「塾ジイの部屋」1　ー「憧れ」を【目標】に変える第一歩ー

一粒の勇気

「塾ジイ、これ食べて、うちの牛肉しぐれ煮」
大山さんは精肉店を営んでおり、ここの牛肉しぐれ煮は絶品！
「いやー、ありがたい！さっそくこれでビールを飲もう！」
冷蔵庫を開けようとしたその瞬間
「あ、ちょっと待って！その前に良太のことで相談が…」
「おう、どうした？」
「本人が『部活が終わったら塾へ行きたい』って言い出したのよ」
「なるほど…で、何が問題なの？」
「ハンドボール部の顧問の先生からA高校のスポーツ推薦の話を聞いていたので、てっきりそこを目指すものだと思っていたら…」
「H高校へ行きたいと」
「え！知っていたの？」
「この前本人から相談を受けたよ。K大学でスポーツ医学を勉強したいと。そのためにはH高校へ行く必要があると言っていた。あの子も成長したな…」
「そんな悠長な！三者懇談で突然あの子そんなこと言うもんだからびっくりしたわよ。H高校ってすごく難しいんでしょ？」
「公立では県内No1だな。でも彼の学校の成績では確実ではないが不可能でもないよ。それで懇談の席上担任の先生は何と仰った？」
「『A高校でいいじゃないか！』の一点張りだったわよ」
「そうじゃろうな…」
「わたしも苦しい思いしてH高校を目指すよりA高校の方が良いと思うんだけど…。それでね、塾ジイから本人にA高校を受けるように言ってほしいのよ」
「『苦しい思いしてH高校を目指すよりA高校の方が良い』のはどうしてじゃ？」
「どうしてって…そっちの方が安全だから…」
お母さんの目が泳いでいる
「本当は『良太がH高校になんか受かりっこない』と思ってないか？」
「そ、そんなこと…」
「相談を受けたとき良太も言っていたぞ、『お母さんから“無理だからやめなさい”って言われると思う』と。
「……」
「だから三者懇談で自身の胸の内を告白し、塾通いをお願いするようアドバイスしたんじゃ」
「そうだったの…」
「大事なことは、本人が行きたい、やりたいと思うことに挑める環境を作ることじゃ」
「でも、失敗したらH高校はおろか、推薦で行けた筈のA高校にも行けなくなる」
「正直夏から塾へ行っても結果は五分五分じゃ思う。しかし失敗したとしてもその経験と正しく向き合えば、それはそれで良太のためになる。」
「わかりました。とりあえず夏休みにどこかの塾へ行かせます。どこの塾に行けばいいのか教えて！」
「どこっていうよりも“塾選びのポイント”を言いましょうか…」
「お願いします！」
「その前に、この牛肉しぐれ煮でビールを一杯だけ…」
「ええ～！！」　　　（つづく）

＊この記事はフィクションです。人物名はすべて架空のものです。
　（最後のプールの話は筆者の実話です）
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