「正解」より「納得」を。書道で育む子どもの自己肯定感

河邊真

河邊真

テーマ:教育

「うちの子、字が汚くて…」「落ち着きがなくて集中できないんです」。保護者の方からこんな悩みをよく耳にします。しかし、書道は単なる「きれいな字を書く」お稽古事ではありません。東京都板橋区で18年にわたり子どもたちに書道を教えてきた私は、「正解」より「納得」を大切にする指導を通じて、子どもの自己肯定感を育むことを何より大切にしています。



正解ばかりを求める子どもたち


2008年に講師業を始めた当初、私が最も驚いたのは「失敗か成功か」にとらわれる子どもが多いことでした。一枚書いては「失敗しちゃった」と言い、また一枚書いては「これもダメだ」と諦める。学校教育の中で「正解」を求められ続けた結果、子どもたちは「先生からマルをもらうこと」が目標になってしまっているのです。

正解ばかりを求める風潮に、私は大きな疑問を感じました。「このままでいいのだろうか」と。

私が子どもたちに目指してほしいのは、ただマルをもらうことではありません。自分が納得できる字を書けるようになることです。ですから、レッスン中は「ここをもう少し太くするとカッコいいと思うけど、どうする?もう1枚書く?」と声を掛け、判断は本人に委ねるようにしています。

他者の評価ではなく、自分自身の納得を目指す。この姿勢こそが、子どもの自己肯定感を育む第一歩だと考えています。


「納得できる字」を目指す指導



アトリエわんぱくのレッスンでは、数枚書いて終わる人もいれば、たくさん書く人もいます。終わりを見極めるのは自分自身です。「これでOK」と納得できたら、自分で作ったハンコを押して仕上げます。

この「納得するところまで自分で決める」ことを、私は何より大切にしています。

自分で作ったハンコを押す瞬間は、子どもにとって大きな達成感があります。それは「先生に褒められたから終わり」ではなく、「自分が納得したから終わり」という主体的な判断の結果だからです。

また、私は「この線は力強くていいね」「次はもっとこうしてみよう」と、常に前向きな言葉でアドバイスするよう心がけています。

子どもが「失敗しちゃった」と言っても、私は決して失敗とは捉えません。「ここをこうするともっと良いよ」とアドバイスとして受け止めてもらうことを大事にしています。

失敗という概念を持ち込まず、すべてを学びの過程として捉える。この視点の転換が、子どもの挑戦する心を育てると信じています。

五感で感じる墨すり、自分のペースで学ぶ


アトリエわんぱくのレッスンは、墨をすることから始まります。

音に注目しながら手を動かし、徐々に増してくる香りや粘り、染まっていく墨の色を五感で感じて、まずは書く姿勢を整えます。そこから自分のペースで取り組み、ゴールを自分で決めることを大切にしています。

墨をする時の「ゴリゴリ」という音、徐々に広がる墨の香り、硯の上で変化していく粘り、だんだんと濃くなる墨の色。これらを五感で感じることで、子どもたちは自然と集中モードに入っていきます。

さらに、アトリエわんぱくの特徴として、学年ごとの課題を設けていません。自分で考えて選ぶ自主性を重んじ、その日に書きたい字を書いてもらいます。

1年生でも6年生の漢字を選ぶこともあれば、その逆もあります。インスピレーションで決めていいのです。選んだ字によって、その子に合う課題を見つけることに重点を置いています。





難しい漢字を選んだ場合は紙面に入れることを目標に、簡単な漢字を選んだ場合は線の勢いや筆遣いなど質にこだわる。その子が選んだ字を通して、その子に最適な学びを提供したいと考えています。

多様な子どもたちが安心して学べる場所



私自身の子どもも発達に特性があり、幼少期は不安を抱えていました。その経験が、現在の指導に活かされています。

多様なお子さんを迎え入れ、特性に寄り添いながら、それを強みとして伸ばすお手伝いができればと考えています。実際、私は都内の小中学校で特別支援教室専門員も務めており、多様な子どもたちの成長をサポートする機会に恵まれています。

教室では、一人一人が自分らしく過ごせるように、その日の心のコンディションを読み取り、優しく寄り添うことを心がけています。

体調や心の状態は日によって変わります。その日の状態に合わせて、無理なく取り組める環境を整える。これこそが、すべての子どもに開かれた学びの場だと思うのです。

書を通して自信とやりがいを見つける


書を通して自らを表現する喜びを知り、自信を育んだり、やりがいを見つけたり。心豊かな人生を送っていただくことが私の願いです。

先日は8年前に辞めた子が、「先生、また習字を教えて!」と来てくれました。思い立ってパッと足を運んでくれる場所になれていることが、本当にうれしいですね。

子どもたちが戻ってくるのは、アトリエわんぱくが「正解を求められる場所」ではなく、「自分を表現できる場所」「納得できるまで挑戦できる場所」だからだと思います。

まとめ


現代社会では、正解を求める教育が主流です。しかし、私が実践する「正解より納得」を大切にする書道教育は、子どもの自己肯定感を育みます。

五感で感じながら、自分で選び、自分のペースで取り組み、自分で納得して終わる。この一連のプロセスが、子どもに「自分で決める力」「最後までやり抜く力」「自分を認める力」を養うと信じています。

書道は、美しい字を書く技術だけでなく、人生を豊かに生きる力を育む教育なのです。




アトリエわんぱく
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年齢やレベルを問わず、書きたい字を自分で決める自由な書道教室。生徒の自主性を尊重し、特性にも寄り添いながら柔軟に指導。自分のペースで通える都度払い制も導入し、安心して自己表現できる場づくりを目指します

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