DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
経済産業省が日本企業の衰退を危惧していることから、製造業のDX推進が話題となっています。しかし、DXを導入するにあたって「なぜ製造業にDXが必要なのか」「DX推進のやり方がわからない」など、さまざまな疑問点があるはずです。
そのため本投稿では、製造業にDXが必要とされる理由、製造業のDX推進事例を解説します。取り入れる方法を理解して企業のDX化を進めていきましょう。
製造業にDXが必要とされる3つの理由
製造業にDXが必要である理由を知りたい方もいるでしょう。本項では必要とされる理由を3つ解説します。ご自身の状況に当てはめて考えてみましょう。
生産性の向上
製造業にデジタル技術やITシステムを導入すれば、生産性の向上が見込めます。例えば、業務の自動化、リードタイムの短縮、生産個数の増加などがあげられます。また作業の削減や従業員の負荷軽減により、少ない従業員でも円滑に業務を回すことができるはずです。
提供価値の向上
DXを推進すれば顧客に対する提供価値を高めることができます。製品の品質を高めるだけでなく、顧客へのサービスの向上も期待できます。また、DXがもたらす影響は下記のとおりです。
- 顧客一人ひとりに最適化した価値提供
- アフターサービスの充実
- 製品が完成するまでの時間短縮
- 製品・サービスの性能向上
- 新しい製品の実現
顧客のニーズは日々変化しています。ニーズの変化に対応するためにはDXの導入が必要不可欠です。DXを取り入れてニーズを的確に把握できれば、結果として顧客満足度が高まり、さらなる企業成長につなげられるでしょう。
人手不足の解消
製造業が抱える悩みの1つである従業員の人手不足。DXによる作業の自動化を実現できればこの人手不足が解消されます。さらに、プラットフォームの構築や外部への情報発信を行えば、露出する機会が増えて優秀な人材が集まりやすくなるはずです。
また、DXは人材育成にも役立ちます。熟練技能者の動きをカメラで撮影し、AIによる高度な分析をすることで、ほか従業員が技術や知識を取り入れやすくなります。そのデータをマニュアル化することで、全拠点の人材を効率良く育成することもできるでしょう。
製造業のDX推進事例3つを紹介
DXの必要性については理解できたでしょうか?続いて、製造業のDX推進事例を紹介します。それぞれの強みや特性を理解し、ご自身の事業に落とし込みましょう。
トヨタ自動車
日本を代表する大手自動車メーカーのトヨタ自動車。もともとトヨタ自動車は開発や製造にデジタル技術を活用し、率先して企業のDX化を図っていました。しかし、思った以上に海外企業のDX化が進んでいたため、危機感と焦りを覚えながらもトヨタ自動車はDX化をさらに加速させました。
その結果、トヨタ自動車は「工場IoT」と呼ばれるデジタル技術を構築し、DX化を大きく前進させました。このデジタル技術は、各工場の機器をネットワークで連携させ、情報を明確化して設備の稼働状況を把握・管理するというものです。収集したデータを活かすことで、生産性を大きく向上させることができます。またトヨタ自動車は、「工場IoT」を用いた下記の目標を掲げています。
- 現有資産の最大有効活用
- 拾い切れていない現場の困りごとをAIで解決
- FA機器類からのデータ授受
- セキュリティ対策
- IE化されていない設備の標準化
トヨタ自動車は自動車業界の変革に伴い、マーケティングや販売系の強化だけでなく、デジタル技術を用いた市場、工場、開発などあらゆる基盤強化の課題を示しており、今後さらなるDX推進が期待されています。
三菱電機
創立100周年を迎えた大手総合電機メーカーの1つである三菱電機は、IoT化によるビッグデータを活かした「e-F@ctory」を開発しました。三菱電機が培ってきたFA技術とIT技術を最大限に活用したもので、あらゆる機器や設備をネットワークにつなげてコスト削減や品質向上、生産性の向上を実現しました。
「e-F@ctory」の機器やサービスの改良を重ねた結果、自社工場を始めとして総合的にサービス展開を行っています。さらに今後の方針として、AI技術の活用やデジタルツイン構築との連携の強化を掲げるなど、DXに取り組み続けるとされています。
ダイキン工業
ダイキン工業は空調機や化学製品を扱うグローバル企業です。ダイキン工業は「工場IoTプラットフォーム」と呼ばれるデータ管理基盤システムを構築しました。
ダイキン工業が海外進出する際に課題となったのが、生産管理手法と整備展開にかかる時間でした。そこで「工場IoTプラットフォーム」を活用することにより、工場内のすべての設備をネットワークで接続して製造データを収集し、日本と海外のデータ共有やプラットフォーム上でのアプリケーション開発を可能にしたのです。当時課題にしていた問題点を解決し、「工場IoTプラットフォーム」は下記を実現しました。
- 製造現場データの発掘
- データの収集と統合
- データの見える化と分析
- 顧客への価値提供
すべての工場の稼働状況を把握・管理して「止まらない工場」を実現する、それがダイキン工業の目指す姿とされます。
