シニアのキャリアを再設計する — 働き方が変わる、組織が変わる【第1回】
第2回:シニアのキャリア課題を可視化する
「やる気がない」のではなく「見えない」だけかも?
課題を見える化する重要性
第1回で、私たちが「働き方の転換点」に立っていることを確認しました。しかし、闇雲に対策を打っても効果はありません。まず必要なのは、ミドル・シニア層が抱える「モヤモヤ」の正体を突き止めることです。彼らが「やる気がない」ように見えるのは、本当に本人の問題でしょうか?今回は、キャリアの停滞感を生む要因と、それをどうやって「見える化」するかを探ります。
1.キャリアの”停滞感”を生む3つの要因
シニア層の停滞感は、主に3つの「天井」や「不安」から生まれています。
- 役職の天井: これ以上昇進が見込めない、あるいは昇進のゴールが見いだせないことによる喪失感。
- スキルの陳腐化: 自分が培ってきた経験やスキルが、今のビジネス環境でどれだけ価値があるのか分からない不安。今の会社ではそれなりに活かせるけれど、果たして外の世界で通用するのかわからない不安。
- 将来の見通し不安: 定年までの道のり、あるいはその後のセカンドキャリアについて、情報も選択肢も見えない状態。
最近では55歳前後からセカンドキャリアに向けたキャリア研修と面談を実施する企業も増えていますが、実際には定年退職間近に行われる機会が多く、不安感の払拭よりも不安感の増大につながってしまうケースがあります。
2.「やる気がない」のではなく「見えない」
重要なのは、「モチベーションの低下」と「将来が見えない不安」を区別することです。多くのケースで、本人はまだ貢献意欲があるのに、「自分が次に何をすれば必要とされるのか」「どのスキルを伸ばせば良いのか」という地図がないために動けなくなっていることがよくあります。ご本人自身も気づけていないこともあります。
シニア層の面談を行っていると、よく聞くフレーズがあります。
- まだまだやれるし、できることはあるはず
- 社会の役に立てることをやりたい、会社の役にも立てると思う
- お金のために座っているだけ・・という風には見られたくない
- 会社に残った先輩方を見ると、楽しそうな人は見かけない。(そうはなりたくない)
人生100年時代になり、シニア層として長く働くことが求められるようになったのはつい最近のことです。
そのため、「長く働く」のロールモデルが現在の職場にいないことが多く、前向きなイメージが持てていないのです。つまり、どのように将来を描けばよいのかがまったく「見えない」状態に置かれているのです。
3. 組織構造がつくる無意識の壁
実は、個人が気づかないうちに、会社の仕組みそのものがキャリアの壁を作っていることがあります。
- 配置:意欲あるベテランが、定型的な業務に配置され続けていないか?
- 評価: 新しい挑戦への評価基準が、ベテラン層に適用されていないのではないか?
- 研修: 若手向けの研修ばかりで、シニア層が必要とする「最新スキル」や「セカンドキャリア準備」の場がない。
こうした「無意識の壁・見えない壁」は、日本で長く続いてきた「終身雇用」を前提とした働き方の社会から、多様な価値観を持つ幅広い世代が、経験やスキルを武器にしながら自分らしく働き続ける社会へ、変化していく中での過渡期にあるということではないかと思います。
労働人口が減少していく中で、経験とスキルを持ち合わせているシニア層の活躍を考えるという企業が増えてきています。しかしながら、若手のモチベーションを下げずに、シニアにも活躍の機会を用意するというのは、これまでの組織運営で経験したことのない課題なので、うまくいく方法は簡単には見つかりません。
また、シニアの側も例えば「何歳まで働きたいか?」または「何歳まで働く必要があるのか?」について、具体的に考える機会がありません。将来像を描く必要性も十分に理解できていないまま、定年退職が近づき、その時になって初めて準備が必要だったことに気づく・・というシニア層が実は多いのです。
4. 課題を見える化する方法:対話から始める一歩
では、このような「無意識の壁・見えない壁」をどうすれば見える化して、シニア層も組織も早めの対策を講じることができるでしょうか?次のような方法から始めてみてはいかがでしょうか。
- キャリアアンケート: 客観的なデータを集める。特に「不安なこと」やセカンドキャリアで「やってみたいこと」、必要な支援をセットで聞くのがポイント。
- 対話型ワークショップ: 部署を超えたシニア同士が、自身の経験や価値観を言語化する場を設ける。
- 1on1の質を高める: 上司が「業務指導」ではなく、「キャリアの棚卸し」を手伝う対話の場にするためのコツ。
いかがでしょうか?まずは社内で取り組めることからやってみることが重要です。
1on 1の実施に関しては、上司が年下になっているという場合、シニア層の部下は年下上司に本音を話したいとは思っていませんし、対応する年下の上司にも非常に難しい面談となり、双方にとってあまりメリットがありません。
シニア層のセカンドキャリアに関しては、外部のキャリアコンサルタントを活用する方が対象者の視野も広がり、年下上司の悩みの種を減らすことができ、より効果的です。小さな投資で組織の生産性向上や活性化につなげられる効果も期待できますので、何から始めたらよいかわからない場合には、ぜひ専門家にご相談下さい。
課題が見えれば、対策が見えてきます。
「停滞感を生む課題を特定した。では、企業として具体的にどうアプローチし、支援に繋げるべきか?」について経営視点でお伝えしていきたいと思います。
最後までお読み頂きまして、どうもありがとうございました。次回もお楽しみに!



