がん患者の悩みに応える医療用ウィッグと外見ケアのプロ山本公生

がん患者の悩みに応える医療用ウィッグと外見ケアのプロ

山本公生

アピアランスケアで患者の心を応援。病気による外見変化の悩みを相談できるヘアサロン

　今や日本人の2人に1人が一生のうちにがんと診断される時代（※）。治療法は日々進歩していますが、それでも抗がん剤の副作用などが原因で脱毛、皮膚や爪の皮膚障害、手術痕といった身体症状が外見に現れます。その結果、外出や人と接することをためらうなど、従来通り過ごすことが難しくなる場合があります。そんな外見の変化によるストレスを医療用ウィッグやカバーメイクなどで軽減し、生活の質の向上を目指すのが「アピアランスケア（外見ケア）」です。仕事をしながら通院し、治療を続ける人が増えていることもあり、関心が高まっています。

　「私たち美容師は病気を治すことはできないけれど、美容のプロとして外見の悩みを軽くすることならできます。“髪の毛のお医者さん”として寄り添いケアをいたしますので、少しでも前向きな気持ちで治療に取り組んでいただけたら」と話すのは、アピアランスケアを核とした複合型ヘアサロン「FOR AC美容室」のオーナー・山本公生さん。
　美容師として25年以上のキャリアを持ち、石川県内で5店舗のヘアサロングループを展開しています。

　2020年、河北郡に同サロンをオープンしたのは、「培った技術を困っている人のために役立てたい」という思いから。サロンには調剤薬局とカフェも併設。薬局には車に乗ったまま薬が受け取れるドライブスルー窓口を設けたり、カフェでは専門家の講演会や患者会を開いたり、がん患者を多方面からサポートしています。また専門医の協力のもと、オリジナルコスメ開発・販売も手掛けています。

（※国立がん研究センターがん情報サービスがん統計より）

“隠す”から“見せたくなる”へ。人毛100％のセミオーダーウィッグで個性豊かにおしゃれを楽しんで

　「従来の医療用ウィッグは化学繊維が中心でしたが、当サロンでおすすめしているのは人毛100％のセミオーダーウィッグです」と山本さん。

　化繊ウィッグは洗って陰干しするだけで形が戻るので手入れが簡単ですが、ヘアアイロンやドライヤーの使用は不可。また独特の光沢があり、自毛との差が目立ちやすいといった特徴があります。治療による脱毛から回復までは、一般的に2年ほどかかると言われますが、ウィッグへの違和感から使用をあきらめ、長期間外出を控えてしまう人もいるとか。既製品を注文すると、納品まで時間がかかる場合があるのも難点でした。

　「人毛100％のウィッグは自毛になじみ、見た目が自然であることがメリットです。アイロンやドライヤーが使えるだけでなく、カラーやパーマなども可能で、お好みの髪型を作ることができます」

　同サロンでは、丁寧にカウンセリングを行った上でヘアスタイルを提案。一人一人のコンディションに合わせてウィッグを作製します。短期間で完成するのも魅力で、デザインが決まれば1～2日でできあがります。定期的にメンテナンスをする必要もありますが、頭皮ケアも含め、長期的なフォロー体制を用意。カウンセリングやウィッグの試着、カットなどは専任スタイリストが個室で対応するので、人目を気にせず利用することができます。

　「今までのウィッグは脱毛を隠すものでしたが、私たちはつけるのが楽しみになる、見せたくなるウィッグをお届けしたいですね」

アピアランスケアのスペシャリストが身近にいる環境を全国のスタンダードに。講習会で知識普及に尽力

　髪と髪の間に空間を作り立体感を出す「クロシエカット」を、本場イタリアの研修で身に付けた山本さん。このカット技法を強みとしてサロンを展開するとともに、フランスで開催されるファッションブランドの発表会「パリコレクション」でヘアメイクを務めるなど、精力的に活動してきました。

　「私にとって“上手な美容師”とは、ご本人の悩みやコンプレックスを解決できる人です。これからもお客さまの真意をくみ取り、希望をかなえられる自分でありたい。満足していただくためにも常に技術を磨き、引き出しを増やしていくつもりです」。明るく気さくな語り口の中に、プロとしての誇りをのぞかせる山本さん。以前は、サロンの顧客に病を打ち明けられてもどんな言葉をかけていいか分からず、自身の無力さを痛感していたとか。

　かつての自分のように、戸惑いを感じている美容師がたくさんいるのではないか。何かできることはないかと考える中、一人で悩みを抱え込む患者が数多く存在するという現状を知り、こんな思いを持つようになりました。

　「全国どこでも美容とアピアランスケアのスペシャリストがいて、気軽に相談やメンテナンスができる世の中にしたい」

　声のかけ方、ウィッグの合わせ方、治療中のケアや治療後のヘアスタイルの提案といったアピアランスケア技術を美容業界へ広めるため、今後、講習会の開催を予定。病気になっても誰もが自分らしく生きられる社会を目指し、探求は続きます。

（取材年月：2021年9月）

培った技術と美容の持つ力を生かし、病気になっても誰もが自分らしく生きられる社会を目指す

アピアランスケアで患者の心を応援。病気による外見変化の悩みを相談できるヘアサロン

“隠す”から“見せたくなる”へ。人毛100％のセミオーダーウィッグで個性豊かにおしゃれを楽しんで

アピアランスケアのスペシャリストが身近にいる環境を全国のスタンダードに。講習会で知識普及に尽力

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