PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

伝統と進化の両立を大切に、瓦の美しさや文化を伝えていきたい

瓦葺き工事のプロ

釈永聡

釈永聡 しゃくながさとる
釈永聡 しゃくながさとる

#chapter1

高温多湿で積雪の多い富山の気候・風土に適した瓦を施工

 屋根を覆い、雨や雪、大風、熱さから建物を守る瓦。真っ黒の日本瓦が陽光を浴びて輝く様子は美しく、和の情緒いっぱいです。1,000度以上の高温でじっくりと焼成された瓦は耐火材。強い陽射し、重い雪はもちろん、酸性雨、台風などにもしっかりと耐えます。悠久のときを経てきた京都や奈良の趣のある古寺を見ると、瓦の良さが実感できます。

 「瓦は陽射しを受け止め、建物内部への熱を遮ります。瓦の下にある空気の層は、通気性を高め、結露を防止します。夏は涼しく、冬は暖かく、空気をコントロールしてくれます。瓦自体に吸湿性があり、屋根や天井裏を腐りにくくします。雨の音が伝わりにくくなるのも瓦のおかげ。高温多湿で積雪の多い富山の気候・風土に適しています。瓦は黒というイメージですが、それは北陸の一部と富山くらい。全国ではグレーや赤、茶などが普及しています」と、釈永聡さんは瓦の魅力を熱く語ります。

 新築住宅の場合、瓦葺きは上棟式が終わって直ぐの仕事です。40坪ほどの住宅には約2,000枚もの瓦が使われます。屋根に瓦がのることで上から重量がかかり、柱が安定していきます。瓦葺きの仕事が終わらないと、次の施工は進みません。それほど重要な工程です。

 「瓦は焼き物ですから、一枚一枚、形に微妙なクセがあって、組み合わせを間違えると隙間が多くなってしまいます。クセを見極める力が必要です。そして、機能面はもちろんですが、瓦は見た目の美しさも大切。一般の方が屋根を何気なく見ていても目に留まる、輝いて見える、美しいと感じてもらえる。そんな仕事を目指しています」

#chapter2

雨の流れを読み、正確に施工していく技

 釈永瓦工務店は立山町上末にあります。粘土質の土が採れ、「越中瀬戸焼」で知られる陶器づくりが400年以上前から行われてきましたが、明治以降、多くの窯元が瓦業に転業しました。瓦工務店は、釈永さんの祖父が昭和13年に創業し、大きなトンネル窯を使った瓦の製造と瓦工事を手がけていました。しかし、瓦を大量に製造するだけの良質な土を採り出すことが難しくなったことや、オイルショックによる燃料高騰などのため瓦の製造をやめ、瓦工事専業になりました。

 釈永さんは高校卒業と同時に2代目の父のもとで修業し、技を磨きました。瓦葺きの奥深さ、魅力に魅かれ、29歳で「厚生労働大臣認定 かわらぶき1級技能士」の資格を取得。34歳で父を亡くした後は独学で瓦葺きの道を追求。平成21年に瓦葺きの技術を競う全国技能グランプリに初の県代表として出場しました。その技術は高く評価され、後進の指導にも力を入れています。

 「瓦葺きの仕事の基本は、あたりまえのことですが雨漏りさせないこと。屋根をつたう雨の流れを読み、樋にスムーズに流せるように施工することです。屋根の形状や瓦の種類、素材、特徴をしっかりと把握し、臨機応変に現場で加工、切断できるようにしなければなりません。美しくて、頑丈、雨漏りさせない。この兼ね合いが難しく、職人としての腕の見せどころです」

釈永聡 しゃくながさとる

#chapter3

未来へと続く黒瓦の輝き

 釈永さんが一番愛しているのは富山伝統の黒瓦。近年印象的だったのが、この黒瓦に甍棟、雪割り冠を施した仕事です。どっしりと重厚感のある和の建築に美しい意匠が映えました。一方、住宅の洋風化に合わせてフラットの形状や、南欧、地中海などをイメージさせる斬新なカラーの瓦の需要に対応しています。また、防災意識が高まるなか、台風や地震でもめくれにくく、ずれ落ちにくい防災瓦の普及にも注力しています。釈永さんは顧客の要望を聞きながら提案していきます。

 「防災瓦には角に“ツメ”という出っ張りがあり、斜め方向にある瓦と瓦のツメがかみ合う設計です。時代の変化に合わせ、新しい施工法や新しい材料なども取り入れています。伝統技術を継承しながら、新しいことにどんどんチャレンジしていかなくてはいけないと思います。伝統と進化、その両立が大切。お客様に満足してもらえるように頑張っていきたいですね」

 釈永さんは、瓦葺きの作業風景や、各地で出会った瓦屋根、鬼瓦などを撮影し、自社HPやブログで発信。タブレット端末などで施工の説明をしたり、写真を見せられるようにしています。

 仕事柄天候の変化に常に気を付けているため、空や雲、太陽の光の一瞬の表情、自然の見せる美しさも写真に収めるようになりました。写真コンテストで受賞し、写真展を開くほどの腕前です。

 「屋根の最上部は、人がなかなか上がれず、見られないところ。だからこそ丁寧に仕事をしなければなりません。撮った写真をお客様に見ていただき、仕上がりを確認してもらいます。
私は、重厚な黒瓦が好きですね。黒瓦の需要が減るなか、新築住宅やリフォームにどうしたら黒瓦が似合うかを考えていきたい。また、瓦の文化や美しさ、魅力を多くの人に伝えていきたいと思っています」

(取材年月:2015年2月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

釈永聡

瓦葺き工事のプロ

釈永聡プロ

職人

釈永瓦工務店

瓦葺き職人歴約30年で培った技(かわらぶき1級技能士、瓦屋根診断技師他)、経験、知識を生かし、北陸・富山の気候、風土にあった瓦、和風から洋風までお家の特徴に合わせた住宅デザインを提案します。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ富山に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または北日本新聞社が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO