事者の方々にとって、
とても参考になる内容だと思いますので、
是非、ご一読いただきたく存じます。

(ここから)

 預金債権の相続の法的性質について、昨年(平成28年)の12月18日に、従来の最高裁の立場を変更する判決が出されました。
今回は、この判例を、私(堀)の方からご紹介させていただきます。
1.はじめに
 (1)相続は、被相続人が死亡した時点から始まり、被相続人の相続財産はすべていったん共同相続人全員に包括的に承継されます。その後、共同相続人間で遺産分割協議が行われ、具体的に各相続人に相続されるというのが一般的な流れとなります。
 そして、包括承継の意味については、民法は、相続人が数人あるときは、相続財産は「共有」に属すると規定しています(898条)。
 すなわち、遺産分割がなされる前の時点では、各共同相続人は相続分の割合で相続財産を取得するに過ぎません。
  例えば、相続財産が不動産で、相続人がAとBの2人の場合、AとBは本件不動産について2分の1ずつの持分を持つに過ぎないということになります。(その後、AとBが協議して、Aが不動産全部を相続し、BはAから代償金をもらうなど具体的に分割していきます)
 (2)もっとも、可分債権・可分債務(例えば、100万円の金銭債権又は100万円の借金)については、遺産分割をする前でも、法律上当然に分割され、各共同相続人が相続分に応じて遺産分割協議を経るまでもなく承継すると解されています(例えば、相続人がAとBの2人なら、特段の協議を経ることなく、AとBが50万円ずつ債権を相続します)。
2.預金債権の相続に関する従前の判例の立場
 (1)従前の判例は、預金債権も他の可分債権と同様に考え、遺産分割協議を経ることなく、法律上当然に分割され、各共同相続人が相続分に応じて承継すると解していました。
  そうすると、相続財産としての預金については、各相続人が相続分に応じた額を、個々人が単独で、銀行に対して払戻請求できることになります。
  なお、当事務所の荻原弁護士もこの方法で払戻請求を行ったことがあります。
 (2)しかし、銀行は、原則として、相続人の遺産分割協議書か相続人全員の同意書がなければ払戻しには応じないという扱いを行ってきました。
 (3)このように、預金については、最高裁の立場(法律上)と銀行の扱い(事実上)が相違しており、銀行が判例の立場に反し、相続人単独の払戻しに応じないことの是非について、下級審(地裁・高裁)でも激しく争われており、下級審の間でも肯定説と否定説で分かれていました。
3.判例変更
そうしたところ、最高裁は、昨年12月18日、被相続人の預貯金口座に存在している預金債権(普通預金・通常貯金・定期貯金)について、全員一致で従来の判例の立場を変更し、預金債権は、法律上当然に分割されるわけではなく、遺産分割の対象になると判示しました(以下「本件判例」といいます)。
最高裁は、判例変更の理由として、①預貯金を遺産分割の対象とする実務上の要請が存在すること、②預貯金は現金と同じと考えられること、③預貯金契約を解約しない限り、預貯金は存続し続け、確定額の債権として分割されることはないのであるから、法定相続分相当額というものは観念的な額に過ぎないということを挙げています。
4.本件判例の射程
(1)先ず、本件判例によって、被相続人の預貯金口座に存在している預貯金(普通預金・通常貯金・定期貯金)については、遺産分割協議が成立する前に、各相続人が単独で払戻しをすることができなくなりました。
(2)もっとも、本件判例は、預貯金債権以外の可分債権(例えば貸金債権)については何ら言及していません。また、例えば、実務上よく問題となる相続人でもない第三者が勝手に預貯金を引き出してしまった場合の不当利得返還請求権(なお、本件判例により相続人の1人が勝手に預貯金を引き出してしまった場合についても今後は不当利得となり得ます。)について、何ら言及していません。
(3)これらの点についてどう考えるべきか。今後の詳細な分析が待たれるところですが、私は、現時点では、以下のとおりに考えています。
ア まず、本件判例の本文(主文・理由)は、被相続人の預貯金口座に存在している預貯金(普通預金・通常貯金・定期貯金)について法律上当然には分割しないと述べるにとどまり、他の可分債権については何ら言及されていません。判決の本文に記載されていない事柄については、判例の効力が及ばないのが原則です。
イ 次に、本件判例を理解する手助けとなるのが、本文の後に述べられている個々の裁判官の補足意見ですが、その中で、岡部裁判官は、「当然に分割されると考えられる可分債権はなお各種存在し、預貯金債権が姿を変える場合もあり得るところ、それらについては上記のとおり具体的相続分の算定の基礎に加えるのが相当であると考える」と述べています。
  すなわち、本件判決は、他の可分債権(貸金債権など)や預貯金債権が姿を変える場合(つまり、預貯金債権が不正に引き出されてしまった場合に行う不正に引き出した者に対する不当利得返還請求権)について、本判決の効力が及ばない(つまり、判例変更はされていない)ことを当然の前提にしていると思われます。
ウ したがって、被相続人の預貯金口座に存在している(引き出されていない段階の)預貯金については、本件判例により、遺産分割協議が成立するまでは、もはや各相続人が単独で引き出すことはできなくなりましたが、他の可分債権(例えば貸金債権)や不正に引き出された預貯金を取り返す場合の不当利得返還請求権については、従来どおり、法律上当然に分割され、各相続人が単独で行使できると考えます。
(4)簡単な事例で説明しますと、例えば、被相続人Aの預貯金が1億円存在していたところ、Aから生前に上記預貯金1億円について贈与を受けたと主張するYが突如現れ、Aの預貯金1億円を勝手に引き出しました。Aの相続人には、XとBの2人の子どものみが存在し、XはAからYへの贈与の事実はないと考え、Yに対して不当利得返還請求をしたいと思っていますが、BはYへの贈与を争うつもりはありません。まだXとBとの間で遺産分割協議は成立していません。
  この場合、Xは単独で、Yに対して、不当利得返還請求をすることができるでしょうか。
  上記私見を前提にしますと、Yによって預貯金が引き出されてしまった時点で、預金債権は不当利得返還請求権へと変質し、本件判例の効力は及ばなくなります。
  すなわち、法律上当然に分割され、各共同相続人が各人の法定相続分に従い承継します。
  そうすると、Xは5000万円についての不当利得返還請求権を承継したことになり、5000万円については、単独で、Yに対して不当利得返還請求を行うことが可能ということになります。
5.本件判例の実務への影響
  以上のとおり、本件判例は、従来の銀行の原則的取扱い(各相続人単独での払戻請求を否定)を全面的に肯定したことになります。
  これにより、実務上大きく争われていた相続人の単独での銀行に対する預貯金の払戻請求権の是非について決着がつきました(単独での払戻請求権は法律上認められない)。
  そういう意味では、実務上、大きな意義を有する判例変更であったと思われます。
6.最後に
  当事務所では、今後も、法律改正や判例変更を検討・分析し、法律実務の変化に速やかに対応していくことを心がけております。
  相続でお悩みの方は、是非、当事務所までご相談下さい。

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