50代女性の空間をととのえる事例~3人の決断
1|ことばとして扱う光と風
家や空間を設計するとき、私たちはまず、光や風をことばとして扱います。採光、通風、方位。
建築では、法律によって居室の最低採光面積が定められ、風に対しては必要な換気回数という基準があります。
光や風は数値に置き換えられ、性能として図面に描かれる。
ことばと数値に整理された光と風は、空間を共有するための共通言語であり、住宅設計の土台になります。
まず安全で快適な環境をつくる。そのための客観的な指標は欠かせません。
2|実存として出会う光
けれど、完成した空間で出会う光は、その説明を超えた体験としてあらわれます。
日差しが壁をゆっくり移動していく時間。
窓辺にたまるやわらかな明るさ。
同じ場所でも、季節や天候、そこにいる人の身体によって、光の感じ方は変わります。
実際の空間で立ち上がる光は、単なる照度ではなく、時間や気配を含んだ出来事です。
私たちが拠点にしている広島でも、光は日々表情を変えています。
瀬戸内のやわらかい反射光、湿度を含んだ空気の層。
土地の気候や風土が、空間の質を静かに形づくっています。
明るさ、温度、広がりが溶け合った感覚に気づきながら生活することは、日常に小さな発見をもたらします。
空間は器ではなく、生きた環境として感じられるようになります。
3|窓と言葉、光の質
光の質は、窓の設計によって大きく変わります。
窓の高さ、向き、大きさ、枠の取り方。
わずかな違いが、室内に落ちる光の表情を変えていきます。
コーヒーに銘柄や味わいがあるように、光にも個性があります。
やわらかい光、鋭い光、にじむ光。
私たちはそれらを言葉にしながら、どのような時間をその場所につくりたいのかを考えます。
窓は単なる開口部ではなく、外の世界と内側をつなぐ装置であり、光を編集するための繊細な道具です。
広島の光をどう受け取り、どう室内へ導くか。その試行錯誤そのものが、設計の楽しさでもあります。
4|光の質で設計するということ
空間をつくるということは、形を完成させることではありません。
そこに満ちる光や空気によって、はじめて仕上がり、ととのっていく過程です。
だから私たちは、機能の名前で区切られた部屋だけでなく、光と風が行き交う余白を設計したいと考えています。
そしていつか、「光の質で設計を頼みたい」と言ってもらえる仕事を重ねていきたい。
今いる場所で、窓から入る光に少し意識を向けてみる。
その体験の積み重ねが、より豊かな空間をつくる出発点になるのだと思います




