乳歯期のディープバイトは治療必要か?
長持ちさせるための秘訣と再治療のリスク
「歯の治療をしても長持ちしない」「結局、歯を残せない」といった患者さんの声をよく耳にします。根管治療は非常に難しく、治療後の歯が何年持つかは多くの要因に影響されるため、誰にも正確にはわからないのが実情です 。
実際、日本では1ヶ月あたり約105万件の根管治療が行われていますが、そのうち約55%が再治療(再根管治療)となっています※1 。つまり、「歯の根の治療」は、半数以上がやり直しを経験しているのが現状です 。
ここでは、根管治療後の歯の寿命に影響を与える主な要因と、そのリスクを低減するための治療法、そして再治療に関する重要な情報について詳しく解説します 。
根管治療歯の寿命を左右する要因
根管治療後の歯の寿命には、主に以下の要因が関係しています 。
根尖病巣(こんせんびょうそう)
不適切な根管治療によって根尖病巣が発生することがあります 。これは歯の根の先にできる膿の袋で、自覚症状がないまま進行することが多いです 。根管内の細菌を完全に除去することは難しいため、根尖病巣は数年〜20年で再発する可能性があります 。
象牙細管まで感染が広がると、細菌数を閾値以下にすることが不可能になり、抜歯が必要となるケースもあります 。
歯根破折(しこんはせつ)
根尖病巣がない場合でも、歯根の歯質が劣化(脱灰)することで歯根破折が起こり、抜歯の原因となることがあります 。
コロナルリーケージ
良好に根管充填された歯であっても、歯冠側から根管内に細菌が漏れ出すことがあります 。これを「コロナルリーケージ」と呼び、根尖性歯周炎の再発や再治療が必要となる主要な原因の一つです 。
根管治療後の歯は割れやすい?
「根管治療済みの歯は水分を失い脆い」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません 。実際のところ、間接引張試験極限強さ(PSL)のWet値では、生活歯と失活歯で強度に大きな差はないと報告されています(生活歯:Wet8.65、失活歯:Wet8.64)※2 。
しかしながら、臨床現場では多くの根管治療済みの歯が割れるなどのトラブルに見舞われているのも事実です 。Reehらの研究※3 によると、「歯は削除量によって耐久性が変化する」と結論付けられています。根管治療を選択せざるを得ない場合、多くはむし歯によって歯の大部分が侵されていることが多いです 。歯を上下を除く4面の立体形と考えると、四方の壁を1つ削るごとに歯の耐久性は20%ずつ低下すると言われています 。
これらの複合的な要因が、「失活歯は長持ちしない」という臨床実感につながっているのです 。
根管治療歯の寿命を延ばすための治療法
当院では、上記のリスクを低減し、根管治療歯を長持ちさせるために以下の治療法や機器を導入しています 。
精密な治療機器の活用
経験や勘に頼らない高精度な治療のために、「トライオート」「3DCTファインキューブ」「ルートZX」といった最新の治療機器を使用しています 。
無菌的処置の徹底
根尖性歯周炎の原因は細菌であるため、ラバーダム防湿をはじめとする無菌的処置が非常に重要です 。環境整備はもちろん、形成・化学的洗浄・貼薬によって細菌を減らす努力をしています 。
オフィスバリアの設置
コロナルリーケージを防ぐために「オフィスバリア」を設置します 。これは、根管充填材の切断面を歯槽骨レベルより下に保ち、良好な接着性を持つ材料で根管口を封鎖することで、細菌の侵入を防ぐものです 。
ファイバーコアによる補強
歯根破折のリスクを低くするために、「フェルール」の確保と「ファイバーコア」の使用が推奨されます 。
金属の土台(メタルコア)は、歯根に強い力がかかりやすく、歯根破折のリスクを高める可能性があります 。また、金属アレルギーや歯茎の変色の原因となることもあります 。
一方、グラスファイバー製の土台(ファイバーポストコア)は、天然歯に近いしなやかさを持ち、歯根が割れにくく、金属アレルギーの心配もありません 。ポスト長は歯冠長以上が必要とされており、フェルール(辺縁歯質量)が少ないと歯根破折のリスクが高まります 。
再治療の成功率について
一度根管治療を行った歯に対する再治療(再根管治療)は、病巣がある場合、成功率は40%台とされています※4 。この成功率の低さも、「失活歯は長持ちしない」という臨床実感につながる複合的な要因の一つです 。
※1 e-stat 政府統計の総合窓口2023年6月調べ
※2 Effects of moisture content and endodontic treatment on some mechanical properties of human dentin Huang.T.J/Schilder.H/Nathanson.D/J Endod 1992;18:209-15
※3 Reduction in tooth stiffness as aresult of endodontic and restorative prodedures.Reeh.F.S/Messer.H.H/Douglas.W.H/J.Endod 1989;15:512-6
※4 Sjögren 1997,Ng 2007,Setzer 2010より引用



