財務と税務の違いとは？経営者が知っておくべき視点の違い

企業経営において、「財務」と「税務」はどちらも重要な役割を果たします。
しかし、多くの経営者がこの2つを混同しており、適切な判断ができていないケースが見受けられます。
特に、中小企業では税理士に決算書の作成を依頼していることが一般的ですが、必ずしも財務的な視点から分析がなされているとは限りません。

本記事では、財務と税務の違いを明確にし、それぞれの役割や経営に与える影響について解説します。

1. 財務は未来、税務は過去

財務と税務の最も大きな違いは、見ている時間軸です。

税務は過去

過去の損益を基に、税金を計算し、適正な納税を行うのが税務の役割です。
税務では、損益計算書（PL）を中心に、利益をどのように計算し、どのような税務対策を講じるかに重点を置きます。

財務は未来

一方、財務は企業の未来を見据えた資金管理や資金調達、リスク管理を行います。
キャッシュフローや貸借対照表（BS）を分析し、将来の資金繰りや投資の判断をサポートするのが財務の役割です。

この時間軸の違いを理解することが、財務と税務を正しく活用する第一歩となります。

2. 財務はキャッシュフローとBSに注目する

財務において最も重要なのはキャッシュフローです。
なぜなら、いくら利益が出ていても、手元に現金がなければ事業は立ち行かないからです。

財務の視点では、貸借対照表（BS）を詳細に分析し、キャッシュフローの流れを把握することが欠かせません。
これにより、以下のようなリスクを検証できます。

(1) 資金繰りの悪化リスク

売掛金の回収が遅れている場合、たとえ売上が好調でも手元資金が不足し、資金繰りが悪化する可能性があります。
これを見落とすと、黒字倒産という事態に陥ることもあります。

(2) 借入金の負担リスク

長期借入金と短期借入金のバランスが悪いと、資金繰りが不安定になります。
財務分析では、返済負担の適正化やリファイナンスの可能性を検討し、安定した財務体制を構築することが求められます。

(3) 在庫の過剰リスク

BSの流動資産を見ることで、過剰在庫や売れ残りのリスクを判断できます。
キャッシュフローに悪影響を与える可能性があるため、財務戦略の観点から在庫管理の改善が必要です。

3. 税務はPL（損益計算書）を基に納税対策を行う

税務の主な目的は、適正な納税を行うことです。
PLを中心に、売上、経費、利益を計算し、そこから法人税や消費税を算出します。

(1) 節税対策の視点

税務の視点では、利益を圧縮することで納税額を抑えることが可能です。例えば、以下のような対策が考えられます。

・設備投資を前倒しして減価償却費を増やす
・役員報酬を調整し、法人税と所得税のバランスを最適化する
・税制優遇措置を活用して法人税の負担を軽減する
しかし、過度な節税対策により、利益を抑えすぎると財務的な視点では悪影響を及ぼすこともあります。
例えば、利益が少ないと自己資本比率が低下し、銀行からの融資が受けにくくなる可能性があります。

(2) 事業承継や相続対策

税務では、事業承継や相続税対策も重要なテーマとなります。
後継者への株式移転や相続時の税負担軽減のためのスキーム構築が求められます。

4. 「決算書を作っている税理士がBSを分析できていない」ケース

多くの企業では、税理士に決算書の作成を依頼していますが、税理士は基本的に「税務」の専門家であり、「財務」の専門家ではありません。
そのため、以下のようなケースがよく見られます。

・PLの数字には詳しいが、BSの資産・負債のバランスにはあまり注目していない
・キャッシュフローの分析が不十分で、経営のリスクを見抜けない
・税金対策のために利益を抑えることを重視しすぎて、資金調達の観点が欠けている
これにより、企業は税務上の問題はクリアしているものの、財務的なリスクに気づかずに資金繰りが悪化するケースが発生します。

5. 経営者が取るべきアクション

財務と税務を適切に理解し、それぞれの視点を活かして経営判断を行うことが重要です。

・税理士だけでなく、財務の専門家にも相談する
　→ 財務のプロにキャッシュフロー分析や資金繰り改善を依頼することで、未来に向けた経営戦略を立てられます。

・決算書を「税務申告のための資料」ではなく「経営の道具」として活用する
　→ PLだけでなく、BSやキャッシュフロー計算書も定期的に確認し、企業の財務状況を把握しましょう。

・財務と税務のバランスを取る
　→ 節税対策を行いつつも、財務的な健全性を保つことが大切です。適正な利益を確保し、融資や投資に備えましょう。