「塾ジイの日記」32 ―諦めという名の鎖を身をよじってほどいてゆく―
こんにちは。出口 利光(でぐち りこう)と申します。40年間進学塾で教鞭をとり、5年ほど前に定年退職しました。今では自宅のアトリエで趣味の油絵を楽しむ傍ら、近所の小中学生に勉強を教えています。最近親御さんや子ども達から学習や受験に関する相談を受けることが増えました。今日も前回に引き続き大山良太くん(中3)のお母さんからの塾選びに関する相談です。前回の私のアドバイスを受けてネットで塾の情報を収集しています。
「どうじゃ? 良さげな塾は見つかったか?」
「う~ん… 目移りするわ。でも塾ジイの言う通り『体験授業受付中』って書いてあるところが多いわ」
「そうじゃろう。化粧品等の『無料お試しセット』のような“商品を試用できる仕組み”じゃな。まあ、自社の商品、サービスに自信があるから成せる業なんじゃが」
「とりあえず3教室ほどピックアップしてみるわ。で、体験授業後の流れを教えてよ」
「体験授業後、その当日か翌日辺りに塾から電話がかかってくる。話題は“体験授業での様子”“体験授業の感想”“今後の流れの説明”等じゃ」
「なるほど…。それを聞くうえで気を付けることは?」
「体験授業での様子に関しては、その“具体性”じゃ」
「具体性?」
「『よく頑張っておられましたよ』のようなコメントは悪くはないが、“何をどう頑張っていたのか”が不明じゃ。そもそも初めて出席した授業で頑張るのは当たり前じゃ。『集中力は高いものをお持ちですね』『ノートの取り方がお上手ですね』『授業のペースには適応できていましたよ』『計算ミスがやや多いです』『英語のスペルミスが課題ですね』等初対面の子どもの状況をどれくらいしっかり観察していたかが眼のつけ所なんじゃ」
「なるほど」
「限られた時間の中で子どもの状況を把握する力量も“教務力”なんじゃ。特に電話をかけてきた担当者が体験授業の先生でない場合は、伝達される情報の具体性が“その教場での職員(先生)間のコミュニケーション量”の指標になる」
「先生間のコミュニケーション量? それ大事なの?」
「かなり重要じゃ。どんな職場でもそうじゃろうが、スタッフ間のコミュニケーションはその塾全体のチームワークに大きく影響する」
「塾のチームワークか…」
「なんとなくわかるじゃろ? 職場でのチームワークが大事なことは。ただ進学塾のそれは子どもの受験結果を左右するほど大きな意味があるんじゃ」
「え? そうなの? どんな意味があるの?」
「それは追って話す」
「もうっ! もったいぶって! またビールが飲みたくなったんでしょ!」
(ギクッ!…図星だ)
「まあ、落ち着け。それより体験授業後の流れじゃ。電話で一通り話が終わったら多くの塾は“学力診断テスト”の受験を提案してくる」
「あー、入塾テストってやつね」
「子ども学力の現状を数値化し、志望校合格の可能性や塾の授業に適応できるか否かを把握するのが主な目的じゃ。有料のところもあれば無料のところもある」
「じゃあ、それを受けさせて合格すれば入塾決定ってことね」
「いや、違う。この後が塾の情報収集するうえで最も重要なフェーズじゃ」
「そうなの? 体験授業で本人が下見して、入塾テストで合格すればOKじゃないの?」
「学力診断テストのフィードバックを受けるんじゃ。これは忙しくても本人任せにせず、電話ではなく現地での面談を希望すること」
「その面談でのポイントは?」
「これも“具体性”じゃ」
「あー なんとなくわかるわ。子どもの成績の状況やその課題をしっかり説明してもらえるかどうかね」
「その通りじゃ。現状から志望校のレベルまでどれくらい距離があり、それを埋めるのにどうすれば良いかを具体的に伝えてくれるか否か。そしてもうひとつ重要なのが契約内容、特に料金の明朗性じゃ。ここをしっかり契約前に説明してくれる塾はある一定信頼できる」
「わかったわ。具体性と明朗性ね。メモっとこ。よくわかったわ、ありがとう」
「まだ話は終わっとらん」
「え? まだポイントがあるの?」
「そうじゃ。ここまでの情報は電話でも確認できるものじゃ。大事なのは“なぜ対面にすべきか”じゃ」
「あー先生の顔の確認?」
「本気で言っているのか?」
「じょ、冗談に決まっているでしょ」
「体験授業へ行ったのは本人だけなので親の目で教場を確かめる必要がある。特に注意したいのが教室じゃ」
「教室?」
「塾の教室に親が入れるチャンスはそれほど多くない。その機会を活かすんじゃ。掃除が行き届いているか、机は整然としているか、黒板(白板)がしっかり消してあるか、
掲示物は旬のものがきれいに貼ってあるか等じゃ」
「環境が大事ってことね」
「そうなんじゃが、塾の教室の美しさには別の意味合いがある」
「別の意味合い?」
「余裕の有無じゃ。教室がきれいな塾はスタッフに余裕がある。まあ、これは飲食店等でも同様なんじゃが、本業のサービスに集中できる環境だということだ。逆に言うと教室の美化に手が回らない塾は、何かしらの理由で余裕が無いということじゃ」
「うちも客商売やっているからそれは納得できるわ」
「そして、もうひとつ、教室が汚れているということは、生徒への躾も行き届いていない可能性がある」
「あっ、なるほど」
「考えてみろ。自分が過ごす部屋の掃除もさせられないような指導者が難関と言われる学校へ導けるか?」
「確かに…無理よね」
「進学校と言われる学校は漏れなく整理整頓・挨拶・言葉遣い等、いわゆる“情操教育”をしっかり行っている。それはその学校の“指導力”の表れなんじゃ。それは塾にもそのまま当てはまる」
「なるほど… しっかり見るようにするわ。で、塾のチームワークが合否を左右する話は?」
「だめだ… ガス欠じゃ。燃料補給しないと…」
「はっ? また、ビール? ちょっと飲みすぎじゃないの?」
「いや、この牛肉しぐれ煮が日本酒にも合うか否か確認しなければ…。後で“具体性”を持たせてフィードバックするから」
「そんなフィードバックは要らん」
塾通いは子どもの人生を左右する大事なものです。我が子・我が家に適した塾に出会うために事前確認をしっかりやることが重要です。着目すべきポイントは以下の通りです。
・フィードバック(体験授業・学力診断テスト)の具体性
・料金の明朗さ
・教室の美しさ
これらは現地で話を聴くのが最も効率的かつ効果的です。塾のチームワークが合否を左右する理由は受験指導の後半で特に重要になってきますので、改めてお話しします。
*この記事はフィクションです。人物名はすべて架空のものです。
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