「塾ジイの日記」32 ―諦めという名の鎖を身をよじってほどいてゆく―
スモールステップを実感する
こんにちは。出口利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。今では自宅のアトリエで趣味の油絵を楽しむ傍ら、近所の小中学生に勉強を教えています。最近親御さんや子ども達から学習や受験に関する相談を受けることが増えました。今日も大山良太くん(中3)がやって来ました。前回お母さんから相談を受け、そのアドバイスを踏まえて9月と10月の模試の成績表と答案用紙を持って来ました。
前回のお話…「塾ジイの部屋」7
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5121048/
見えない学力
「塾ジイ、これお母さんから預かってきたよ」
「おー、とんかつか!しかも上ヒレかつじゃないか!今夜はこれでカツカレーじゃな」
「このあいだお母さん帰ってくるなり『あのときはごめんなさい』って言ってくれたよ」
「そうか。まあ、この時期受験生の親は心配するもんじゃ。良太の気持ちもわかるが、そのあたりはうまくやれ」
「うん…、あ、お母さんからこれ持ってくるように言われたよ」
「模試の答案用紙だな。どれどれ…うん、これは偏差値以上に学力は上がっているな」
「えっ!そうなの?成績表では確かに総合の偏差値は5Pだけ上がり判定はE→Dになったけど、それ以上ってこと?」
「そうじゃ。例えば、9月と10月の英語の答案を見比べて何か気づくことはないか?」
「点数は6点上がっているな」
「そうじゃな。9月と平均点がほぼ同じなのに6点アップは大したもんじゃ」
「お母さんからテストの平均と偏差値の関係について聞いたよ」
「そうか。あと、何か気づくことはないか?」
「あ、英作文で部分点がついてるとか…」
「そうじゃ!そこが重要なんじゃ!」
「でも8点中4点、半分しかついてないけど…」
「部分点が付くということは、出題者が想定する答案だということじゃ」
「出題者の想定…」
「数学の証明問題や国語の記述問題にも部分点が付してある。これは大きな進歩じゃ」
「そうなのかな…」
「間違いなく良太の学力は上がっている。それは間違いない」
「つまり、惜しい間違いが増えてきたってこと?」
「そういう言い方も出来るが、“勝負出来ている設問が増えている”ということじゃ」
「勝負出来ている設問…」
「また、答が書いてあれば見直しの際の気づきが倍増する。そこも重要なんじゃ」
「うん、確かに10月の模試の見直しのときは9月よりも『あ、そうか!』って叫んだのがいくつかあったよ」
「その気づきの連続が“学力が積み上がっている”ということを意味するんじゃ」
「なるほど…なんかチョット自信が出てきたな」
「それは良かった。じゃが、この答案だと自信を持つにはまだ早い」
「えっ!どういうこと?さっき『間違いなく学力が上がっている』って言ったのに…」
選球眼こそ真の実力
「例えば、英語のこの問題、並び替えの英作文じゃ」
「あ― この問題難しかった!時間をかけて考えたけど結局×だった」
「何分くらいかかった?」
「え―っと…確か5分くらいかな…」
「時間かけすぎじゃ」
「でも難しかったから仕方ないよ」
「この問題の正答率を成績表で確認してみろ」
「大問5の3か…あった、10%だよ」
「9月のわしの話を覚えているか?」
「確か『20%を切るような問題は出来ていなくても気にする必要はない』だったかな」
「その通りじゃ。そもそもこの問題は解かなくても良かった、もっと言えば解いてはいけなかったんじゃ」
「えっ!解いてはいけない問題?!」
「正答率が10%ということは10名のうち1名しか正解出来ていないということじゃ。この1名になる必要もないし、なろうとしてはいけない」
「理屈はわかるけど…でもどうすれば良かったんだよ!」
「自分の脳を信じるんじゃ」
「どういうこと?」
「一見して『こんな問題見たことない』とか『自分の手に負えない』と思ったら、それは“知らない”ことを聞かれている可能性が高いということじゃ。そんなボール球に手を出す必要はない。つまり見逃しても良いんじゃ」
「捨てるってこと?」
「そうじゃ。問題に対する“解くべきか否か”の判断力は試験の順位を上げるうえで非常に重要じゃ」
「でもみんなが解けているかもしれないのに自分だけ捨てるのはちょっと怖いな…」
「自分の脳を信じるんじゃ。思い浮かばないことを思い出そうとするのは時間と体力の無駄じゃ」
「わ、わかったよ。次の模試のとき“選球眼”を意識するよ」
「これまで話してきた模試に対するノウハウをすべて実行すれば、確実に学力と成績は向上する」
「塾ジイ、言い切ったな!ところで塾ジイの選球眼はどうなの?」
「わしか?わしはお酒を見ただけでその銘柄を想像できる目を持っている」
「へーっすごいな!で、想像した後どうするの?」
「想像が当たっているかどうか飲んで確認するんじゃ」
「飲んでるだけやないかーい!!」
*この記事はフィクションです。人物名はすべて架空のものです。
模試を受験すると点数や偏差値が気になるのは当然です。前回のコラムでも書きましたが、成績が“上昇気流”になっているか否かが合否を展望するうえで重要な指標になります。しかし、偏差値等の数値はその試験での“表面的な結果”であり実際の学力を表しているとは限りません。したがって正解している問題数ではなく、答案作成のプロセス【○の問題…当て勘ではなく根拠を踏まえているか】【×の問題…どこまで正解に近付けたか】が指導者・親御さんにとっての重要な視点です。お子様の学力はデータだけでなく“成績表+答案のセットで評価する”ことが鉄則なんですね。成績が伸び悩んでいても答案上の進歩が認められれば、そこをクローズアップして大いに褒めてあげてください。また試験中は難問に埋没しないことも重要です。入試は総得点による闘いです。どれだけ難しい問題を解けるかの勝負ではありません。自分の脳にインプットした事項で対応可能な問題か否かを判別出来るよう知識のインプットとアウトプットを繰り返し、定着を図っていくことが勝利の方程式なのです。成績表だけでなく、答案用紙を見ながらのお子様とのやり取りをおススメします!
*参考文献:「東大教授が教える!デキる大人の勉強脳の作り方」池谷裕二 監修
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