シニアのキャリアを再設計する — 働き方が変わる、組織が変わる【第2回】
第1回:なぜ今、シニアのキャリア支援が必要なのか
「もう終わり」ではなく「これから」を見つけるために
突然ですが、あなたやあなたの会社のベテラン社員は、今、自分のキャリアに「モヤモヤ」を抱えていませんか?
「定年延長で長く働くことになったけど、このままでいいのだろうか?」 「若い頃に身につけたスキルが、なんだか通用しなくなってきた気がする…」
かつては「会社が守ってくれる」という安心感があったかもしれませんが、今、その"当たり前"が崩れ始めています。
本シリーズでは、そんなミドル・シニア層のキャリアが直面する課題を深く掘り下げ、「企業と個人がどう変わるべきか」のヒントを全5回でお届けします。第1回は、この問題がなぜ今「待ったなし」の重要課題となっているのか、その背景を一緒に見ていきましょう。
1.ミドルシニア層が直面する働き方の大きな波とは
私たちを取り巻く働き方は、この数年で劇的に変わりました。特にミドル・シニア層のキャリアに直接影響を与えているのが、次の3つの大きな流れです。
長く働く時代へ!「定年延長」の波
少子高齢化が進む中で、企業は経験豊富なベテランに長く活躍してもらう必要が出てきました。ただ、長く働くことと、「やりがいを持って自分らしく活躍し続けること」の間には、残念ながら大きなギャップがあります。
スキル勝負!「ジョブ型雇用」の波
年功序列ではなく「どんな職務を、どのレベルでできるのか」で評価されるジョブ型への移行が進んでいます。これは裏を返せば、自分のスキルや専門性をきちんと伝えられなければ、長年の経験だけでは評価されにくくなることを意味します。
学び直しが必須!「リスキリング」の波
AIやデジタル技術の進化は止まりません。昨日までの「得意」が、明日には「古い」になってしまうことも。新しいスキルを学び直したり、更新する(リスキリング)ことは、もはや一部の人のための特別なことではなく、長く働き続けるための必須条件になりました。
「会社に全て任せておけば大丈夫」だった時代は終わり、私たちは否応なく「生き方、働き方の転換点」に立たされているのです。
2.キャリアの「宙ぶらりん問題」が起こっている
こうした環境変化の中で、多くのミドル・シニア層が抱え込んでいるのが、冒頭で触れた「モヤモヤ」感、言い換えるとキャリアの「宙ぶらりん問題」です。これは「キャリアの先が見えず、身動きが取れなくなっている状態」のこと。
もし当てはまるものがあれば、あなたも宙ぶらりんになりつつあるかもしれません。
- 昇進はもう見込めない。かといって現在の役職定年後の役割も曖昧だし、再雇用って何をすれば良いのだろう。
- 今の会社での自分の経験やスキルが社外でも通用するのか、自信が持てない。
- セカンドキャリアと言われても、何をどう考えればよいのかわからない。
頑張ってきた人ほど、「自分はまだやれるのに」というフラストレーションを抱え込みがちです。この「宙ぶらりん」な状態は、個人の活力を奪うだけでなく、組織全体の士気を下げ、企業の生産性低下という負のスパイラルになってしまうこともあります。
3.なぜ「キャリア自律」が欠かせないのか
なぜ、私たちはこの「宙ぶらりん問題」から抜け出せないのでしょうか?
それは、私たちは長年「キャリアを会社に預けてきた」からです。社会がそのものが成長した昭和の時代は一人ひとりがキャリアを考えるよりも会社の意向に沿って、異動や転勤をしてくれる人材が必要でした。だから一人ひとりが自らのキャリアを考えることは求められませんでした。
しかし、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代、企業がすべての社員の未来を常に設計し、必要な環境を提供し続けることは不可能になってきています。
そこで、これからは自分のキャリアは自分で考えて主体的に動いて下さい!と、気づかないうちに会社に預けた「キャリア」が自分の手元に突然戻された状態です。つまり、誰もが「キャリア自律」を求められる時代になりました。
キャリア自律とは、「会社にお任せ」ではなく、「自分のキャリアは自分で決める!そのために必要なことは自分で学び、行動する!」というキャリアに対する主体的な当事者意識です。自身の経験、強み、そしてこれから何を大切にしたいかを自分自身で棚卸しして、次のステージへ向けて舵取りをする。これが、先の読めない時代を生き抜くための鍵となります。
4.企業も動き出した!「人」への投資が未来を決める
もちろん、この問題に気づいている企業もたくさんあります。
最近よく耳にする「人的資本経営」とは、まさにその代表的な考え方です。社員を「資源=コスト」ではなく「会社の成長を生み出す資本=投資の対象」と捉え、育成や活躍の機会を積極的に提供していく考え方です。
- 企業価値を高めるために、シニア層の持つ知識や経験を「宝」として再活用する。
- 社員のエンゲージメント(会社への貢献意欲)を高め、活力を取り戻す。
- 全社的なリスキリング支援で、古いスキルをアップデートする機会を提供する。
企業にとって、シニア支援は「優しい福利厚生」ではなく、「会社の未来を決めるための戦略的な投資」の一つとなりつつあります。
今回のまとめ
第1回では、「長く働く」時代だからこそ生じるシニア層の「宙ぶらりん問題」と、企業・個人双方に求められる「キャリア自律」の必要性をお伝えしました。
企業が「戦略」としてキャリア支援を始めるにあたって、まず必要なのは「現状の課題を正しく知る」ことです。
- どのくらいのシニア層に活躍してもらう必要がありそうでしょうか?
- シニア層が「やる気がない」ように見えるのは、本当に本人の問題だけでしょうか?
- 彼らのキャリアの「停滞感」を生み出している、組織の無意識の壁とは?
次回、第2回では、「シニア層のキャリア課題を可視化する」と題して、停滞感を生む心理的・構造的な要因を具体的に紹介していきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。次回もお楽しみに!



