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富士五湖唯一の造り酒屋が、富士山の伏流水で醸す日本酒「甲斐の開運」

富士五湖唯一の酒蔵で日本酒造りと酒文化を伝承するプロ

井出與五右衞門

井出與五右衞門 いでよごうえもん
井出與五右衞門 いでよごうえもん

#chapter1

約170年にわたる酒造りの技で、純米大吟醸や本醸造、生原酒などを展開

 「私どもは富士五湖かいわい唯一の酒蔵です。標高1100メートル付近からくみ上げる富士山の伏流水で醸す清酒は、やや辛口ですっきりとした味わいで、地元の方々を中心に古くからご用命いただいています」

 そう話すのは、富士河口湖町にある「井出醸造店」の21代目当主、井出與五右衞門さん。同店は江戸中期に醤油や味噌づくりを始め、16代当主が標高の高い冷涼な気候や霊峰に磨かれた清らかな水に着目し、江戸末期から清酒を製造するように。約170年にわたって受け継いできた技で、各日本酒品評会で受賞するなど業界からも高い評価を得ています。
 
 「『甲斐の開運』の銘柄で、純米大吟醸から本醸造、生原酒、スパークリング日本酒、日本酒仕立ての梅酒リキュールまで幅広く取りそろえています。富士の湧き水は、地下に存在する百層を超える自然の地下層のおかげで数十年かけてゆっくりとろ過され、不純物や菌類がきれいに取り除かれていきます。ミネラル分のバナジウムが豊富で鉄分が少なく、酵母の発酵を調整しやすいことから、味の変化がつけやすいのが大きな特長です」

 富士河口湖町が位置する富士北麓には、富士山から流れ出る河川が一本もなく、寒冷地であるがゆえに稲作には不向きな土地でした。同店では、山梨県内や全国から「酒造好適米」と呼ばれる酒造りに適したさまざまな原料米を仕入れています。
 「生産者の顔がわかるお米でお酒を造りたいという思いから、地元の農家さんと協力して酒米の栽培に着手しました。試行錯誤の末、2003年からは富士北麓産の米を使用した地酒が展開できるようになりました。富士の湧き水で育てた米を使い、同じ水で酒を醸す。物語がつながるようでうれしいですね」

#chapter2

醸造酒のプロが新たな試みとして蒸留酒のウイスキー作りに挑戦

 老舗の味を守りつつ、井出さんのもとでは新しい取り組みも始めています。
 「当方の商品を持って海外へ行くと、『なぜ人気のジャパニーズウイスキーを作らないのか』と言われることが多いんです。私自身も『日本酒造りのノウハウを生かして、ウイスキーを醸したらどうなるだろう』という好奇心がわき、醸造酒のプロである私たちが蒸留酒に挑むことを決めました」

 大学時代は農学部で発酵について研究。卒業後は国税庁の醸造試験所に2年半ほど勤めた経験もあり、日本酒以外にも酒造りの基礎知識がありました。

 「多少の知見があるとはいえ、実際に造ったことはありません。2020年、最初は私がA4の紙にびっしりと書いた工程をもとに製造をスタート。麦芽の破砕、糖化、発酵、蒸留、貯蔵のあらゆる作業条件を変えてトライアンドエラーを繰り返し、徐々に私たちの目指す香りに近づけています」

 ウイスキーの熟成には最低3年は必要と言われています。しかし、得意先からは「日本酒の蔵が作ったウイスキーを早く飲んでみたい」という声が絶えなかったそう。

 「芳醇(ほうじゅん)な風味をかなえるには、十分に寝かせる必要があります。ただ、あまりにお客さまから頼まれるので、樽に入れて1年たった頃に限定で提供しました。意外にも『荒々しくてハイボールには向いている』という感想もありました。2年後、3年後と変化の妙をお楽しみいただくアイテムとして、お客さまと一緒に育てていく、そんな商品があっても良いのではと思うようになりました」

井出與五右衞門 いでよごうえもん

#chapter3

外国人にも人気の酒蔵見学や「日本酒と食のマリアージュ」で、酒文化を伝承

 井出さんのもとでは、酒造りに興味を持ってもらおうと、蔵と蒸留所の見学を受け入れています。特に外国人観光客に人気で、欧米やアジアなどから毎日20~30人ほどが訪れるといいます。

 「消費者の皆さんとダイレクトにつながることで作り手の気概を知ってもらい、現場を見ることでお酒への理解を深めていいただきたいと考え、実施しています。蔵の中を巡りながら歴史や製造工程などを日本語と英語で解説し、20歳以上の方には5種類の試飲も用意しておりとても好評です」

 また近年、力を入れているのが「プレミアム見学会」。築200年ほどの家屋に参加者を招き、日本庭園を臨む座敷で、おつまみ6〜7種類と日本酒4種類に加え、梅酒またはウイスキーとの相性を体験できます。和の空間で、日本の食文化を味わう企画です。
 「説明を交えながら“日本酒と食のマリアージュ”を堪能していただけます。『鯛のお刺し身には大吟醸が合う』『豚の角煮には吟醸より純米酒だね』などと、ご自身の舌で食材との相性を感じていただけたら、お酒がもっと楽しくなり、生活も豊かになるのではないでしょうか」

 伝統にあぐらをかかず、新たな挑戦や日本酒の普及に励む井出さん。「おいしい商品をただ造って売るだけではなく、お酒で日々に彩りを加えたい。例えば、秋の満月を杯に映してお酒を飲むといった文化は昔からありますが、若い方には新鮮に感じるようです。社会が国際化する中で、『国酒』とも言える日本酒に息づく先人らの営みや精神、感性も広く伝えていきたいですね」と意気込みます。

(取材年月:2023年11月)

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井出與五右衞門

富士五湖唯一の酒蔵で日本酒造りと酒文化を伝承するプロ

井出與五右衞門プロ

日本酒製造・販売

井出醸造店

富士五湖唯一の酒蔵で江戸末期より日本酒を醸造。富士山の湧き水から生まれる清酒「甲斐の開運」は辛口のすっきりとした味わいが特徴。2020年からはウイスキー蒸留にも着手。蔵見学を通じ広く酒文化を伝えている

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