借金が返せなくなりそうなとき、どうすればいい?
3月に入り、暖かい日が増えてきました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回のコラムは、
いつもとは趣向を変え、
当事務所の新規登録弁護士である廣谷有香弁護士が、
私(荻原卓司弁護士)の講演を聞いた感想を、掲載したいと思います。
少しでも役に立つ事項があれば幸いです。
(ここから)
1 はじめに
私は、昨年12月より弁護士登録しオギ法律事務所で勤務しております、弁護士の廣谷と申します。
今回は、オギ法律事務所の所長である荻原弁護士が、平成26年10月から2年間、京都家庭裁判所の家事調停官を行っていた経験を踏まえ、平成29年2月4日に京都産業大学で行った「調停を成立させる5つの方法」と題する講演を聴いて、感じたことをコラムとして書かせて頂きます。
2 家事調停における調停官の役割
家事調停では、当事者が話し合いをし、両者が合意することによって事件を解決します。
しかし、お互いが言いたいことばかり言っていれば、調停は解決しません。
荻原弁護士は、この家事調停手続きに、調停官として、当事者と共に「どうすれば調停が成立できるか」を考えてこられました。
そして、以下の「調停を成立させるために重要なこと」を感じたといっておられます。
3 調停を成立させるために重要なこと
(1)調停の仕組みを知る
まず、調停を成立させるためには、調停の仕組みを知る必要があります。
先ほど書かせて頂いたとおり、調停は合意によって、成立します。合意さえできれば、合意内容はどのようなものでも構いません。
たとえば、「離婚の際に慰謝料をいくら支払ってもらえるか」という点については、訴訟においては、婚姻破綻の有責性等(どちらがどの程度悪いかということ)様々な事情を踏まえ、裁判所が金額を判断します。裁判所の基準はおおよそ0~300万円位とかなり幅があります。
他方、離婚調停の場合、離婚の慰謝料を支払ってもらえるかどうか、およびその額については、相手方との合意のみで決まります。つまり相手方が「その金額で良い」といって合意してくれれば、どのような金額でも合意することができます(あまりにも非常識に高額の慰謝料や、相手がとても払えないような金額で合意するのは別ですが…)。
つまり、調停で慰謝料を支払ってもらえるようにするためには、合意を得るための努力をすることが肝要なのです。
(2)交渉術を学ぶ(メリット・デメリットを伝える)
調停は、当事者が合意することで問題を解決する手続です。そして、人は、一般的に自分にメリットがない合意は行いません。一般的にもそうなのですから、相手が自分と揉めている人物であれば、なおさらでしょう。
したがって、調停では、「この点についてはあなたには損(デメリット)かもしれないけれど、この点についてはあなたに得(メリット)だよ。」などという考え方を示して、当事者に「合意を成立させることが自分にとって得である(デメリットよりメリットの方が大きい)」と知らせることで合意を促すことが重要になります。
(3)双方の事実を把握する(調停でも事実が大事)
調停では、「調停が成立しなかった場合のデメリット」を考える必要があります。具体的には、
ア 調停が成立せず別途審判や訴訟に移行した場合、どのような結果になるか
イ 調停が成立せずにこのままの状況が継続した場合、どのような結果になるか
につき、事実を把握した上で、見通しを立てることが重要だということです。
今までの私にとって、調停は、「当事者が話し合い、合意をする」場であるという認識が強かったため、この点について今まで明確に意識することができていなかったなと思いました。今後は、交渉や調停においても、事実を大事にし、事実に基づく見通しをしっかりと立てていこうと思います。
(4)方針を立て提案する
上記の見通しをもとに、調停におけるメリットとデメリットを踏まえ、方針を立て、相手方に提案することになります。もちろん、上記の通り、人間は自分にメリットがある内容でなければ合意に応じません。提案内容は依頼者にとっても相手方にとっても「調停が決裂するデメリットよりもメリットがある」内容に限られます。
荻原弁護士は「早期に解決案を提示することが、紛争の早期解決につながる」と述べておられました。私も、依頼者の気持ちを大事にしつつ、依頼者と相手方の双方にとってメリットの大きい解決案を早期に提示できるように、研鑽していきたいと思います。
(5)調停成立を遠ざける行為を避ける。
コラムをお読みの方は、調停を成立させて問題を解決するために調停をしているのだから当たり前だろう・・・と思われるかもしれません。
講演では、いくつかの行為があげられていたのですが、ここでは私が特に気になった行為について書かせていただきます。
ア 「解決案を提示した相手方代理人・調停委員・調停官を非難する。」
仮に、解決案が自分の依頼者に不利な内容であった場合、代理人であれば、「どうしてこの内容で提示したのだろう?」と考えると思います。しかし、解決案を示して頂いている以上、その努力を非難してはいけないなと思いました。
イ 「不成立にする気がないのに「不成立にする」という。」
講演では、「このような行為をされると真意が読み切れないため進められない。」と言われました。私自身は見たことがないのですが、とらえようによっては、交渉術なのではないかな・・・?と思いました。しかし、同時に、調停官・調停委員に伝わらない交渉術ではないか、という疑問も感じております。したがって、真意の分からない行動を取るのは得策ではないと感じました。
ウ 「『解決案、次回期日までに検討します』と言って検討してこない(準備してこない)。」
期日が空転すると調停官としては解決案を撤回したくなるそうです。どうして、このようなことが起きたのかは分かりませんが(依頼者様が忙しく、打合せができなかったのかもしれません。)、絶対にこのようなことをしないように肝に銘じました。
エ 調停委員や調停官と法律論で議論を始める
荻原弁護士は「見解が違うんだから仕方ないじゃない。」と述べておりました。おっしゃるとおりだと思いました。調停委員は、法律の専門家ではない方が多いため、法律的に誤解をしていたり、間違っている場合は、弁護士が法律論の説明をすべきだと思います。しかし、必要以上の議論はあまり意味がないと思いました。調停は、あくまで手段であって、調停で議論することが目的な訳ではないからです。
調停は、あくまで問題解決の手段に過ぎません。調停で他の手段を執るよりも問題解決に長期の時間を要するのであれば、訴訟など、他の手段を選択することが求められます。
今回の講演を聴き、改めて調停、訴訟各手続きの特徴を熟知し、事案に応じた解決策を提示できる弁護士になれるよう、仕事に取り組もうと思えました。