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買い物は投票──たった1円で世界は変わる!

消費者の権利と責任を社会に確立する消費生活のアドバイザー

池見浩

池見浩 いけみひろし
池見浩 いけみひろし

#chapter1

消費者はもう守られるだけの立場ではない

いまだ続出する悪質商法や製品事故などの被害。成人年齢の引き下げや、訪問販売の契約書電子化の見込みなどで、今後は問題のさらなる複雑化が懸念されます。一方で、事業者側もコンプライアンス(法令や社会規範の順守)が徹底されず、ネットで「炎上」につながるケースも少なくありません。

モノやサービスを誰かが売り、誰かが買う。そこで生じるトラブルに対面し、ゆがみを整えるのが「消費者考動研究所」代表・池見浩さんの仕事です。一言で表すなら「消費社会の架け橋役」。消費生活アドバイザーとして、企業や消費者、行政などすべてのステークホルダー(利害関係者)が幸せになるよう、中立的な立場でのコンサルティングを心がけます。

対応業務はさまざまです。小・中学校、高校、大学などで消費者教育を行ったり、消費者にわかりやすい帳簿や広告などについて企業に助言・監修をしたり。消費者トラブルを防ぐ講座・研修や、記事執筆からメディアでの情報発信まで。衣食住、法律から、環境、消費者志向経営、SDGsなど豊富な知識を生かし、消費社会のトラブルシューター(課題解決などを目指す人)として活動しています。

消費者問題の考え方を示す消費者保護基本法が2004年に改正されて以降、消費者の立場は一変したと池見さんは言います。

「1968年に同法が制定されたころは『消費者とは弱く守るべきもの』というスタンスでした。しかし、消費者基本法へと改正され、消費者の権利の尊重と自立支援が明記され、消費者も自ら消費生活に関する知識を学び、行動する努力をしなければいけない時代へシフトしました」

#chapter2

転機となった消費者からの一本の電話

消費者一人ひとりが「1円の力」を自覚してほしいと池見さん。「たかが1円、されど1円。1円の使い方次第では、南極の氷失うことも、世の中の貧困をなくすこともできます」。自分さえ快適になればいいという発想をやめ、わずかな消費行動が世界に与える影響力を考える。買い物を企業への「投票」と考える─。「意識高いね」が皮肉な言葉でなくなる社会をつくるために、尽力したいと話します。

事業者側にも警鐘を鳴らします。「リコール問題など、保身を第一に動けば、結果として消費者から『1円』が支払われない企業になります。消費者に、問題をいち早くありのまま説明すること。それが持続可能の道につながるはずです」

過去、大手インテリア専門商社に勤務し、そこでの「事件」がいまの道へ進むきっかけに。当時、顧客対応を担当していた池見さんに入った一本の電話は、シックハウス症候群と診断された一人の顧客からのものでした。

「あんたらは私を殺す気か」

その人物の自宅には、池見さんが勤めるインテリア会社の壁紙や敷物が使われていましたが、国の定めた基準値をクリアしているため、問題ないと回答。しかし池見さんは、消費者からの悲痛な一言に大きなショックを受けたといいます。

池見浩 いけみひろし

#chapter3

モットーは「勝者」でなはく「幸せ」

確かに基準値はクリアしているが、使い手の身体的被害や不安が多発し、解消されないというのは違うんじゃないのか。企業と消費者の問題意識の差がいつまでも心に残り、次第に「消費社会の架け橋」となるため舵を切ります。それからは、法テラスの情報提供職や消費者センターの消費生活啓発専門員、自治体の専門委員などとして活動。かけがえのない経験もありました。

それは、池見さんがある母親から相談を受けたときのこと。「うちの大学生の息子が先輩から誘われてヘンな投資をしているらしい」。母親に「息子さんはどう考えているのか」を尋ねると、答えは要領を得ないものでした。なぜなら、親子間でコミュニケーションがうまくいっていなかったからです。

最終的にはお金を全額取り戻し、解決できました。その過程で、池見さんは息子から事情を聞く際に、母親も同席してもらいました。勉強し、経験を積み重ねいずれは起業したいと吐露する息子の言葉に、母親は「そんなことを考えていたのか。初めて知った」。後日、池見さんのもとに届いた母親からの手紙には「今回のことをきっかけに家族で話し合う時間が増えた」と書かれていました。

かつては自身がデート商法やなどの被害に遭ったことも。当時は対処法もわからず泣き寝入りした経験も、いまの原動力になっていると苦笑します。モットーは、どちらも勝つ意味の「ウィン・ウィン」ではなく「ハッピー・ハッピー」。「両者が勝つ」といえど勝者がいれば、どこかにきっと敗者もいるはず。幸せな消費社会を築くのに勝ち負けはない。だから「事業者も消費者もきちんとした知識を身につけ、みんなを幸せにしていきたい。私の願いです」と池見さん。

広い知識を駆使して消費者の選択を正しく導くため、これからも精進していきたいと前を向きます。

(取材年月:2021年2月)

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池見浩

消費者の権利と責任を社会に確立する消費生活のアドバイザー

池見浩プロ

消費生活アドバイザー

消費者考動研究所

衣食住から法律、BtoCビジネスのコンプライアンス、消費者志向経営、エシカル消費、SDGsまで、幅広い専門知識で消費生活全般のトラブルに中立的に対応。教育現場や企業研修、メディアなどでの情報発信も行う

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