システム発注者が後悔しない要件定義のための準備とは?
今回は「システム企画書を作る」というテーマの第2弾です!
前回、「システム企画書を作る」というテーマでシステム企画書の概要について投稿しました。
本投稿はその続きとして、架空のシステム開発を例にして前投稿の内容を具体的に説明します。
- システム企画書を作成したいけれども、ネットや書籍を見ても具体的なイメージがわかない
- システムの企画について、さらなる理解を深めたい
そんな方がこの投稿をご覧頂きますと
- システム企画書に書くべきこと
がご理解頂けますので最後までご覧ください!
このテーマは2回に分けて投稿します。第2回目となる今回は、架空のシステム開発を例にして前回の内容を具体的に説明します。
→第1回目はこちら「【システム企画書を作る Part1】」
このコラムの内容は動画で公開しています。
Youtube版「No.3【システム企画書を作る Part2】」Youtube版はこちらをご覧ください。
前提
繰り返しますが、今回の説明は架空の企業、システムの説明です。
実在の人物や団体とは一切関係ありませんので、予めご理解をお願いします。
なお、このシステム企画書についてはダウンロードできるようにしておきますので、必要に応じてご活用頂ければと思います。
株式会社HM
・ショッピングセンター「エイチエム」の運営
・全国30店舗
・ショッピングセンター内のフードコートが有名
※HMはファストファッションブランドとは関係ありません。私が好きなHeavyMetalから拝借しました。
ここの会社は、株式会社HMというショッピングセンターを運営している企業です。
全国に30か所のショッピングセンターを運営しており、フードコートに軒を連ねるお店は、どこも外れがない点が特に有名であり、それを目的として来店されるお客様も多いという特徴があります。
このショッピングセンターのフードコートは競合他社との差別化要因にもなっており、経営層としても、フードコートを中心として、ショッピングセンター全体の売上向上を実現したいと考えているものです。
そんな企業で、今回マーケティング部門に課せられたのが、3年以内に、顧客満足度を10%向上させるという大きな目標でした。余程現在の満足度が低いのでなければ、なかなか難しそうな課題ですが、それに担当者は知恵を絞っている。という前提で説明を進めます。
ここからは資料をご覧になりながらお読み頂けます。
(別資料:システム企画書(例))
1.システム開発の背景と目的
背景
新型コロナが5類に移行され、 ”人が集まるところ ”の賑わいは顕著に増加してきた。
ショッピングセンターも例外ではなく、国内のみならずインバウンド客の来館が増え、当センター全体においても売上高は、前年比20%増となった。
これからは外出も活発化し、日帰り旅行など観光業界さえも間接的な競合になってくることが予想され る。この環境下において、お客様の満足度を向上させ、リピート率・売り上げ単価を向上させる具体的施策が求められている。
目的
当社、中期計画「 VISION2025」の目標のひとつに、顧客満足度10ポイントアップが掲げられている。当部門においては、従来からの課題を解決し3年以内にこれを達成することが求められている。いくつかの案があるが、第一弾として、積年の課題であるフードコートの座席問題を解消し、顧客満足度向上を実現する。
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
ここはこれからの開発の道しるべにもなる重要なものです。
この企業では、新型コロナがおさまりを見せ、人々が昔のように外出するようになってきて、実際に売上にも反映してきている。
この機会を逃すことなく、満足度向上によって、リピート率、売上単価を向上させたいという背景があるとのことです。
通販サイトなど直接的に利益を生み出すものであれば、それは、どれくらいの収益貢献を期待できるのかという話しに続くのですが、この例においては、「顧客満足度の向上」を、目的としています。
もちろん、満足度が向上することにより、リピート率・来店数が増えることにつながり、収益への貢献は期待できますが、最終的に本件がどれだけ寄与したかを計測するのは難しいかもしれません。それでもこの企画を進めるかどうかの判断は経営者の考え次第でしょう。
さて、ここで頭に入れておくべきキーワードが潜んでいましたが、何か気が付きましたか?
それは「インバウンド客」です。
なぜ、頭に入れておかなければならないのかは考えてみてください。
2.課題
■フードコートの ”座席”に対する満足度が常に低く、改善が求められている
・2022年に実施したフードコートの店舗刷新により、味に対する満足度は15ポイント向上し、フードコート目当てのお客様も2割増となった。一方で、お昼の時間帯の混雑も増し、座席探しのため多くのお客様が歩き回っている状況である。
・後からフードコートへ入った人であっても先に席を確保してしまうことが多々あり、先に入った人たちが不公平感を強く抱いている。
・着席後であっても、追い立てられている感じがあり、ゆっくりと食事を楽しんで頂いていない。
・小さなお子様連れ層の不満は 9割以上と突出している
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
この説明は、専門的な業務についてではないため、イメージを共感しやすい内容だと思いますので特別な解説は不要でしょう。
あえて補足するなら、顕在化している課題はもちろんながら、何かしら潜在的な課題もないか検討をして欲しいという点です。
例えば、お子様連れをターゲットにするならば、ベビーカーを置くスペースや、子供用の補助椅子。そして、小さなお子様だと大人以上に机・椅子・トイレの衛生面などに気を付けなければならないなど、重要な点が隠れていないかということです。
余談ですが、問題と課題の違いは意識されたことがありますか?
