1本のインプラントの費用はいくらですか?
当院の 36年間の歯科臨床の中で、患者さんへの診断、治療計画、最終的な治療における最も大きなパラダイムシフトは、口腔インプラントの導入でした。これらは通常、欠損した歯を補う従来の方法と比較して、優れた長期的な安定と様々な利益をもたらします。
その中でも、とくにインプラント支持義歯(IOD)については下記に説明します多くのメリットがあります。当院においてはその形状的な特徴から通常の義歯(入れ歯)と異なり取り外しできないブリッジと共通する機能をもつことから取り外しできるブリッジ(以下、リムーバブルブリッジ)とも呼称しています。
この治療は、すべての歯を失う、もしくは多数の歯を失いそうな状態にある患者さんに対し歯科治療をする場合に特に顕著な効果を実感できます。
すべての歯を失った、もしくは失いそうな患者さんに対しリムーバブルブリッジ治療を施すことで繰り返す歯科治療に終止符を打つことが可能です。リムーバブルブリッジは、インプラントの上に取り外し可能な補綴がフィットするため、「インプラントオーバーデンチャー」と一般的には呼ばれています。患者さんがリムーバブルブリッジから得られる心理社会的、機能的、解剖学的な利益に関する科学データについて照覧します。
具体的な症例については当院ホームページをご覧ください。
1.心理社会的な利益
心理社会的とは、外観の改善[ 1 ]、治療満足度[ 2 ]、生活の質[ 3 ]が含まれます。リムーバブルブリッジは、インプラントによって安定しているため、従来の治療と比較して患者さんの外観を向上させることができます。したがって、口腔の筋肉が収縮したときに入れ歯が不安定になることもなく、歯を審美的に最適な位置に配置できます。特にリムーバブルブリッジの患者さんは、従来の入れ歯治療と比較して満足度が高く、生活の質が高いと報告しています。
2.機能的な利益
リムーバブルブリッジの患者さんは、従来の入れ歯を装着している患者さんと比較して噛む力が増加し、そのため食べ物を噛む能力が向上します[ 4、5 ] 。その結果、より幅広い食品の選択肢を食べることができ、これは健康に良い影響を与えます。栄養面だけでなく噛みにくい食品も摂取できるようになります[ 6 ] 。
3.解剖学的・生物学的な利益
患者さんがすべての歯を失うと、生物学的代償を受けます。その代償とは、徐々に歯槽骨の骨量が減少し続けることです。時間の経過とともに顎が痩せていくと快適な食生活を送ることがますます困難になります。リムーバブルブリッジを使用している患者さんは、入れ歯を使用している場合に比べて、長期にわたる骨の損失が少なくなります。 [ 7 ] さらに、リムーバブルブリッジの安定性により、補綴物がずれることなくより大きな筋肉活動が可能になるため、口の周囲の筋肉の萎縮も少なくなり若々しい顔貌を維持できます。 [ 8 ]
4.医療費・経済的な利益
これは文献化が難しい点になりますが、当院における臨床実績からリムーバブルブリッジ治療を受けられた患者さんはその後にかかる歯科治療費が安くなっています。なぜならば埋入するインプラント本数は2~4本程度であるため、歯を失うたびにインプラントを追加するよりも遥かに経済的です。また、リムーバブルブリッジは通常の取り外しできないブリッジなどの被せものと違い、構造上の破損リスクが低いため長期安定性に優れています。
リムーバブルブリッジのデメリット
1.心理社会的な不利益
リムーバブルブリッジは全ての歯を失った、もしくは失いそうな患者さんに対して行う治療方法です。とくに、歯を失いそうな患者さんは実際にはまだ失っていない歯を抜かなければならず「まだ、何とかなるはずではないか」という歯を抜くことへの抵抗感があります。
リムーバブルブリッジは被せもの支持を患者自身の歯からインプラントに置き換えているため患者自身の歯とは見た目も、使い方も大きく変化しています。その変化に順応する心理的ストレスがかかります。
2.機能的な不利益
リムーバブルブリッジを比較検討する際、取り外しできない一般的なブリッジ治療との比較があります。取り外しできない一般的なブリッジと違い、構造上の違和感が大きいとされています。リムーバブルブリッジは取り外し式(可撤式)であるため、口腔清掃時や補綴物の清掃の際には口腔内から取り外して行う必要があります。
3.解剖学的・生物学的な不利益
口腔インプラントを用いるためインプラント埋入手術が必要となってきます。抜歯、インプラント埋入手術からその傷口の治癒を待時する必要もあります。外科処置を伴うため予定通り推移しないことや全身状態によってはインプラント埋入手術ができない場合もあります。口腔インプラントは15年生存率は90%以上と高いですが、インプラントの全てが長期的に口腔内に生存するわけではありません。
4.医療費・経済的な不利益
我が国において、歯科医療保険制度上、リムーバブルブリッジはその給付の対象外となっております。検査・手術・リムーバブルブリッジ製作・調整・メインテナンスを含む該当する歯科治療の全てが療養の給付にならない自費治療(自由診療)です。
参考文献
1. Heydecke G, Boudrias P, Awad MA, De Albuquerque RF, Lund JP, Feine JS. Within-subject comparisons of maxillary fixed and removable implant prostheses: Patient satisfaction and choice of prosthesis. Clin Oral Implants Res. 2003;14:125–30.
2. Thomason JM, Lund JP, Chehade A, Feine JS. Patient satisfaction with mandibular implant overdentures and conventional dentures 6 months after delivery. Int J Prosthodont. 2003;16:467–73.
3. Awad MA, Lund JP, Shapiro SH, Locker D, Klemetti E, Chehade A, et al. Oral health status and treatment satisfaction with mandibular implant overdentures and conventional dentures: A randomized clinical trial in a senior population. Int J Prosthodont. 2003;16:390–6.
4. Geckili O, Bilhan H, Mumcu E, Dayan C, Yabul A, Tuncer N. Comparison of patient satisfaction, quality of life, and bite force between elderly edentulous patients wearing mandibular two implant-supported overdentures and conventional complete dentures after 4 years. Spec Care Dentist. 2012;32:136–41.
5. Benzing U, Weber H, Simonis A, Engel E. Changes in chewing patterns after implantation in the edentulous mandible. Int J Oral Maxillofac Implants. 1994;9:207–13.
6. Morais JA, Heydecke G, Pawliuk J, Lund JP, Feine JS. The effects of mandibular two-implant overdentures on nutrition in elderly edentulous individuals. J Dent Res. 2003;82:53–8.
7. Wright PS, Glantz PO, Randow K, Watson RM. The effects of fixed and removable implant-stabilised prostheses on posterior mandibular residual ridge resorption. Clin Oral Implants Res. 2002;13:169–74.
8. Müller F, Hernandez M, Grütter L, Aracil-Kessler L, Weingart D, Schimmel M. Masseter muscle thickness, chewing efficiency and bite force in edentulous patients with fixed and removable implant-supported prostheses: A cross-sectional multicenter study. Clin Oral Implants Res. 2012;23:144–50.