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コラム
「塾ジイの部屋」11
2023年1月20日
ラストスパートで一気に成長への扉を開く
こんにちは。出口利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。今では自宅のアトリエで趣味の油絵を楽しむ傍ら、近所の小中学生に勉強を教えています。最近親御さんや子ども達から学習や受験に関する相談を受けることが増えました。今日も大山良太くんのお母さんが浮かない顔をしてやって来ました。
サイレントサポートに徹する
「良太の様子はどうじゃ?」
「あの子なりに頑張っているみたいなんだけど…わたしの方がちょっと…」
「どうした?」
「心配で、ついあの子に色々言ってしまうのよ」
「なるほど…良太もこの前わしにも言っていたぞ。『最近お母さんが色々言う』と。前にも言ったように“静かに見守る”ことが重要じゃ」
「わかってはいるんだけど…」
「気持ちはわからないでもないが、ここで不用意なことを言うと逆効果じゃ」
「やっぱりそうよね。あの子なりに必死で頑張っているのはよくわかるわ。これから親としてやるべきことってある?」
「特に無い。“日常生活を維持すること”だけじゃ。ただ、何か声をかけるとしたら、ちょっとしたことを褒めるのが良かろう」
「例えば?」
「『塾の先生が勉強の仕方が良くなってきたって言ってたよ!』のように第三者の発言を伝えると効果的じゃ。直接言われると照れくさいじゃろうからな」
「なるほど…」
「だからこの時期の塾の先生からの情報収集は大事なんじゃ」
「わかったわ。明日にでも電話して様子を訊いてみるわ。あと、NGワードとかある?」
「“頑張れ!”じゃ」
「えっ?それってダメなの?」
「頑張っている相手への“頑張れ”の一言はまさに百害あって一利なしじゃ。本人は頑張っているのに『もっと頑張れ!』と言われたら現状否定されたと捉えるじゃろう」
「なるほど」
プラス思考を踏まえたマイナス思考
「本人との関わりも大事だが、親としての心づもりも重要じゃ」
「心づもり?」
「第一志望のH高校が不合格になった場合の対応じゃ」
「そんな縁起でもない!」
「確かにプラス思考で最後まで走らせるのは言うまでもないが、万一不合格になった場合に本人とどう向き合うかを考えておくんじゃ」
「シミュレーションってこと?」
「その通りじゃ。不合格になった場合の本人の動揺・落胆は大きい。良太のように受験が初経験であれば尚更じゃ。この状況で親もうろたえてしまうと本人を追い詰めてしまう」
「なるほど…」
「冷静に良太と向き合う時間と場所を想定しておくんじゃ。やり取りのポイントはH高校不合格の場合に第二志望のO高校に進学するのか、H高校以外の公立の中期選抜を受験するかの意思確認じゃ。学校や塾からも問い合わせが入ると思うが、その前にしっかり話をしておくことが肝要じゃ」
「どのタイミングで話せば良いの?」
「H高校の合格発表前のタイミングが良かろう。出来れば入試直後が良い。本人に考えさせる時間を確保するためにもな。あくまでもプラス思考で走り続け、且つ最悪の状況を想定しておくのがポイントじゃ」
「わかったわ。試験の慰労会という名目で入試日の夕食時に話すようにするわ」
「それが良かろう。出来るだけ早い時期にこれまでの振り返りと今後の展望をすることが重要じゃ」
「その席上気を付けることは?」
「受験校は自分で決めさせること」
「アドバイスもダメなの?」
「不安定な時期に助言するとそちらに流されてしまう。本人の意思を尊重するためにもこちらからの提案は控え、本人の意向を聞き出すんじゃ」
「難しいけどあの子が夢に向かえるよう意識するわ。」
「これからの時期は良太にとって非常に厳しいものになる。しかし成長出来るチャンスでもある。この機会を最大限活かすんじゃ。結果はどうあれ全力を出し切れば、そこから得られるものが必ずある」
「わかったわ。良太が力を出し切れるようあの子を信じて応援するわ」
お母さん表情から少し笑顔がこぼれました。それと同時に“家族で受験に挑む”覚悟が垣間見えました。
*この記事はフィクションです。人物名はすべて架空のものです。
いよいよ入試直前期に差し掛かりました。良太くんのお母さんのように「勉強しなさい!」「もっと頑張りなさい!」とつい言ってしまう親御さんもおられると思います。しかし、この時期厳しい精神状況の中で頑張っているのは本人なのです。その状況を踏まえたうえで静かに見守ってあげることも支援のひとつでなんですね。不安や焦りといった「イヤな気分」を棚上げし、全力を出し切れるかどうかが成長の分岐点なのです。どうしても不安な事があれば学校や塾の先生に相談しましょう。ちょっとした事が功を奏することもあります。
本人の意思を尊重しつつ、必要に応じて手を差し伸べる“サイレントサポート”がこの時期特に重要なんですね。
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