ゆっくり、はやく、丁寧に
小学校1年生のころから、大学を卒業するまで剣道を続けてきました。私は試合に滅法弱く、大会で優秀な成績をおさめることはありませんでした。そんな私が、剣道を熱心に続けてこれたのは昇段審査という公式試合とは別の評価軸があったためです。試合では勝てなくても、段位を昇ることは全くの別の話なので試合では評価がつかなくとも、せめて段位だけは取ろうと思い直していたのです。
剣道は剣術由来の武道ですから、対戦相手がいないと稽古にならないと思われがちです。一方で、昇段審査では対戦相手を打ち負かすことだけではありません。個人の力量や剣道に対する認識や思想面の成長というのも同じくらい重要だとされています。個人の力量や剣道に対する知識などは独りで黙々と練習したり、勉強したりすることができます。これが私の性分にあっていたようで、誰かと一緒にかかり稽古や練習試合をするより一人孤独に素振りをするのが好きでした。痛い思いをしなくて済みますし、稽古の時間に間に合うように急いで道場に向かう必要もないので楽だったからです。とはいえ、試合稽古を全くしない訳にはいかないので昇段審査の数カ月前には道場にいく頻度を増やしたりしていました。その際に、いい経験になったなと思うのは別の道場に出稽古にいったことでした。いつもと違うメンバーや先生について習うことができるので刺激になるのです。一つ想い出としてあるのは高校生の時の出稽古です。そのころ、昇段審査を控えていた私は当時道内屈指の強豪校といわれていた剣道部の稽古に参加したのです。私の高校の剣道部は人数も少なく、強豪でもなかったので稽古の質に限界があると考えたからでした。同級生の部員と一緒にその高校の稽古に参加しますと、私の練度では同じ男子高校生相手ではいい練習にならないと言われ、その高校の女子剣道部に混ぜてもらって稽古をしました。私の高校は男子校でしたので、女子部員と稽古するのは初めての経験でした。女性の剣の立ち合いは男子高校生とは異なり、それまで力一辺倒で竹刀を振り回していた私にとって為になる気づきがありました。
もちろん力量や体格さにも寄りますが、女性と男性が試合をしてもそれが試合として成り立つスポーツはそう多くはないように思います。ちなみに私が大学剣道部のとき、団体戦時、私の大学では女性が正規メンバーとして参加し、男性を何人も打倒し立派にチームの勝利に貢献したことを記憶しています。剣道は別に早く動く必要も、力任せに組み敷く必要もありません。剣さばきが相手より優っているかどうかに男も女もないわけです。男女平等など当たり前の時代、剣道を通じ男性・女性の意識が自然に吹き飛ぶ経験ができたのも私個人にとっては良かったように思います。