墓じまいと墓石リサイクル~愛知県岡崎市で進む資源循環の取り組み~

村田光史

村田光史

テーマ:コラム一般

広がる墓じまいと残された墓石の問題


お盆やお彼岸に合わせてお墓を訪れる人が減少するなか、「墓じまい」を選ぶ家庭が増えています。少子化・核家族化により継承者が不在になったり、維持管理費の負担が重くなったりする事情が広がっています。さらに高齢化の進行に伴い、「掃除や管理が体力的に難しい」という声も増えてきました。

こうした背景から、お墓を片づけて新たな供養へと移行する動きが各地で進んでいます。実際、全国的にも墓じまい件数は右肩上がりで、供養のかたちが変化しつつあります。

その一方で課題となっているのが、片づけの後に残る「墓石」の扱いです。墓石は花崗岩などの非常に硬い石で作られ、百年以上の歴史を持つものもあります。従来は産業廃棄物として処分するのが一般的でしたが、費用負担が大きく、環境面への影響も問題視されています。

なかには、適切に処理されず放置されてしまうケースもあります。以前の記事でも触れたとおり、兵庫県南あわじ市では撤去された墓石が山林に大量放置される不法投棄が実際に起きました。費用の安さを優先した業者が処理を怠り、責任が曖昧になってしまったのです。処分費用や制度面の課題が影響しており、全国どこでも起こり得る問題といえます。

関連記事:【兵庫県南あわじ市の墓石不法投棄問題~墓じまいと処分費用に潜むリスク~】https://sea-forest-ceremony.com/blog/q-wb6f9bau


そこで、墓石を廃棄物ではなく資源として活用しようという新たな取り組みが始まっています。

愛知県岡崎市で進む墓石リサイクルの取り組み


愛知県岡崎市では、石材店を営む矢田敏起さんが2023年から「愛知県石材リサイクルセンター」を立ち上げ、墓じまいで発生した墓石の「再利用」を進めています。

矢田さんによれば、持ち込まれるのは僧侶の読経を受け役目を終えた墓石で、「ただ捨てるのではなく、新たな資源として生かすことが大切」と考えているとのことです。

リサイクルの流れはシンプルです。撤去した墓石を重機で粗砕し、その後破砕機でさらに細かくして、2~4センチほどの砕石へ加工します。この砕石は道路工事などで路盤材・基礎材として活用。墓石は非常に硬く角が立ちやすいため、タイヤを傷つけないよう舗装表面ではなく下地に用いる工夫がされています。庭石や灯籠など、墓石以外の天然石にも対応できる点も特徴です。

費用は1トンあたり9,900円。一般的な墓石は1基で1~2トン程度のため、処分費は概ね1~2万円となります。岡崎市の同センターでは、2023年7月から翌年6月までに4,600トンの石材をリサイクルした実績があるといいます。

「お墓を守り切れない人が社会的に増えている。お墓は片づけを前提につくられていないから、壊れにくく片づけにくい。同業者や所有者も困っている。役目を終えた墓石をリサイクルできる世の中にしていかないと、墓石をつくる仕事自体が続けられなくなる」と、矢田さんは語っていました。

墓石リサイクルによるメリット


この取り組みには大きな意義があります。

まず環境面の改善です。これまで廃棄物として埋立地を圧迫してきた墓石を再資源化できれば、資源循環の促進につながります。

次に地域経済への効果です。道路や公共工事の資材を地元で調達できるようになり、コスト削減や安定供給に寄与します。

さらに遺族の心理的な支えにもなります。矢田さん自身が「大切につくってきた墓石を砕くのは本当はしたくない仕事だが、誰かが担わなければならない」と語るように、「処分」ではなく「社会の役に立つ資材へ生まれ変わる」と知ることで、心の負担が軽くなるのです。

ただし、墓石には家名や戒名が刻まれているため、リサイクル前にお墓としての意味合いや個人情報を確実に除去する加工が必要です。加えて運搬コストや処分費の課題もあり、全国に広げるには仕組みづくりが求められます。

墓じまいと墓石リサイクルがつくるこれからの供養


岡崎市の取り組みは、増え続ける「墓じまい」への新たな解決策として注目されています。墓石を廃棄せず、社会インフラを支える資材として循環させる仕組みは、環境にやさしいだけでなく地域経済にも有益で、遺族の安心にもつながります。

矢田さんは「お墓を持つことに躊躇する人も減って、循環していく世の中になればいい」と話していました。まさにその言葉どおり、この取り組みは今後の供養のあり方を考える上で示唆的です。各地域に広がっていけば、終活や供養はより前向きで続けやすいものになっていくでしょう。

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村田光史
専門家

村田光史(散骨代行)

合同会社KOKESHI Arts 海外リゾート散骨 海と森のセレモニー

希望する外国への散骨が可能か調査し、骨の粉砕や法的手続きを代行。葬儀は動画に収め、散骨証明書と共に遺族へ送付する。シニアライフパートナーの資格を持ち、墓じまいなどシニアとその家族の悩みにも幅広く対応。

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