
海外でのプレゼンテーション、レストランでの注文、現地の友人との何気ないおしゃべり。いずれの場面にしろ、自分の英語がうまく伝わらなかった、そんな経験をお持ちの方は決して少なくないと思います。
そういうとき、多くの方は語彙が足りなかった、文法が怪しかったと振り返ります。しかし私が長く見てきた限り、英語が通じない原因はもっと手前にあることが多い。そう「発音」です。
「サーモン」が通じなかったアメリカでの一場面
同僚とアメリカのレストランに入ったときのことです。ウェイトレスが、ビーフとサーモンのどちらがよいかと尋ねてきました。同僚は「サーモン」と答えました。日本人の私には、彼が何を言ったのかすぐにわかりました。ところが、ウェイトレスには通じませんでした。
やり取りが続いたあと、私が同じ単語を口にしたところ、その場ですぐに理解されました。
彼の英語力が低かったわけではありません。選んだ単語も間違っていません。それでも伝わらない、この差はどこから生まれるのでしょうか。日本語として定着した「サーモン」という音と、英語のsalmonという音が、私たちが思っているほど近くないところから生まれているのです。
専門的な話になりますが、まず、日本語の母音と英語の母音が全くちがうのです。発音記号で書くと、日本語のサーモンは[saːmɔn]であり、英語のsalmonは[sǽmən] です。もう一つ大きな違いは、日本語はpitch accent language で英語はstress accent languageということです。英語発音には必ず/ǽ/のようなstressを置いた母音が必要です。そうしないと、英語ネイティブには、発音できないし、聞き取れません。
私自身も、同じ悔しさを味わったことがあります。アメリカ大学院に入学して間もない頃、買い物をしたあと、レシートをくださいと伝えたときのことです。何度言い直しても相手には届きませんでした。日本語の会話で毎日のように使っている「レシート」の音が、そのまま口から出ていたのだと思います。
またまた専門的な話で恐縮ですが、まずこの場合、日本語の子音も母音も英語の子音、母音と全く違うのです。発音記号で書くと、日本語のレシートは[ɾɛʃitɔ]であり、英語のreceipt は[ɻɪsít]です。もう一つの大きな違いは、先ほど述べたように、英語発音には必ず/í/のようにstress を置いた母音が必要だということです。日本語は2音階のpitch accent で構成されていて、このstress がないので全く聞き取ってもらえません。
言いたいことははっきりしているのに伝わらない。あのときの感覚は、今でもよく覚えています。
カタカナ英語に馴染んだ言葉ほど通じにくい
意外に思われるかもしれませんが、危ないのは知らない単語ではありません。
和製英語には気をつけましょう、とはよく言われますが、サーモンもレシートも和製英語ではありません。どちらもれっきとした英語です。それなのに通じない。私がいちばん危ないと感じているのは、まさにこの種の言葉です。
知らない単語であれば、人は辞書を引きます。発音記号にも目を通します。ところが、日本語の会話の中で毎日使っている語は、すでに知っている語として頭の中で処理されてしまうため、確認の手がそこで止まってしまうのです。
日本語に馴染んだ言葉ほど怪しい。ボール、ラビット、コラーゲンなどなど。これは私が現場で繰り返し感じてきたことですが、多くの方はその自覚をお持ちではありません。カタカナ英語でもそれなりに通じる、という感覚をお持ちの方も少なくないと思います。
音素とは、その言語の中で意味の違いを生む、いちばん小さな音の単位のことです。英語の音素と日本語の音素は、母音も子音もまったく別のものです。カタカナは日本語の音素で英語の音を近似したものですから、カタカナで書ける範囲に押し込めた時点で、英語とは別の音になってしまいます。
ですから、単語を増やしても、文法を磨いても、この部分だけは自動的には解決しないのです。
学校で発音を教わらなかったのは、あなたのせいではない
これが、私がいちばんお伝えしたいところです。
日本の学校では、英語の発音はほとんど教えられていません。教えられない、という言い方のほうが実情に近いかもしれません。なぜなら先生ご自身が、体系的に学ぶ機会をほとんど持たないまま教壇に立っておられるからです。
日本の英語教育は、文法訳読法 (grammar translation method) と呼ばれる文法・読解重視の教育法で長く行われてきました。学生の公平性を保ちながら、先生が教えやすく、採点もしやすいようにという観点から、限られた内容しか扱われてこなかったのだと私は考えています。