製造業のDX化を進める方法
ここまで、製造業のDX推進事例を解説しました。次にその成功事例を踏まえて、製造業のDX化を進める方法をお話します。製造業にDXを取り入れる方はぜひ参考にしてみてください。
経営戦略・ビジョンの提示
製造業のDX化を進めるにあたっては、経営戦略とビジョンを提示しましょう。明確な目標を掲げることにより、経営陣だけでなく従業員が高いモチベーションを維持できます。また、社内環境が大きく乱れたとしても、ビジョンがあれば会社一丸となって解決できるでしょう。そのため、経営陣は強いリーダーシップを持って明確なビジョンを示しましょう。
経営陣が率先してDXを推進することが成功への鍵となるため、部下に「AIやIoTを進めておいて」など、製造業のDXを押しつけないよう注意しましょう。
業務体制の整備
DXを実現するための業務体制を整備する必要があります。社内に新しいデジタル技術を取り入れるとなれば、当然いままで以上に複雑な業務をすることになるでしょう。整備せずに進行してしまうと業務のブラックボックス化につながり、DXを導入したのにもかかわらずかえって効率が悪くなります。社内のDX化をスムーズに進めるためにも、まずは業務体制を整えましょう。
また、デジタル技術やITシステムを取り入れるために、従業員の人材教育にも注力すべきです。既存の従業員だけでは難しい場合、外部から優秀な人材を確保するのも1つの手です。可能であればDX推進部門を設立して、円滑にDX化を進めていきましょう。
ITシステムの構築
業務体制を整備できたらITシステムの構築を行います。とはいえ、一気に新規ITシステムを現場に導入してしまうとトラブルの原因になりかねません。状況に合わせて柔軟に構築していくことが大切です。
また既存システムをしっかり見直してから、新規ITシステムを導入するほうが良いとされます。整理できていない状態でシステムを追加してしまうと、システムがより複雑化して取り返しがつかなくなります。そのため現場と十分に話し合ってから、少しずつ新規ITシステムを導入しましょう。
ITシステムのガバナンス
ITシステムの構築が終わり次第、ITシステムのガバナンスを進めていきましょう。ガバナンスとは、経営方針に沿って行われる管理や統制のことで、経営観点からの投資や運営、リスク管理などを行います。社内のITシステムを慎重に取り進めておけば、思わぬトラブルの際にも柔軟に対応できます。
なお、ITシステムのガバナンスでよくある失敗例として、付き合いの長いベンダーにシステムを任せっきりにしてしまうことがあげられます。ただでさえ複雑なITシステムを外部に丸投げすると、さらなる複雑化につながりITシステムがブラックボックス化します。できるだけITシステムのガバナンスは自社で取り組みましょう。
製品・サービスの変革
企業のDXは、ITシステムやデジタル技術を導入しただけでは終わりません。DX化の基盤が構築されたら、製品やサービスに反映していきましょう。
製品やサービスにDXを導入するとなると、組織構造やプロセス、運用方法などを根本から見直す必要があります。決して容易ではありませんが、実現できれば顧客からの高い満足度が期待できます。円滑に変革を進めるためにも会社一丸となって取り組み、製品とサービスの最適化を目指しましょう。
製造業におけるDXのトレンド
製造業のDX化を進める方法は理解できたでしょうか?最後に、製造業におけるDXのトレンドを解説します。これからDXを推進する方はぜひ検討してみてください。
サービスの提供
製造業にDXを取り入れることで製品を提供するだけでなく、その先にあるサービス提供も実現できます。ほか企業と差別化が図れると同時に高い利便性につながるため、顧客の満足度を向上させられるでしょう。
製品からサービス提供につなげた代表例は、小松製作所が開発した稼働管理システム「KOMTRAX」です。建設機械にIoTを取りつけることにより、離れた場所から機械情報が遠隔で確認できます。機械の稼働情報などを集めて、顧客の稼働管理やメンテナンス管理を行えることが利点です。
プラットフォーム
製造業のDX化を進めている企業はプラットフォームを構築しています。新しいデジタル技術を用いて、受注者や発注者、業務関係者に対して高い利便性を生み出します。
プラットフォームを導入した例として、富士通の「FTCP(設計開発プラットフォーム)」があげられます。このプラットフォームは、3Dデータを使用することでデザインや干渉具合を検証できる技術を用いており、製品開発におけるノウハウの共通やリアルタイムでのやり取りが可能です。富士通はプラットフォームの開発により、製造業界に大きな変革を引き起こしました。
まとめ
ここまで、製造業のDX推進事例とトレンドを紹介しました。
経済産業省が推奨している企業のDX。多くの製造業がこのDXに取り組んでおり、生産性の向上や新しい価値提供を実現しています。製造業のDX推進事例としては、トヨタ自動車、三菱電機、ダイキン工業などがあげられます。大手製造企業が行うDXの本質を理解するためにも、ぜひ本投稿を参考にしてみてください。