借金が返せなくなりそうなとき、どうすればいい?
冷え込みが厳しい日が続きますが、皆様の体調はいかがでしょうか。私はしっかりと防寒対策を行い、体を冷やさないよう日々の業務に勤しんで参ります。
今回は、遺産分割調停の仕組みと、注意点についてお話させていただければと思います。
1 そもそも、遺産分割とは何か
(1)相続の基本的な仕組み
人が死亡した場合、生前に有していた財産や、借金は、消えてしまうのではなく、相続人が受け継ぎます。相続人は、夫や妻といった配偶者、子など、法律で決められております。
(2)遺産分割の必要性
遺産分割とは何か、なぜ必要なのか、大まかにご説明いたします。
よく、「妻だから夫の遺産を半分もらえる」というような話を聞きます。例えば、遺言がなされておらず、妻と子が相続人である場合、基本的に妻は夫の遺産を、2分の1の割合で取得することが出来ます(民法900条1号)。このように、遺言がない場合に誰がどのような割合で相続するか、ということは法律に記載されており、法定相続分といいます。
しかし、よくよく考えてみると、「遺産の2分の1をもらえる」といっても、遺産のうち土地がもらえるのか、建物がもらえるのか、もしくは他の相続人と共同で所有することで2分の1もらったことにするのか、はっきりしません。
そのため、実際の相続の場面では、誰がどの財産を取得するか、ということを定める必要があります。このように、具体的に誰がどのような遺産を分割して取得するかを定めるのが、遺産分割です。
2 遺産分割の方法について
(1)概要
遺産分割を行う場合、考えられる方法としては、大きく分けて3つ挙げられます。すなわち、遺産分割の合意、遺産分割調停、遺産分割審判です。以下、簡単に手続の特徴をご説明いたします。
(2)遺産分割の合意
裁判所を介在させず、相続人が協議して、誰がどの財産を取得するのか協議する方法です。相続人間に争いがなく、当事者間の話し合いで円満に解決できそうな場合に向いています。
(3)遺産分割調停
家庭裁判所において、調停委員(当事者の意見を聞くなどして、話し合いの成立を手助けする人です。)の仲立ちのもと、遺産分割についての話し合いを行う方法です。当事者のみで合意に至るのは難しいものの、協議の余地がある場合、第三者を関与させた方が合意できそうな場合に向いています。
(4)遺産分割審判
どうしても遺産分割調停が成立しない場合などは、裁判所による遺産分割審判(裁判官の判断で、どのように遺産分割を行うのか定めてもらう方法)がなされることがあります。
3 遺産分割調停の手続について
遺産分割調停において、裁判所で話し合う、といってもイメージがわきにくいと思います。具体例を挙げて、ご説明いたします。
典型的な例として、二人の兄弟(兄A、弟B)のみが相続人である場合、裁判所での話し合いは以下のように進みます。
(1)まず相続人の一方(兄A)のみが家庭裁判所の調停室に入り(弟Bは待合室で待っています)、調停委員に対し、自らの主張(例えば、遺産のうち、家は自分が住んでおり、自分が取得すべきだ、など)を述べます。弁護士に依頼している場合、弁護士が代理して、意見を整理してまとめたり、書面にして伝えること、仕事で出席できない場合に代わりに出席することも可能です。
(2)次に、他の相続人(弟B)が調停室に入り、自己の意見を述べるとともに、調停委員から相手方(兄A)の意見について聞いたり、反論したりします。反論については、直接相手方に伝えるのではなく、納得出来ない点等について、調停委員を通じて伝えてもらいます。
(3)再度、兄Aが調停室に入り、弟Bの主張を踏まえて反論等を行います。
(4)このようなやりとりを経て、双方から譲れるところは譲り、話し合いによる解決を目指すことになります。
(5)遺産分割調停は、このようなやり取りを、1~2か月に1回ごとの期日で行います。その結果、合意ができれば遺産分割調停が成立し、遺産分割が実現することになります。
4 遺産分割調停において、気をつけるべき点
(1)まずは相続人の調査を。
遺産分割は、相続人全員で行わなければなりません。そうでないと、どの財産を取得するか定まっていない相続人が出てしまうからです。もし、相続人が抜けていた場合、遺産分割に参加できなかった相続人との間で、後日紛争が生じるおそれがあります。
そのため、遺産分割にあたっては、「相続人全員」で遺産分割を行っているのか、抜けている人物はいないのか、について調査する必要があります。ちなみに、弁護士が依頼を受けた場合には戸籍を取り寄せ、相続関係の図を作成しながら、相続人に抜けがないかチェックを行います。
(2)遺産かどうかの確認を。
遺産分割は、あくまで「被相続人の財産(遺産)」について分割するものです。そのため、「そもそも被相続人の財産なのかどうか」が問題となる場合には、注意が必要です。
例えば、登記上は兄名義の不動産について、弟が「これは亡くなった父親が税金対策で兄の名義を使って買った不動産だから、法律上は父親が所有権があったものであり、遺産に含まれる」と主張する場合です。
遺産分割の前提として、その不動産は父親のものなのか、兄のものなのか、明らかにする必要があります。
このような場合の方策としては、合意があれば調停の中でまとめて話し合うことができます。どうしても合意できない場合、別途訴訟手続により不動産が誰のものなのか明らかにすることが考えられます。
当該不動産が遺産に含まれるか、事前にしっかり同意しないと、遺産分割協議が終わったと思っても「この不動産はやはり父のものだ」「いや自分のものだ」と主張し合い、紛争が解決しないおそれがあります。
5 おわりに
以上のように、遺産分割調停には気をつけるべき点がありますので、不安に思われる方は是非一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。