散骨はよくないことなのか~法律と環境汚染の観点から~
自然葬への注目と散骨の広がり
近年、少子化や核家族化の進行により、お墓を維持することが難しくなる家庭が増えています。地方にあるお墓を引き継ぐ人がいなかったり、都市部に移り住んだ子世代が遠方に暮らして管理できなかったりといった事情から、墓じまいを選んだり、従来のお墓にとらわれない供養のかたちに関心が集まっています。
その中でも注目を集めているのが、火葬後の遺灰を自然に還す「自然葬」です。代表的なのが「散骨」で、遺灰を自然へ返す方法として広がりを見せています。こうした流れを受け、地方自治体でも「散骨」をどのように位置づけ、どのように管理するかが課題となりつつあります。
三重県大台町がまとめた散骨場の許可制条例案とその狙い
三重県多気郡大台町では、「町散骨場の経営の許可等に関する条例(案)」がまとめられました。町内で散骨場を運営する際のトラブルを防ぐことを目的に、経営を許可制とする内容です。
条例案は、2025年9月8日から10月7日までパブリックコメント(意見募集)が行われ、寄せられた意見を踏まえて来年度の施行を予定しています。
条例案に盛り込まれた主な規定
- 散骨場から300メートル以内の住民や建物所有者、隣接土地の所有者に説明会を開き、同意を得る
- 町長と協議し、経営の許可を受ける
- 使用禁止を命じられた場合は原状回復を行う
- 違反があった場合は10万円以下の罰金を科す
町としては、散骨場が無秩序に作られて地域トラブルに発展することを防ぐため、事前に同意を得る仕組みを取り入れる狙いがあります。
三重県大台町で報じられた無許可散骨
全国でも散骨をめぐる議論や条例づくりが少しずつ進んでいます。北海道や静岡県熱海市などではすでに条例が設けられており、背景には散骨を希望する人が増える一方で、周辺住民や土地の所有者から反発の声が上がることもあるからです。
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実際に三重県大台町では、山中で無許可の散骨が行われたケースがありました。木の根元に置かれた容器から遺骨が露出していたり、木の幹に名前が書き込まれていたりと、地域の人々が不安を抱く状況だったといいます。「勝手に遺骨を置かれては困る」といった声も上がり、町議会で取り上げられる事態となりました。関係した宗教法人は「遺骨は埋めておらず、私有地での散骨にあたるため墓地ではない」と説明したと報じられています。こうした出来事が、町の制度づくりを後押しするきっかけのひとつになったとみられます。
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散骨については厚生労働省が【散骨に関するガイドライン】を公表しており、火葬した遺骨を粉末状に砕くことや、地域の宗教的感情や公衆衛生に十分配慮して行うことが求められています。明らかに人の遺骨だとわかるような大きさのまま散骨をすることは、刑法に触れる可能性があるため注意が必要です。事業者にとっても、ガイドラインや条例といったルールがあることで、安心して事業を進められるようになり、無許可で始めて住民の反発を受けるリスクを減らせます。
供養のかたちは多様化し、「墓じまいをして散骨を選ぶ」「自然に還りたいという想いを叶える」といった希望は今後さらに増えていくでしょう。その一方で、地域としてどう受け入れ、どう合意をつくっていくかは避けられない課題です。
散骨をめぐる地域の安心と理解
大台町が進める散骨場の許可制は、自然葬を望む人の思いと、地域の安心を両立させようとする取り組みです。散骨を考える人にとっては「許可された場所がある」という安心につながり、地域の人にとっても「事前に説明を受けられる」という納得感があります。
制度が整えば、散骨に対する不安や誤解が減り、もっと冷静に話し合える環境が生まれるでしょう。ただ、罰則や規制を設けるだけでなく、町や事業者が丁寧に情報を伝え、住民との理解を深めていく姿勢も欠かせません。
供養のかたちは変わっても、大切なのは「人を想う気持ち」です。大台町の取り組みは、その気持ちを守りながら地域との理解を深めていく試みであり、これから散骨をどう制度化するかを考えるときの参考になるかもしれません。



