田村淳さん海洋散骨体験を語る~墓じまい後の供養~
広がる散骨という選択肢
耳にした日常の会話から
先日、電車の中で何気なく耳に入った会話がありました。
「親が新しくお墓を建てたんだけど、自分がそこに入るのはちょっと抵抗があるんだよね。自分は負担をかけたくないから散骨希望かな。それに妻も、たぶん私や私の家族と一緒のお墓に入りたいとは思ってない気がする」
「わかる、私も家族と同じお墓は嫌かも。将来は散骨がいいなって思ってる」
そんな何気ない会話から、散骨という供養のかたちが、日常的な選択肢として浸透しつつあることを感じました。
ここ数年で関心が高まっている散骨。
なぜ今、散骨を選ぶ人が増えているのでしょうか。
散骨を選ぶ理由とは
実際に寄せられる散骨のご相談には、さまざまな背景や想いがあります。以下に代表的な理由を紹介します。
自然に還りたいという願い
生前から海や森が好きだったという理由で、死後も自然の一部として眠りたいと希望される方が多くいらっしゃいます。
海は世界中の海とつながっているから
風や波に身をゆだね、広大な自然の中に溶け込める感覚があるから
木々に包まれた森の中、天空を覆う樹冠の下で静かに眠りたいから
そんな声が多く届いています。
世界中の海を旅するサーファーの知人も「絶対に海に散骨してくれ」と言っていました。
戦地への想いを込めて
第二次世界大戦で戦った地、たとえばフィリピンやハワイのミッドウェー島、ガダルカナル島などに、自らの遺骨を還したいという方もいます。
戦友が眠る場所に自分も還りたい。
帰ることのできなかった愛する人がいた場所に自分も還ることで、再びつながりたい。
そうした想いは、深く胸を打ちます。
墓じまいの選択
震災などの自然災害によって、墓石が壊れ、骨壺だけが辛うじて見つかる――そんな経験を通して、墓じまいを決意する人もいます。
またお墓は建てたら終わりではなく、維持管理費や修繕費が継続して必要です。
お寺や霊園によってその負担は異なりますが、いずれにせよ家族や子どもへの負担が心配だという声は少なくありません。
形に残らない供養として散骨を選ぶことで、そうした不安から解放されたいという希望もあります。
ちなみに「最近散骨って流行ってるんですよね?私もやってみたいんです」といった気軽なメールをいただくこともあり、関心の広がりを感じています。
女性たちの選択としての散骨
散骨を希望する女性からは、「夫や義実家と同じお墓に入りたくない」という切実な声が多く届いています。
実際に、散骨を希望される方の中で女性の割合は高い傾向にあります。
以前、既婚の友人が「死んでからも夫と一緒なんて絶対無理。お墓は分ける」と言っていたのを思い出しました。
夫婦といっても、円満であるとは限らないのが現実です。
井上治代さんの著書『墓をめぐる家族論-誰と入るか、誰が守るか』では、こうした事例を「死後離婚」と表現しています。
生前は良い関係でも、義父母との関係に苦しみ、死後も同じ墓に入ることに抵抗を感じる人も少なくありません。
結婚して戸籍を新しく作ったにもかかわらず、死後には再び「家」の枠組みに戻され、縁の薄い親族と同じ墓に入ることを求められる。
そんな社会的構造に違和感を覚えるのも、当然のことかもしれません。
時代とともに、家制度は徐々に形骸化しています。
“嫁だから”という理由だけで夫の家のお墓に入るという考えも、変化しつつあります。
せめて死後くらいは、しがらみのない場所で静かに眠りたい――
それはごく自然な感情なのではないでしょうか。
自分らしいエンディングのために
散骨を希望する理由は人それぞれです。
「こんな理由でいいのかな」と迷いながら相談される方もいます。
けれど、大切なのは「自分にとって納得のいく供養を選ぶこと」。
誰のためでもない、自分のための選択であるべきです。
一人ひとりに違う人生があるように、最期の迎え方も十人十色であるべきだと思います。
自分の最期をどう迎えるか、考えることは「今をどう生きるか」にもつながっていくのです。
自分らしいエンディングを迎えるために。
少しずつ、準備を始めてみてはいかがでしょうか。



