竹中大工道具館
長らくコラムでお付き合いいただきました改修工事が、ついに完成の時を迎えました。
これまで工事の進捗を追いながら、様々な工程の裏側や職人の手仕事についてお伝えしてきましたが、今回はこれまでの歩みを振り返り、一つの物語として締めくくりたいと思います。
始まりは、既存の建物を丁寧に解体していくことでした。
構造をあらわにしながら、これから始まる工事の全体像を掴んでいきました。
見えない部分だからこそ手を抜けない床下の補強や断熱工事、そして部屋の骨格となる下地作りへと、着実に工事は進んでいきました。
天井や壁ができてくると、空間は少しずつその表情を変え始めます。
特に、コラムでもご紹介した天井の改修では、既存の梁や柱との調和を考えながら、新たな息吹を吹き込んでいきました。
古材を再利用して新たな場所で活かす試みや、ミリ単位の精度が求められる鴨居や敷居の設置、そして職人の手仕事が光る左官工事。
一つひとつの工程が、前の工程からバトンを受け取り、次の工程へと繋いでいくリレーのようでした。
それぞれの持ち場で、職人さんたちが持てる技術と知識を注ぎ込み、少しずつ家の記憶を未来へと繋ぐ空間が出来上がっていく様子は、何度見ても感慨深いものがあります。
解体された何もない状態から、美しい佇まいを取り戻していくまでの道のりを、コラムを通して皆さんと共有できたことを大変嬉しく思います。
今回の現場では、普段なかなか経験できないような仕事を数多くさせていただきました。
私自身にとっても、茶室の天井や鴨居・敷居の設置、古材の活用など、初めて挑戦することが多く、どれも楽しく、同時に大変な仕事でした。
材料を見極め、どこにどう使い、どうすれば美しく見えるのか。
手間を惜しまず緻密に進めるべき部分と、段取り良く効率を考えるべき部分、その両方を学ぶ貴重な機会となりました。
明治の時代から120年、家族の暮らしが代々続いてきたこの家。柱に残る古い木の匂いや傷は、その長い年月の経過そのものです。
私たちの仕事は、そうした昔の家の良さを大切に残しながら、この先も続いていく未来の暮らしへとバトンを渡すことでした。
この家が、また新しい歴史を紡いでいく。その始まりに携われたことを、心から光栄に思います。
このような素晴らしい機会をくださったお客さんに、心より感謝申し上げます。



