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思い出の品の寿命を伸ばす、修理専門の時計職人

時計修理のプロ

川口誠

川口誠 かわぐちまこと
川口誠 かわぐちまこと

#chapter1

亡き恩師の知識と経験を受け継ぎ、“真の技術力”を身に付ける

 松山市湊町4丁目、中の川通り近くにある「時計工房 勇進堂」は修理専門の時計店。持ち込まれた時計を、一つ一つ手作業で修理しているのは4代目の川口誠さんです。川口さん自身が手掛けるのは腕時計で、そのほかの時計は川口さんの父親が担当しています。「オーバーホールを含む本格的な修理は1日4本程度。お客さんが店に直接持ってくる時計以外に、ほかの時計店から修理を依頼されるケースも多いですね」

 川口さんは滋賀県の専門学校で時計の基礎や修理技術を3年間学びました。「授業で学んだのは時計の基礎で、修理技術の大半は現場で覚えました。特に当店の職人で、2年前に55歳で亡くなった山下宇佐夫さんからはいろんなことを教えられましたね。昔ながらの職人でしたから『見て覚えろ』の世界ですけど」

 手先の器用な人であれば、基本的な修理技術の習得は難しくないそうです。しかし、実際に壊れた時計を前にしたときに役立つ“真の技術力”は、知識と経験の量で決まると言います。「直し方を知らなければ、どんなに手先の器用な職人さんでも修理はできません。山下さんは職人歴40年の大ベテランでしたから、情報量は圧倒的でしたね。僕はまだ6年目ですが、山下さんのそばで働けたことが大きな財産になっています」

 川口さんは今でも山下さんを目標にしています。「時計職人は修理した際、時計の中に修理内容や交換部品、ネームを刻みます。そうすることで次に修理するときに、故障原因が見つけやすくなるんですよ。時計に山下さんの名前を見つけると、懐かしくなると同時に、山下さんを超えて見せるぞ、という気持ちになりますね。山下さんが手掛けた時計の中には、今でも山下さんがいるんですよ」

#chapter2

メンテナンス次第で、孫の代まで残せる機械式時計

 時計には機械式と電池式があり、オーバーホールを含む本格的な修理の依頼は機械式が多いそうです。「機械式時計の良いところは、メンテナンスさえしっかりしておけば、50年、60年使えるところ。親から子へ、子から孫へと受け継いでいくことができます」。実際に祖父や祖母の形見として譲り受けた古い時計を、店に持ち込む若い人が増えています。「使い方を知らなかったり、動かない時計をもらって困っていたりといろいろです。修理して動くようにするだけでなく、奇麗に洗浄して返すと、とても喜んでいただけます」

 長寿命の秘密は部品に隠されています。「歯車やほぞなどの部品は、職人の手で作り出すことができます。歴史が古いので、中古部品も数多く存在します。逆に電池式時計は、コンピューターが故障すると職人の手には負えません」。また、発明当時から変わっていない時計理論の奥深さや、デジタル式が登場しても重宝されるアナログ式時計の存在に「機械式時計の魅力を感じる」と川口さんは言います。

 店舗での取材中、約2時間の間に6人のお客が時計を持ち込みました。川口さんは取材を受けながら要領よく修理をこなします。ベルトの調整など簡単なものは1、2分で完了。時間のかかる品は、名前と連絡先を控えて預かります。預かった時計を分解すると、「このお客さんか。前に修理したな」と川口さん。続けて「顔を見ても、名前を聞いても思い出さんのに、時計を見ると思い出すんですよ」と照れくさそうに笑いました。

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#chapter3

技術の向上と伝承を模索する「愛媛時計職人の会」

 勇進堂のモットーは「どんな時計でも、どんなお客さまでも、親切・丁寧に対応する」。お店に来られない方のために出張修理を行っているほか、他店で断られた時計の修理も引き受けています。川口さん自身、「どんな修理依頼でも断りません」と断言。「最初からあきらめるのではなく、とにかく一度は預かって努力します。ただしコピー商品、いわゆる偽ブランドは一切取り扱いません」

 川口さんは2年前に「愛媛時計職人の会」を立ち上げました。それまで県内の時計職人の間では「修理技術は人に教えない」のが常識だったといいます。「他県には時計職人の会があり、頻繁に情報交換をしています。愛媛でも同じことができたらと思い、県内の時計店を一軒ずつ回り、職人さんに話を聞いてもらいました」。その努力が実り、会の規模は現在約20人まで拡大しています。「巷(ちまた)に情報があふれている今の時代は、技術や情報を隠すのではなく、オープンにして切磋琢磨(せっさたくま)し合う方がプラスになります。年配の職人さんは古い時計の知識が豊富で、逆に若い人は最近の時計を知っています。お互いが協力し合うことで、仕事の幅が広がるだけでなく、技術の伝承も図れます」

 常連客とのやり取りを見ていると、さしずめ“時計のかかりつけ医”を連想させる川口さん。思い出の品の傷みの原因を見極め、適切な処方を施すことで“思い出の寿命”が何年も先に延びていくのだと感じました。

(取材:2010年8月)

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時計工房 勇進堂

一番の大切な仕事は電池交換です。電池交換ぐらいどこでもいいやって思うのは危険です!電池交換は知識のある僕でも今でも緊張をもって交換しています。電池交換は勇進堂は命かけています。

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