「問題」は、目標と現状のギャップ。
「課題」は、目標と現状とのギャップを埋めるために、やるべきこと。
厳密にいうと、このように明確に使い分けをしなければいけないのですが、リアルでは混同されていることも少なくないので、今回はあえて良くある表現の方を採用しました。
やるべきこと、に相当するものは次章の「解決策と導入効果」で触れています。
3.解決策と導入効果
(解決策)
・フードコートの座席の順番待ちを可能にする
‣実証実験として横浜店の3割の座席を子連れ専用予約席とし、アプリで予約可能にする。
‣座席の利用時間は最大40分とし、待ちの予測時間のブレを抑制する。
‣いたずら防止の意味も含め、ショッピングセンター内で登録可能な仕組みとする。
・順番待ち登録された方にクーポン券を発行する
‣座席待ち時間が10分以上になる場合、当日限定のショップクーポンを発行し、待ち時間もお買い物を楽しんで頂く。
(期待する効果)
‣いつ席が空くか分からない無用なストレスを軽減し、従来なら、何も生み出すことができない(むしろ不満を蓄積させていた)時間を売上増への貢献へと変化させることが期待できる。
‣アプリの利用者からはお子さんの情報を入手し、テナントへのマーケティング情報に活用したい。
‣利用者アンケートのフードコート部門について、満足度5.9を8以上にしたい。
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
解決策に実証実験であるということを書いています。裏を返せば、その後、全店へ展開していくという布石にもなります。
もし、これが書かれていないと、開発側は最初から全店・全席と考え、それに見合ったサーバなどの提案をしてくることでしょう。
しかし、実証実験という言葉が書かれていることによって、全店舗への展開を意識した設計、拡張性の高いサーバ構成などを提案してくれるはずです。
4.機能一覧
No 機能名 機能概要 1 会員登録 ユーザ アプリの利用者登録。名前はニックネーム可、住所は任意だが、お子さんの情報は必須とする。 2 パスワード再設定 ユーザ パスワードの再設定ができる。 3 座席順番待ち登録 ユーザ 座席の順番待ちを登録する 4 クーポン ユーザ クーポンの表示と利用ができる。 5 会員管理 管理者 会員の検索・照会、情報編集ができる。 6 座席待ち状況管理 管理者 座席の待ち状況をリアルタイムで把握できる。 7 お呼び出し 管理者 予定空き時刻のN分前にプッシュ通知を自動送信する。N分前は管理者が随時変更できる。 8 基本情報管理 管理者 順番待ち可能な座席数の変更。順番待ちを登録する 9 クーポン管理 管理者 発行するクーポンの内容、画像等を管理する。
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
9つの機能が挙げられています。
機能一覧は、システム開発に不慣れならピンと来ないところもあるかもしれません。
その場合は、開発ベンダーに対して、「課題の解決策のために必要な機能を提案してください
」と依頼するのもひとつの手ではあります。
5.プロジェクト実施体制
本システムの開発はマーケティング部主体とし、システム部は助言を頂くため参画する。
プロジェクトマネージャー
マーケティング部長
鈴木一郎
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運用担当 プロジェクトリーダー アドバイザー
フードコート統括部 マーケティング部 システム部
(未定) 大谷良平 山本元信
・マーケティング部員
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
システム部門がある場合、システム開発の窓口になるケースが多いですが、
この例だと、システム部は開発の窓口ではなくアドバイザーの立ち位置になっています。
システム部があるからと言って、必ず開発ベンダーの窓口になるかというと、開発規模や内容によってはそうでない場合も少なくありません。
いずれにせよ、前投稿にもある通り、ここに名前が挙がっている関係者には、責任を持って参加してもらいますという宣言をし、決裁者に承認をしてもらう必要があるのです。
6.スケジュール
2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 開発委託先候補選定 → 開発委託先決定 → → 開発予算決定 → 契約締結 ▲ 要件定義 → 設計 → → 開発・テスト → → → 受入テスト → リリース ※1 ▲ ※1:横浜店を皮切りに、全店への拡大を予定。(本スケジュールは仮であり、開発委託先と調整のうえ最終決定する。)
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
スケジュールは、システムの開発規模や内容によって変わるものですので、おおよそ一般的に考えらえる作業工程にざっくりと線を引いたものです。
この企画書を作る時点で、システム部や開発パートナーと下打ち合わせを済ませており、おおよそこれくらいだという根拠があれば、このくらいは書けますが、ないようなら企画段階では、
2〜3月:開発委託先選定・決定
3月:開発予算確定
4〜10月:開発
11月:リリース
※スケジュールは別途見直す。
くらいでも十分です。
7.予算
・初期予算:3,000万
・月額予算:60万
※何れも人件費除く
資料をダウンロードしてご覧ください。(資料はこちら「システム企画書(例)」)
こちらもスケジュール同様、企画書を作る時点で、システム部や開発パートナーと下打ち合わせを済ませており、システム部が相場観を持っている、あるいは概算見積を入手しているのでなければ、最初は埋まらない項目でしょう。
当社でも、お客様が企画段階でご相談頂く際は、予算は未定の場合が多いです。
場合によっては、意図的に隠していることもあります。
どちらにしても、開発の初期費用と、運用費用がかかるということは認識しておいてください。
まとめ
システム企画書について、架空企業の企画を具体例として解説いたしましたが、ご理解頂けたでしょうか。
システム企画書は提示する相手によって、その内容を変える必要があるかもしれません。
外部には非公表な売上・収益、あるいは今後の利益計画。
または、他社との提携によって実現するシステムなどが、それに相当するでしょう。
その場合、外部に対しては数字そのもの・提携先の企業名などは、伏せたうえで公開するのは言うまでもありません。
あるいはNDAを締結済みで、ながらく信頼できる委託先ならば、判断が変わることもあるでしょう。
いずれにせよ、出すもの、出さないものについては慎重に精査してください。
システム開発はけっして安いものではありません。
高額な投資を伴うものですから、綿密に企画を練って、それをブラッシュアップさせ、開発の目的を達成できるようにチャレンジしてください!