ほぞのはなし
先週の雨が嘘のように、ジリジリと太陽が照りつける日が続きますね。そんな夏の光の下、今まさに現場では、外壁の板に一枚一枚、布で「黒い何か」を丁寧に擦り込んでいます。これ、ペンキを塗っているわけじゃないんです。ちょっと不思議な経歴を持つ、土から生まれた塗料なんです。
壁に塗る自然素材といえば、皆さんもご存知の「漆喰」がありますよね。実は、木を保護するものにも、同じように自然から生まれた「ベンガラ」というものがあります。今の家づくりでは稀になりましたが、これもまた、日本の建築を支えてきた素晴らしい素材です。
面白いことに、このベンガラ、昔から塗装屋さんではなく、なぜか僕ら大工が塗るのが習わし。刷毛でベタっと塗るのではなく、ウエス(布)で木に擦り込むように、一枚一枚染み込ませていきます。木の呼吸を止めずに、その木目を生かしながら、虫や湿気から家を守る。先人の知恵が詰まった、いわば家のための「高機能アウトドアウェア」のような存在です。
そして僕が今塗っているこの「黒色」もベンガラの一種。ここからが土の面白いところで、このベンガラ、その土地の土で育った野菜の味や形が違うように、採れる場所によって色が全く違うんです。
例えば、飛騨高山の古い町並みで見られる、あのキリっと引き締まった黒。かと思えば、お隣の郡上市あたりでは少し赤みがかった黒に、さらに滋賀の方へ行くと、今度は明るい朱色が見られる。その土地の土が持つミネラルや成分の違い、つまり「土壌の個性」が、そのまま色の違いとなって現れるんです。土の力って、本当に不思議ですよね。

自分の住む町の家々が、どんな「土の色」をしているのか。そんな視点で改めて散歩をしてみると、見慣れた景色の中に、その土地だけの物語が隠されているのが見えてくるかもしれませんね。



