公正証書遺言の効力と無効になるケース
ひと口に遺産相続といっても、被相続人の残した遺産を分割、相続するには、金融機関、法務局などでさまざまな手続きを行う必要があります。
特に被相続人が相続人と海外など離れた場所に住んでいる場合や、不動産を遺産としていて、相続人全員が名義変更手続きをしなければならない場合、そのために時間と手間をかけることが難しいといったこともあり得ます。
そうした際、相続人に代わって必要な手続きを行う者がいます。それが、今回ご紹介する「遺言執行者」です。ここでは、遺言執行者の概要、遺言執行者が持つ権利や義務について説明します。
遺言執行者とは?
遺言執行者は、被相続人が亡くなった際、被相続人が記した遺言書の内容を間違いなく実現するためのさまざまな手続きを行う者のことです。
相続人が金融機関や法務局で必要な書類をそろえて手続きを行うことが現実的には難しい(高齢な人がいて印鑑証明をなかなかとってきてくれない等はよくあります)、また相続に非協力的な相続人がいてスムーズに遺産相続が進まないということもあります。
遺言執行者を立てると、相続人にとっては無用な手間が避けられて、待っているだけで登記が終わったりしてとても便利です。
遺言執行者を決める方法は、大きく3つあります。
1つめは、被相続人が遺言書のなかで指名する方法。2つめは、被相続人が遺言書のなかで第三者に決めてもらえるように指示をする方法。3つめが、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう方法です。
なお、遺言執行人に選任された人は、さまざまな事由があって引き受けたくない場合、断ることも可能です。
遺言執行者は、相続人のなかの誰かが選任されるケースが多いですが、弁護士や司法書士、銀行といった相続人以外の第三者が選任されるケースもあります。
遺言執行者がいれば、遺産相続がスムーズに進むメリットがありますが、相続人だけでトラブルなく遺産相続ができるのであれば、必ずしも専任しなくても問題はありません。
また、遺言執行者が選任されていたとしても、任務を怠っている、もしくは解任する正当な事由がある場合は、家庭裁判所に対して解任請求を出すこともできます。
遺言執行者の権利や権限
遺言執行者になった人は、相続財産の管理やその他の遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を有しています。例えば、故人の財産を金融機関から払い戻す場合、通常であれば所定の手続きが必要で、戸籍を集めたり、印鑑証明を出したりといろいろ大変ですが、遺言執行人であれば比較的簡単に払戻請求を行えます。何より遺言執行者はプロでありそれを仕事にしていますので、忙しい相続人に遺産相続の手続きで忙しくさせないという大きな利点(メリット)があります。
特に、相続法改正により、遺言執行者の権限強化・明確化が図られていますので、遺言執行者は預貯金について特定財産承継遺言がなされていれば、その預貯金の払戻し請求と解約申入れができることが明らかになっています。これまで、遺言執行者による預貯金の払戻し請求等はスムーズにできないこともありましたが、今後はその問題もないでしょう。
また、遺言に不動産の遺贈が含まれていた場合、仮に相続人の中に1人でも遺贈に反対する人がいたり連絡が取れない人、印鑑証明を提供してくれない人がいると、不動産の名義変更ができません。しかし、これも遺言執行人がいれば、遺言執行人の権限において、遺贈された人と一緒に登記手続が可能です。
また、遺贈、遺産分割方法の指定、寄付行為については、遺言執行人がいる場合、相続人がその執行を勝手に行うことはできません。仮に、相続人がそれを妨害するような相続財産の処分をしてしまった場合は、すべて無効です。
これらの3つの行為は、遺言執行人がいなければ相続人が行うこともできます。
しかし、認知と推定相続人の廃除、取消、この2点に関しては、遺言執行人だけが執行をできるものであり、相続人が執行することはできません。
そのため、認知と相続人の廃除が遺言書に記載されている場合は、必ず遺言執行人を選任する必要があります。もし、遺言執行者がいないなら家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらわなければなりません。相続人がそういう選任の申し立てをするのは面倒なので、遺言で選任しておきましょう。
遺言執行者の義務(するべきこと)
遺産相続に関して大きな権限を持つ遺言執行人ですが、その分、義務としてやらなくてはならないことも少なくありません。主なものは次のとおりです。
□ 善管注意義務
相続人は相続する財産に関して、自己の財産と同一の注意義務を負います。これに対し遺言執行人は、相続人とは違う立場において自分以外の財産を扱うため、相続人以上の大きな責任が生じます。
□ 直ちに任務を開始する義務
遺言執行人は、選任を受けた時点で直ちに任務を開始する義務があります。相続人の納得する理由なく、任務を先延ばしにすることはできません。
□ 財産目録作成の義務
遺言執行人の任務の中でも、特に早急にやるべき義務が財産目録の作成です。被相続人の財産目録をまとめ、被相続人の財産がどれだけあるのかを相続人に知らせることは、遺言執行人の重要な義務です。
□ 相続人への報告義務
遺言執行人は、財産分与の進展具合に関し相続人から問い合わせがあった場合、速やかに現状の報告をする義務があります。
□ 受取物の引き渡しをする義務
遺言を執行するうえで受け取った金銭、証券、不動産などは遺言執行人の責任のもと、速やかに相続人に引き渡さなければなりません。
最後に、弁護士、司法書士、銀行などの専門家に遺言執行人を依頼した場合、報酬を支払わなくてはなりません。遺言書に報酬が記載されていればその金額を支払いますが、記載がない場合は遺言執行人に選任された人が、家庭裁判所に報酬付与の審判を申し立て、報酬額を決定してもらいます。
特に、遺言執行者をおいておくべき場合
第三者に相続不動産を遺贈する場合(遺贈登記)には、例えば、相続人ではない姪御さんが
別荘をもらったような場合ですが、この別荘の遺贈登記をするには、相続人全員が登記義務者とならなければなりません。そして、全員で司法書士に依頼して名義変更手続きをしなければなりません。
しかし、姪御さんがこのような手続きをしてもらうのは大変ですよね。こういうとき、遺言執行者が選任されていれば、この人のみで登記ができるのでとても便利です。もらった姪御さんだけでなく、他の人にも面倒な手続きが省略できてよいです。
相続人が3人より多かったり、海外にいたり、相続人以外に何かを残してあげたい人がいるとき、慈善団体に何かを寄付してあげたいとき、遺言を残すなら、きちんと遺言執行者を選任し、相続人が死後の時間をあたふたとすごさないでよいようにしてあげるのがよろしいでしょう。