「塾ジイのBAR」4
挑戦への土壌づくり(前編)
こんにちは。出口利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。最近行きつけの飲み屋さん【きさらぎ】の定休日に店を間借りして、ちょっとだけバーテンダーをしています。私の前職を誰から伝え聞いてか、仕事帰りのお客さんから子どもの学習相談を受けることが増えました。今日も【きさらぎ】の常連、某証券会社の部長である仲嶋さんがやって来ました。仲嶋さんからは以前娘の美由紀さん(中3)の学校の三者懇談について相談を受けました。私のアドバイス通り懇談時に学校の先生に志望校や塾通いを表明し、夏休みから塾で勉強しています。今夜はいつも以上に酔っぱらっています。
ここまでのお話
「塾ジイのBAR」1 https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5114499/
「塾ジイのBAR」2 https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5114987/
全力疾走への礎
「大丈夫か?今夜はかなり酔っているな」
「う~塾ジイに言われたらおしまいだな。仕事が忙しいんだよ。このところの円安の影響で色々あってね」
「そうか…で、今日は何飲む?」
「あの棚にある“ちむどんどん”って泡盛?」
「そうじゃ。この前マスターが沖縄で仕入れてきたんじゃ」
「へえー じゃあ、それをロックでお願い。塾ジイもどうぞ」
「(やった!)はいどうぞ…ところで美由紀ちゃんの調子はどうじゃ?」
「恥ずかしながら、夏休み前の三者懇談に同席して以来あまり関わってないんだよ」
「それは仕方あるまい。そろそろ受験校を検討する時期じゃ。情報は集められているのか?」
「塾ジイに言われた通り懇談の席上で『O高校も第二志望として視野に入れています』とは言ったものの、まだ決めてないんだよ」
「なるほど。だが、出来るだけ早く情報収集に動いた方が良いな」
「ネットで色々調べるとか?」
「それもひとつだが、やはり学校説明会に参加するのが最も効果的じゃ」
「説明会か…でも内容はネットと同じなんだろ?」
「本質的にはそうなんじゃが、説明会に参加するメリットは大きい」
「どんな点で?」
「何といっても“学校の熱量”が感じられる点じゃ」
「熱量…」
「学校説明会はいわば商談でのプレゼンじゃ。教育理念や生徒に対する思い等のセールスポイントを先生から直接聴ける貴重な機会じゃ。プレゼンだけでなく施設見学や学食メニューの試食会・過去の入試問題解説等さまざまな“サービス”が受けられる。これらを利用しない手は無い」
「へぇー 俺らの時代では考えられないな」
「そうじゃな。コロナ禍でオンライン実施のところも増えているが、可能な限りライブの説明会に参加するのが良い。最近はホテルやイベントホールで開催する学校も多いが、学校内で開催されるものを選ぶのが効果的じゃ」
「現地での下見か…」
「自分たちの目で学校の姿を見ておくことは重要じゃ。パンフレットやホームページ以外の情報、例えば教室の美しさや整理整頓の状況、在学生の様子等を確かめるんじゃ。通学経路や時間の確認も兼ねられる」
「なるほど。ところで誰が行けば良いの?」
「みんなじゃ」
「みんな?三者懇談みたいに?」
「そうじゃ。ここが最大のポイントじゃ。家族のイベントとして説明会に参加するんじゃ」
「何のために?」
「夢を共有するためじゃ」
「夢の共有?」
「説明会に参加した後、家族でミーティングするんじゃ」
「ミーティング?」
「学校の印象を相談するんじゃ。説明会に参加するごとにその検討を重ね絞り込むんじゃ」
「あ、塾ジイ、そもそもこれって第二志望の話だよね?」
「そうじゃ」
「なんで第一志望でもない学校をここまで調べるの?」
「第一志望ではないからじゃ」
「えっ?」
「第二志望が本人にとって魅力的な学校であれば、失敗の不安を多少なりとも軽減出来る」
「保険をしっかり準備するってことか…」
「そうじゃ。そしてここからが、家族で説明会に参加する目的の話じゃ。その前に…」
「どーぞ、どーぞ好きなだけ“ちむどんどん”して」
「悪いな…」
受験は団体競技
「塾ジイ、飲むのはやっ!もう3杯目…」
「おう、美味すぎて話の続きをするのを忘れとった。第二志望校が決まった後の話じゃったな」
「思い出してくれて良かったよ。で、第二志望校が決まったら何をすれば良いの?」
「家族みんなで妄想するんじゃ」
「はっ?」
「『あの学校の生徒は英検準一級合格率80%以上らしいから、英語ぺらぺらになれるかも。そうなると海外留学出来るかな…』『過去問の数学を解説した先生の説明わかりやすかったな。あの先生なら数学好きになれるかな…』『校庭の芝生に寝っ転がったら気持ち良いだろうな』といった具合にじゃ」
「なんかオカルトっぽいな。そうやってヤル気を高めるってことか」
「受験勉強の作業効率を上げるためじゃ。言い換えれば『自分はあの学校でも充実した時間を過ごせるし、なりたい自分に近づける』と脳に思い込ませる、勘違いさせるんじゃ」
「勘違い…」
「そうやって受験校のことを日々強く思い描くことが重要じゃ」
「なるほど。そのために家族で協力する必要があるということか」
「その通りじゃ。受験は団体競技じゃ。家族・学校・塾でタッグを組めば勝算を上げることが出来る」
「説明会は単に学校の情報を得るためだけのものじゃないんだな」
「現地に赴き、五感でその学校が入学に値するかどうかを調査するんじゃ」
「なるほど。家を買うのと同じだな。ところで説明会だけではわからない併願校検討のポイントってあるの?」
「あるある。だがちょっと話題が変わるのでお酒も変えないか?例えば“ちむどんどん”の隣にある“古酒久米仙”なんかどうじゃ?」
「なんかトラップにハマったような気が…」
「多分気のせいじゃ」 (つづく)
*この記事はフィクションです。人物名等はすべて架空のものです。
今やインターネットで様々な情報が簡単に手に入る時代になりました。入試に関する情報も例外ではありません。しかしネットだけの情報で人生に影響する受験校を検討するのは危険です。あくまでHP等は該当者が発信する情報であり“PR”です。虚偽とは言いませんが、お子様との相性までは測りかねます。現地に赴き、学校の“空気”を感じることは非常に重要です。とは言うものの、学校側も説明会での印象を良くするのに必死です。(例:説明会前日に大掃除をする←私が行っていた高校がそうでした)私は受験生の親御さんには“いつもの学校”も見ておくようアドバイスします。説明会等のイベントが無い登下校の時間帯に“外から”学校を眺めるのです。そうすると、生徒や先生の関係(挨拶や言葉遣い等)の“本質”が垣間見えることがあります。そうやってあらゆる角度から情報を入手し、絞り込みを行うのです。魅力ある併願校は第一志望校の次に“行きたい学校”であり、秋以降の挑戦意欲に繋がります。お子様が晴れ晴れとした自分の姿を強くイメージし、感情を棚上げし、淡々と作業をこなしていけば“なりたい自分”と出会える可能性は日々高まるでしょう。
次回は「データによる高校の着眼点」について考えます。
*参考文献:
「デキる大人の勉強脳の作り方」池谷裕二 監修
「人生を変える!『心のブレーキ』の外し方」石井裕之 著
「生き方 人間として一番大切なこと」稲盛和夫 著
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