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我人生に後悔なし さらばじゃ

安部春之

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年間110万人の方が亡くなるなかで、どれだけの方がこのような境地になって死んでいくことができるのか?この境地になれることこそ、見事な死に様であるし、ひいては見事な生き様でもある。
今年2月4日に73歳で、大腸癌で亡くなったKさん。祭壇にはこの言葉を書いた紙が飾られていた。大きな家の長男ながら若いころ親と喧嘩して家を飛び出し、生活を構え、三人の子供をもうけ、その後奥さんとも離婚しているが、面倒見が良く人懐こいのでどこでもみんなに慕われていた、Kさん。
Kさんと最初に会ったのはKさんのお父さんが亡くなった9年前の相続申告の時である。その後も不動産所得の申告等を通じてご縁が続き、1年に一度は必ず一緒に飲みに行く仲になっていた。あるとき私が一度お連れしたスナックが気に入り、何度か店に通ううちに、中国から来た留学生を、「この子を養女にして日本に居られるようにするんだ」と言って聞かない。相続権が生じるからそれは止めた方がいいですよと言っても、子供達にも、既にそのことを話しているから大丈夫だと笑う。3人の子供達も、お父さんの、言いだしたら聞かない性格をよく知っていて、「お父さんの好きにしたら」と言っていたそうだ。結局は養女にはしていなかったが。
体調が悪いというので、病院に行けとみんなが勧めても聞かない。どうせ病気が見つかっても数年長く生きられるだけだろうと。そして結局癌が見つかってしまった。しかし大して動じない。私に対して、「何も困らない、ただチェッと思うだけだ。あと半年も生きられるならそれで充分だ、したいことは全部してきた」。それから私が公正証書遺言を作りましょうと勧めて、何回か文言の確認をして、ほとんど原稿は出来ていたものの、最終の完成を見ないままに亡くなってしまった。ただ公正証書遺言の最後の付言事項には、やはり冒頭の言葉が付け加えられていた。
先日49日が済んだので、相続人である子供達に、この遺言書を見せて、このとおりに分割協議をするかどうかは自由だけど、これはご本人のご意思です、と読み聞かせると、仲の良い兄弟のようで全く分割は問題がなさそうである。それ以上に私を驚かせる故人の逸話を色々と聞かせてくれた。
「実は昨年10月に、B葬祭センターへお父さんと下見に行ったのです」「エエーッ!」「そこで自分が死んだら祭壇はこれにしろ、棺桶はこれにしろ、骨壷はこれでいいかな?」「少し派手でない?」「それならこれにするわ」「お参りの人はこれ位くるはずだから、食事はこれを用意しろ」と差配し、冒頭の言葉を葬祭屋の人に、「これを綺麗に色紙に書いて貰えませんか?」「いや、それはご本人が書かれた方がいいと思いますよと言われ、結局筆ペンを買って練習していたようで、見つけたら競馬新聞の紙に書いてあったのです。いかにもお父さんらしいと思いました」と笑いながら話す長女さん。
長男さんも、
「病院が嫌いで、自宅で療養していたが、亡くなる3日ほど前まで自分でトイレにも立ち、最後は自宅で亡くなった」「父はお風呂が大好きで1週間に一度は大きな露天風呂のあるところへ私が連れていっていたが、丁度その連れて行く日に亡くなった。しかしそこは父のこと、葬祭センターに湯かんをちゃんと予約していたらしく、自宅でゆうゆうとお風呂に入り、髭もそって貰ってさっぱりして葬儀場へ向かいました」(笑)
当センターでは毎年30件近く、相続申告のお手伝いをしているが、こんなケースは始めてである。人はいずれ死ぬのだから、いざ死期が迫ってもうろたえず、このように男らしく、家族を悲しませず、堂々とした死に様でありたい。そのためには今をいかに生きるかが問われているのだと思う。
税理士 安部春之

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