子孫に残すべきものは?
「楽して大金を稼げる」という謳い文句に釣られ、SNSから応募して犯罪行為に手を出す―「闇バイト」と呼ばれていますが、ありそうにもない話に簡単に騙される人間の姿は、古今変わることがありません。今回は、そんなウマい?話を真に受けてしまい、国を滅ぼしてしまった君主の故事を紹介します。
貪欲は身を滅ぼす始めなり
古代中国、後に中国を統一する秦は西端に位置し、蜀はその隣にありました。肥沃な土地に恵まれ、美女も多かったと言われています。四方を険しい山・大河に囲まれており、天然の要害でもあったため、軍を送り込む道もなく、強国の秦と雖も迂闊に手を出せなかったのです。時の君主が相当な貪欲で、内外に知られるほどであったことを除けば―
秦の策略―黄金の糞をする石牛
その貪欲さを突破口にする―秦の恵公は一計を案じます。国境付近に巨石を用意し、牛の姿を型取らせます。次に、この石牛の尻と、その真下に本物の黄金を貼り付け・散りばめて完成したのが、表題の「黄金の糞をする石牛」です。黄金の糞をする石の牛がある―工作員を動員して、そんな噂を蜀に流します。どう考えても、そんな金のなる木が存在するはずがないのですが、なんと蜀の君主は、この噂を信じてしまったのです。
墓穴を掘る蜀公
なんとかしてこの石牛を手に入れたい―欲に目が眩んだ人間の行動は極めて迅速なもので、巨大な石牛を運べるだけの大道を「自分で」造成してしまいます。力自慢の大男たちを集め、ついに悲願の石牛は蜀までやってきたのです―秦の大軍と共に。小国の蜀に太刀打ちできるはずもなく、あっという間に併合されて滅んでしまいました。
容易く財宝を手にできる―そんなウマい話は存在しない
今回の蜀公を笑い飛ばせる現代人がどれほどいるでしょうか。「黄金の糞をする石牛」は、形を変えてSNSに無数に存在しています。ウマい話を見聞きしたら、この石牛を思い浮かべるようにするのも、対策の一つになりましょう。私が「商・於の地方六百里」と名付けている故事も同類の話になりますが、機会があったら取り上げたいと思います。
インパクトは強い話だと思いますので、繰り返し学んでいただきたい故事の一つです。余談ですが、目先の利益に飛びつき、かえって大損することを「貪小失大(小を貪り大を失う)」と言いますが、この故事はその典型となります。