ですから、英語が通じなかったからといって、ご自身の努力が足りなかったと思う必要はありません。学ぶ機会が用意されていなかった、それだけのことです。
一方で、学生の全員が海外で活躍できる英語力を必要とするわけではないのだから、これまで通りでよいという考えの先生方もおられます。でも私はその考え方には賛成できません。必要になる日は、たいてい突然やってくるからです。海外出張や留学が決まってから発音を直そうとしても、残された時間はあまりにも短いのです。
私が英語指導の道に入ったきっかけも、まさにそのような場面でした。当時、私は大手電気メーカーのエンジニアとして宇宙開発に携わっていました。ある国際会議で、日本人の発表者が英語で話していました。日本人同士は彼の発音で内容を理解できていたのに、英語ネイティブの参加者が「あなたの発音では何を言っているのか分からない」と不満を口にしたのです。
その光景を目の当たりにして、得意の英語を生かして日本人の英語力を向上させたい、と考えるようになりました。
音素と発音記号から、大人の英語をやり直す
では、何から手をつければよいのでしょうか。
私のレッスンでは、まず、日本語と英語の発音の本質的な違いを認識し、英語の母音と子音のすべての音素を確認するところから始めます。アメリカ言語学のphonetics(音声学)とphonology(音韻論)に基づいた学習法です。そのうえで、単語レベル、句レベルで気をつけるべきルールを学び、それから文レベルでのイントネーションへと進みます。
ここを通ると、当然ながら辞書に載っている発音記号を、自分で読めるようになり、正しく発音できるようになります。初めて出会う単語でも、「サーモン」のようによく知っているつもりの単語でも、自分で発音を確かめられます。この確かめる力こそが、大人の学び直しでいちばん役に立つと私は思っています。
学習の設計は、一人ひとり違っていてよいと考えています。わくわく英語塾では、ネゴシアブル・シラバスという方法をとっています。ネゴシアブル・シラバスとは、克服したい課題をうかがったうえで、その方に合った学習内容を一緒に組み立てていくコース設計のことです。
文法を確認しながら翻訳を学びたい方もいれば、発音だけを集中的に直したい方もいらっしゃいます。決められた教材で一律に進めるのではなく、ご本人の目標に合わせて調整していきます。
ご自分のペースで手を動かしたい方には、EPCAPという教材を無料でご用意しています。EPCAPとは、English Particle Cognitive Acquisition Programの頭文字をとったもので、認知言語学の考え方を取り入れ、冠詞や前置詞、副詞、助動詞、接続詞といった英語の不変化詞の習得に取り組むプログラムのことです。パソコンでもスマートフォンでも、好きな時間にゲーム感覚で進めていただけます。英語の感性を磨くのに大いに役立つはずです。
正直に申し上げると、人は切羽詰まらないとなかなか動き出せない、とも感じています。私自身、英語に格別の興味を持っていたから続けてこられた面もあります。
ですから、今すぐでなくても構いません。必要になった日に、思い出していただければと思います。
わくわく英語塾は、留学を目指す方、海外赴任を控えたビジネスパーソン、英語教師や翻訳者など、高度な英語力を必要とする大人の方を対象にした、対面の英語専門塾です。
EPCAPを含む七つのコースの概要は、塾の公式サイト(https://yuugaku.sakura.ne.jp)でご覧いただけます。発音の学び直しについては、公式サイト冒頭の「英語発音の習得」をクリックしてください。
まとめ
英語が通じないのは、才能や努力の問題ではなく、学ぶ機会がなかっただけのことです。音素という基本に一度立ち返れば、大人になってからでも英語との距離は縮められます。
・海外でのプレゼンや商談で、自分の英語が伝わらないと感じている方
・留学や海外赴任を控え、発音を基礎から学び直したい方
・英語教師や翻訳者として、発音やアカデミックな英語文体を専門的に学びたい方
塾長の横田が、一方的に教えるのではなく対話を大切にしながら、目標に向けて細やかにサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
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