遺言執行者の義務と権限とは?
遺言の必要性が増していますが、遺言書の紛失や偽造など、遺言書にまつわる相続トラブルが増加しています。
あらかじめ公正証書遺言を作成しておくと、こうした相続トラブルを防ぎ、相続人の精神的な負担を軽減できるのですが、公正証書遺言の作成には準備が必要であり、また、必ず「証人」が必要となることを、ご存じでしょうか?
今回は公正証書遺言の証人にはどのような人がなれるのか、また、どのような責任が発生するのか、公正証書作成に必要な書類・費用について解説します。
公正証書遺言の証人とは?
公正証書遺言を作成する際は、遺言者と公証人の他に、2人以上の証人が立ち会うことが定められています。公正証書遺言は、遺言者自身が作成する自筆証書遺言に比べ、高い効力を発揮するのですが、その効力ゆえに、第三者が遺言者に成りすまして偽造するリスクもないわけではありません。
そのようなことになると、正当な相続人は大きな被害を受けることになるので、公正証書遺言においては必ず証人が立ち会い、遺言をする人と公証人のやりとりがきちんと行われたかを見届けることが定められているのです。
証人の責任とは
証人は3つの役割を担っています。
1つ目は、遺言者が遺言書の名義人と同一であることを証明すること、つまり遺言者の人違いはないか確認する役割を担います。
2つ目の役割は、遺言者の精神状態が正常で、自分の意思で遺言内容を口述していることを証明します。
そして3つ目の役割は、公証人の筆記の正確性の承認、つまり、公証人による読み聞かせと遺言者の口述が一致しているかを確認する役割を担います。
証人は、この3つポイントを確認して問題がないと判断した場合は、遺言書に署名・押印します。
公正証書遺言は効力が高いため、証人となる人の責任も重いことが特徴です。上記のポイントに問題があるにも関わらず、証人がその問題を見逃して署名・押印をした場合は、損害を被った相続人などから損害賠償を請求されることもありえます。
また、遺言の有効性が争われ訴訟に発展した場合は、裁判所に出頭して証言を求められることもあります。
証人になるための資格
【証人に適さない人、なれない人】
公正証書遺言の証人になるための資格はありません。しかし、証人になることができない人については定められているので、それ以外の人のみ証人になることができます。
具体的には、次の人は証人になることができません。
・未成年者
・遺言で財産を譲り受ける人とその配偶者および直系血族(親とか子です)
・公証人の配偶者、4親等内の親族
・公証役場の職員など
簡単にまとめると、「未成年者」「家族や親族など利害関係がある人」「公証役場の関係者」は証人になれないということです。
利害関係がない親戚や知人などの中から証人になってもらえそうな人を探す場合は、信頼できる人を慎重に選ばなければなりません。
証人には遺言書の内容をすべて知られてしまうので、証人になれる資格はあっても口が軽い人は適していません。
公正証書遺言の作成にかかる時間
公正証書遺言の作成は、公証役場の開庁時間(平日9:00~17:00)内に事前予約する必要があります。作成にかかる時間は、30分から1時間程度となります。
なお、公正証書遺言の作成の場合、公証役場に提出が必要な下記の書類があり、不動産が多い方は準備時間も必要です。
① 遺言者本人の実印と印鑑証明
② 相続人が誰かがわかる戸籍謄本(相続人が甥、姪などの場合、その続柄が分かる戸籍謄本も)
③ 遺贈を受ける受遺者の住民票・法人の場合は登記簿謄本
④ 本人の財産である不動産の固定資産税納税通知書あるいは固定資産評価証明書
(財産に不動産が含まれていなければ不要です)
⑤ 不動産がある場合のその登記簿謄本
(証書で財産を特定しない場合には不要)
⑥ 証人2人の、住所、職業、氏名、生年月日のわかる資料
⑦ 遺言執行者の特定資料
⑧ 遺言執行者が、相続人又は受遺者でない場合、住所、職業、氏名、生年月日が確認できる資料
遺言書を作成する当日、公正証書遺言の証人は、免許証など本人が確認できる書類と認印を用意します。そして、公証人役場へ行き、公証人が読み上げる遺言の内容と、遺言者の意思を確認します。遺言書の有効性を証明するために、遺言書の原本に署名・押印することで、公正証書遺言として効力を持ちます。
万一、証人としての資格を欠いた人が証人として立ち会った場合、公正証書遺言は無効になります。
また、利害関係がない親戚が証人となって公正証書遺言を作成する場合も注意が必要です。公正証書遺言を作成した後に、実は推定相続人(遺言者が亡くなったとき、法定相続人となる人)だったことが判明することもあり、そうした場合は遺言書が無効になります。
弁護士に証人になってもらう
公正証書遺言の証人となった人は、公証役場で専門家に囲まれて慣れない手続きを行うことになります。また公証人に質問されたときは的確に答える義務があり、前述したように重い責任が発生するので証人になってくれる人が見つからないこともあるでしょう。そのような場合は、公証役場で証人を紹介してもらうことを検討してみましょう。
また、弁護士などの専門家に証人になってもらうこともできます。専門知識を持つ弁護士は、法律により秘密保持義務を負っているので、遺言書の内容が外部に漏れる心配はありません。また、遺言書の内容を決める段階から作成まで、一貫してサポートを受けることもできます。
公正証書遺言作成の費用
公正証書遺言を作成する場合、遺留分や特別利益についても配慮しつつ、どういう遺言なら後のトラブルがないか、公平なのか、確認して作成する必要があります。そのためには、弁護士のアドバイスを受けて作成するのがベストでしょう。
そういった遺言作成サービスの費用は、法律事務所ごとまちまちです。財産が多い方は時間制チャージや一律の金額体系の方がサービスを受けやすいでしょう。1%の料率だと、財産が2億円の方の場合、200万円と高額になってしまうからです。
当事務所では、保有不動産の数や最終案作成までの面談回数により、概ね20万円から50万円でお受けしています(事業承継の検討を含んでいない場合)。また、必要書類の取り寄せについては手数料を頂きます。面談は2から3回程度が通常です。
なお、公正証書遺言作成の場合、その作成を依頼する弁護士への費用以外に、公正証書作成手数料を公証人に支払う必要があるので、この費用がかかります。
この手数料は法律により決められており、全国の公証人役場で一律の料金です。手数料は公正証書に記載する財産の価格によって変わります。たとえば、1億円の財産の方で、妻に5,000万円、子にそれぞれ2,500万円分の不動産を取得させる場合、以下のような金額の合計になります。
妻の5,000万円に対して:29,000円
子の2,500万円に対して:23,000円 × 2
遺言書の枚数によって謄本手数料(3,000から5,000円程度)