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「塾ジイの部屋」9 ー学習塾のチームワークー

久保克己

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テーマ:志望校の合格圏に到達する術

受験は団体競技

こんにちは。出口利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。今では自宅のアトリエで趣味の油絵を楽しむ傍ら、近所の小中学生に勉強を教えています。最近親御さんや子ども達から学習や受験に関する相談を受けることが増えました。今日も大山良太くん(中3)のお母さんがやって来ました。11月に入り進路について学校や塾の先生とのやり取りが増えてきたようです

苦手教科の底上げが全てではない

「この前良太が塾ジイのカレー持って帰って来たから頂いたわ」
「おう、そうか。味はどうじゃった?」
「すごく美味しくてビックリしたわ」
「きさらぎでも出してみようかな…」
「うちの店にも卸してほしいわ」
「そうか!実は名前も考えてあるんじゃ。『“塾”カレー』ってのはどうじゃ?」
「だれも意味がわからないと思うわ」
「やっぱりそうか… ところで良太の様子はどうじゃ?」
「うん、なんかあの子最近部活の練習みたいに毎日決まった時間に勉強しているわ」
「そうか。順調じゃな。完全に受験勉強が“生活の一部(ルーティン)”になったようじゃ。成績もH高校がB判定まで来たって言っていたな」
「塾ジイに言われた通り静かに見守っているわ。ところで今日はちょっと相談が…」
「何じゃ?」
「良太の成績のことなんだけど…全科目平均の偏差値は確かにH高校B判定なんだけど、国語と理科が低いのよ」
「そうじゃな。英語と数学で稼いでいるな」
「国語と理科は本人も苦手意識を持っているんだけど。やっぱり家庭教師とかで補強した方が良いのかな…」
「それも有効な手立てじゃ。しかしそれと同時に他にもやるべきことがある」
「他にも?」
「塾に相談するんじゃ」
「もうしたわよ。それで家庭教師か個別指導の併用を勧められたのよ」
「どちらもピンポイントで活用すると効果があるのは確かじゃ。だが苦手科目の成績を上げるとともにもうひとつ大事なポイントがある」
「それを聞きたいのよ。そのポイントって?」
「得意教科の更なる積み上げじゃ」
「得意教科を更に伸ばすってこと?」
「そうじゃ。苦手科目が入試本番までに合格レベルに到達するかどうかはわからん。そこでじゃ、苦手教科に関しては最悪のシナリオ(現状の成績とあまり変わらない)を描き、それを踏まえ得意教科の得点力を上積みし、総合点を合格ラインまで底上げする施策を検討する必要がある。このマネージメント(授業担当者への指示)スキル、言い換えればクラス担当者のチームワークが受験指導において非常に重要なんじゃ」
「前に良太の塾探しの相談をしたときに塾ジイ確か『進学塾のチームワークは子どもの受験結果を左右するほど大きな意味がある』って言っていたわね。あれってこのことだったの?」 
*参照「塾ジイの部屋」3 https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5113555/
「そうじゃ。塾のクラス担任は保護者と授業担当者とのいわば“橋渡し役”じゃ。生徒の志望校合格に向け如何に授業担当者のパフォーマンスを最大限発揮させるのが仕事じゃ。クラスの担当者ミーティングを定期的に開催し、現状の確認と今後の施策を検討し、様々な状況を想定したうえで授業担当者に指示を出すんじゃ。良太の担任の先生も国語と理科の成績が上昇しなかった場合に備えた策を検討している筈じゃ」
「担任の先生には何て相談すれば良いの?」
「先ずは苦手科目への対応の確認じゃ。方向性は①現状の枠内での対応(例:授業担当者が別課題を与える)②付加的な対応(例:家庭教師や個別指導の併行受講)に分かれる。②の場合であれば焼刃的ではなく、【どの科目の、どの単元を、いつまでに、どれくらい伸ばせる見通しか?】を確認する。そのうえで『もしそれで成果が出なかったらなりますか?』と相談するのが良かろう。計画を立てる際は常に最悪の状況を想定しておくのが常套じゃ」
「わかったわ。ところで塾ジイも英語と国語の先生なんだから国語の底上げや英語の上積みのノウハウを持っているんでしょ?」
「ノウハウとまでは言えないが成功体験はある」
「それ教えてよ!」
「わかった。良太本人に伝える方がはやい。こんど来たときに話しておくよ」
「お願いします!あと、カレーの件もよろしく!」
「『“塾”カレー』はやっぱりダメかな?」
「それは却下!」
「……」
*この記事はフィクションです。人物名はすべて架空のものです。

苦手科目は誰しもひとつかふたつあるものです。「この科目のこの単元を克服しなければ!」と考えるのは当然ですよね。その際の“普段の塾の指導+α”は有効な手段です。家庭教師や個別指導の併行受講によるピンポイント利用は一定の成果が期待出来ます。しかし単に「指導を受ける時間を増やす」という目的での利用はあまりおススメしません。塾ジイが言っているように【どの科目の、どの単元を、いつまでに、どれくらい伸ばすか】を明確にしたうえでの利用が効果的です。ただしそれでも予定通りに成績が上がらないこともあり得ますので“次の一手”も備えておく必要があります。ここで学習塾の先生方のチームワークがポイントになってきます。入試は“総合点”で合否が決まります。苦手科目がいわゆる“足切り”に引っ掛かるレベルでなければ、得意教科の上積みで総合点を合格圏にもっていくという考え方も非常に重要です。保護者懇談等の機会にご相談されては如何でしょうか。

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久保克己(塾講師)

株式会社京進

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