【資産運用が“うまくいっている”とは?】

経営環境が急激に変化するなかで、多くの中小企業が資金繰りや再生に課題を抱えています。
特にコロナ禍以降は、売上回復の遅れや金融機関の貸し渋りが顕著となり、「再生支援」という言葉がより現実的なテーマとなりました。
本記事では、再生局面で有効な制度として注目される資本性ローンと405事業(中小企業活性化協議会による再生支援スキーム)の仕組みや実際の活用法を、銀行員として30年の経験を持つ筆者の視点から解説します。
【資本性ローンとは何か】

まず、再生支援における要のひとつである「資本性ローン」の基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。
資本性ローン(正式名称:資本性劣後ローン)は、金融機関からの融資でありながら、自己資本に準じる資金として扱われる特別なローンです。
会計上は「負債」ですが、金融機関の評価上は「資本」として見なされるため、債務超過の改善や財務体質の強化に効果があります。
この資本性ローンは、主に以下のような特徴を持ちます。
- 元本返済が最終期一括(期間中は利息のみの支払い)
- 業績連動型の金利設定(赤字期は低金利、黒字期は高金利)
- 資本とみなされるため、他の借入審査にプラス評価される
つまり、再生段階にある企業が一時的に資本を厚く見せることで、新たな資金調達や銀行との関係修復を可能にする制度なのです。
【資本性ローンが注目される背景】
2020年以降、コロナ融資による借入が一巡し、返済が本格化しています。
その結果、返済負担の増加により多くの企業が「資金繰りの二重苦」に陥りました。
銀行もまた、債務超過や赤字企業への追加融資には慎重です。
こうした状況下で、資本性ローンは「債務を増やさずに資金調達できる」仕組みとして、再生局面の有効な選択肢になっています。
【405事業(中小企業活性化協議会)とは】

次に、「405事業」と呼ばれる再生支援スキームについて解説します。
405事業とは、中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)が中心となって、経営再建を支援する国の公的制度です。
この「405」という名称は、補正予算における事業番号(405)からきています。
対象となるのは、経営改善の意欲があるものの、財務面で厳しい状況にある中小企業です。
再生支援のプロセスは次の3段階で進められます。
1. 相談・診断フェーズ:経営課題や財務状況の整理
2. 計画策定フェーズ:再生計画書(リスケジュールや再編を含む)を作成
3. 金融機関との調整フェーズ:複数銀行と連携し、返済条件変更や追加支援を協議
このスキームの最大の強みは、金融機関全体を巻き込んだ再生支援が可能になる点です。
個別交渉では難しい合意形成を、第三者である協議会が中立的に調整します。
【405事業と資本性ローンの連携効果】
再生支援においては、405事業による「再建計画の策定」と、資本性ローンによる「財務基盤の強化」を組み合わせることで、より効果的な再生が可能になります。
たとえば、協議会で債務返済スケジュールを見直したうえで、資本性ローンを導入し、自己資本比率を改善する。
これにより、他の銀行からの新規融資や保証協会の支援を受けやすくなります。
つまり、405事業が「再生計画の骨格」を作り、資本性ローンが「資金的な肉付け」を担う――この2つの制度をセットで使うことが、現場で最も成果を上げるパターンです。
【資本性ローンの申請と審査ポイント】
実際に資本性ローンを利用する際には、金融機関の審査視点を理解しておくことが不可欠です。
銀行が資本性ローンを検討する際に重視するのは、以下の3点です。
1. 事業の再生可能性(ストーリー)
再建のための明確な計画と行動が見えているか。
2. 経営者の姿勢(人物評価)
数字だけでなく、危機に立ち向かう誠実さと実行力が問われる。
3. 財務シミュレーション(数値)
キャッシュフロー計画が現実的であり、返済可能性があるか。
筆者が銀行員時代に見た限り、資本性ローンの審査では「再生意欲」と「具体的な実行計画」の2点が決め手です。
「支援を受けたい」だけではなく、「支援後にどう立て直すか」を明確に示す必要があります。
【申請時に準備すべき書類】
申請には次のような資料を求められることが一般的です。
- 経営改善計画書(3~5年分)
- 損益・貸借・資金繰り表
- 代表者の経営理念・行動計画
- 既存金融機関との借入一覧と対応方針
これらをまとめる際には、単なる数字の羅列ではなく、「なぜ再建できるのか」というストーリーを文書で伝えることが極めて重要です。
【実際の活用事例と成功のポイント】
ここでは、実際に資本性ローンと405事業を活用して再生に成功した事例を紹介します。
ある製造業の企業では、コロナ禍で売上が半減し、債務超過に陥っていました。
405事業を活用して再生計画を策定し、金融機関全体でリスケジュールを実施。
その上で、信用保証協会を通じて資本性ローンを導入し、自己資本比率を25%まで回復させました。
結果として、追加の運転資金を確保でき、3年後には黒字転換。
再生支援から卒業し、通常融資に戻ることができました。
このように、制度を上手く組み合わせることで、「債務の圧縮」だけでなく、「事業の再生」にもつながるのです。
【成功する企業の共通点】
成功企業には、次の3つの共通点があります。
1. 経営者自身が再生のリーダーとして動くこと
2. 資金繰り表を常に更新し、現実を見据えて行動すること
3. 金融機関との信頼関係を途切れさせないこと
筆者が強調したいのは、再生支援とは「金融支援」ではなく「信頼回復のプロセス」であるということです。
資本性ローンも405事業も、そのための“道具”に過ぎません。
【まとめ:資本性ローンと405事業を再生の軸に】
資本性ローンと405事業は、いずれも単独で完結する制度ではなく、「再生の設計図」と「資金の裏付け」を一体化してこそ真価を発揮します。
再生支援は、時間との戦いでありながらも、誠実に向き合えば道は開けます。
経営者が自らの意思で再生計画を描き、銀行と正面から対話する――その姿勢こそが、最終的に企業を救う最大の要因です。
【よくある質問(Q&A)】
Q1. 資本性ローンはどの金融機関で利用できますか?
A. 日本政策金融公庫、信用保証協会付き融資、一部の地方銀行などで取扱いがあります。405事業を経由することでスムーズに申請できるケースもあります。
Q2. 債務超過でも申請できますか?
A. 可能です。むしろ債務超過企業こそ、資本性ローンの対象として検討されます。ただし、再建可能性を示す計画が不可欠です。
Q3. 405事業を利用するには費用がかかりますか?
A. 原則として相談は無料です。専門家派遣や財務分析の一部に費用が発生する場合もありますが、自治体の補助制度が使えるケースが多いです。
以上のように、資本性ローンと405事業を組み合わせることで、中小企業は再生への現実的な道筋を描くことができます。
重要なのは「制度を知り、動くこと」。今こそ、再生の第一歩を踏み出す時です。



